Dr. TAIRA のブログII

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Akashi Taira Band

軽症COVID-19から回復した人のウイルス持続性

カテゴリー:感染症とCOVID-19 (2024年)

はじめに

COVID-19 の特徴の一つは、感染後一定の割合で長期症状に移行すること、すなわち長期コロナ症(long COVID)を発症することが挙げられます。長期コロナ症は、急性期の症状の程度に関わらず発症すると言われていますが、一方で、先のブログ記事(→COVIDウイルスの体内持続性は何を意味するのか?)でも紹介したように、急性期の病状の程度が大きく関係しているという報告も出てきました。

長期コロナ症においては、原因病原体である SARS-CoV-2 の持続性が関与していると、以前から言われてきました。症状が長引くほどウイルスが残存し、その量も多いという断片的な証拠が積み上げられてきています。また上記のように、急性期の症状が重いほどウイルスが持続するということも報告されています [1]

今回、軽症のCOVID-19から回復した患者におけるウイルスの持続性、ウイルス排除のタイミング、および長期コロナ症との関係を示した論文が出版されました [2](下図)。軽症患者における長期コロナ症とウイルス持続性を示した先行研究は、これまでありませんでした。ここで紹介します。

1. 研究の背景

COVID-19 感染後の長期コロナ症は、人体の複数の臓器や神経・免疫調節システムに大きな影響を及ぼすことを示唆する証拠が増えています。また、この長期症状にウイルスの持続性が関連している可能性を示す研究も増えています。先のブログ記事(→COVIDウイルスの体内持続性は何を意味するのか?)では、長期症状患者の血漿中にウイルス抗原(スパイク、S1、N抗原)がかなりの頻度で持続していることを示す論文を紹介しました。

しかしながら、様々な臓器や組織におけるウイルスの持続性に関する証拠の多くは、死亡した患者を対象としていたり、パンデミック初期の患者および重症患者を対象としているものが多く、軽症者については情報が欠けていました。長期コロナ症とウイルスの持続性との関係についても、依然として断片的な知見にとどまっています。

今回の研究では、これらの背景に鑑みて、軽症のCOVID-19から回復した後の3つの時点における、多様な組織における SARS-CoV-2 の持続性、および長期コロナ症との関連を調べることを目的として行われました。

2. 研究の概要

研究を行ったのは中国の研究チームです。2022 年 12 月のオミクロン波流行を受けて、北京の中日友好病院の軽症 COVID 患者を対象とする単一施設横断的コホート研究として実施されました。登録対象者は、感染後 1、2、4 ヵ月の時点で、胃カメラ、手術、化学療法を受ける予定の、またはその他の理由で入院治療を予定している軽症患者で、事前に PCR 検査または迅速抗原検査で感染確認されました。

研究チームは、患者の感染後約 1 ヵ月(18~33 日)、2 ヵ月(55~84 日)、4 ヵ月(115~134 日)において、残存手術検体、胃カメラ検体、血液検体を採取しました。SARS-CoV-2 の検出・確認は digital droplet PCR 法のほか、RNA in-situ ハイブリダイザーション、免疫蛍光法、免疫組織化学染色法で行いました。さらにウイルスの持続性と長期コロナ症との関連を評価するため、感染後 4 ヵ月目に電話による追跡調査を行いました。

2023 年 1 月 3 日から 4 月 28 日の間に、225 人の患者から採取された 317 の組織検体(201の残存手術検体、59の胃カメラ検体、57の血液成分検体)が調べられました。その結果、ウイルス RNA は、1 ヵ月目に採取された固形組織検体 53 検体中 16 検体(30%)、2 ヵ月目に採取された 141 検体中 38 検体(27%)、4 ヵ月目に採取された66 検体中 7 検体(11%)から検出されました。

臓器・組織ごとに見ていくと、ウイルス RNA は、肝臓、腎臓、胃、腸、脳、血管、肺、乳房、皮膚、甲状腺を含む 10 種類の固形組織に分布しており、検査した固形組織 61 検体のうち 26 検体(43%)から、サブゲノムが検出されました。感染後2カ月で、免疫不全の患者 9 人のうち 3 人(33%)の血漿、1人(11%)の顆粒球、2人(22%)の末梢血単核球からウイルスRNAが検出されました。一方、免疫機能を有する患者10人では、いずれの血液区画からも、ウイルスは検出されませんでした。

電話アンケートに回答した患者 213 人のうち、72人(34%)が少なくとも 1 つの長期症状を報告し、その中で、疲労(21%、213人中44人)が最も頻度の高い症状でした。回復した患者におけるウイルス RNA の検出は、長期コロナ症の発現と有意に関連しており(オッズ比 5-17)、ウイルスコピー数が多い患者ほど、長期コロナ症を発症する可能性が高いことがわかりました。

3. 解釈と意義

今回の研究では、軽症のCOVID-19から回復した患者を対象として、肺、肝臓、腎臓、胃、腸、脳、乳房、甲状腺、血管、皮膚などさまざまな臓器の固形組織検体中のウイルス核酸の存在を、感染後 3 時点で調べたことに特徴があります。ウイルス検出率は感染後 4 ヵ月で著しく低下し、ヒトの体内ではウイルス排除機構が緩慢ではあるけれでも機能していることが示されました。

一方で、SARS-CoV-2 感染から 2 ヵ月後の免疫不全患者の血漿、顆粒球などの一部からウイルスが検出されたことは、免疫不全患者ではウイルスの排除機構が損なわれていることを示唆しています。最も重要なことは、感染後 4ヵ月でも COVID の症状が続くこと、そしてこれが、SARS-CoV-2 RNAの持続性と関係することが明らかになったことです。

これまでの研究で、感染後 31~359 日目にさまざまな臓器にウイルスが残存していることが報告されていますが、臓器検体という特徴上、これらの研究は主に COVID-19 によって死亡した人の剖検検体を対象として実施されてきました。今回の研究の新規性は、血液や胃カメラ採取検体だけでなく、軽症患者からの多様な手術検体をも対象としてウイルスの持続性を明らかにし、異なる時点のウイルスコピー数を比較することで、ウイルス排除の傾向を示したことにあります。

一方で、研究の限界も述べられています。その一つは、倫理的配慮から、同じ患者を対象として長期にわたってウイルス残存性を追跡することができなかったということです。

ウイルスの持続性と COVID-19 の長期症状との関連性については、宿主の抗ウイルス反応不全がウイルス排除不良につながる可能性や、ウイルスの持続が宿主細胞の機能障害につながる可能性などが考えられます。体内のさまざまな組織組織におけるSARS-CoV-2の持続性は、長期的な免疫異常と関連している可能性も示唆されています。このような機構については今後の研究で検証する必要があるでしょう。

今後の課題として、研究チームは、ウイルスが長期間持続する COVID 集団を特定するためのスクリーニング方法を開発すべきであると述べています。また、ウイルスの持続性は成人だけでなく小児にも存在し、疾患の重症度とは無関係に小児の免疫系に影響を及ぼす可能性があるため、将来的には小児を対象とした研究も検討すべきであると強調しています。さらに、新たな研究の方向性として、長期コロナ症状軽減に対する抗ウイルス薬や免疫療法の効果を検証するために、適切にデザインされた研究が必要であるとしています。

おわりに

長期コロナ症の SARS-CoV-2 の持続性については、急性期の症状の重さが関係しているという論文が出たばかりですが [1]、今回 [2] は軽症患者のウイルス持続性について調べられたことがミソです。ウイルス排除の時期で長期コロナ症の程度が変わってくるし、免疫不全に陥った場合はウイルス排除が遅れ、症状も長引くということになるでしょう。人によっては、軽症から回復しても、1 年以上も長期症状に苦しんでいる場合もあります。この場合のウイルス持続性はどうなっているのでしょうか。

それにしても、従来、COVID-19 の回復を PCR 検査によるウイルス陰性を持って判断していた時期があり、このために鼻咽頭ぬぐい液を検体として使用していました。しかしながら、一部の患者ではウイルスがいろいろな臓器に深く忍び込んでいたことを考えると、全身疾患のCOVID-19を診断するという点においては意味のないものだった可能性があります。臨床診断とPCR検査陰性で回復としていたことは単に急性期の症状がなくなったというだけで、一部の患者では長期症状に移行していて、それが見逃されてきたということを意味します。

そして、感染後時間が経ってからの検査で、たとえ陽性であったとしても、「それはウイルスの残骸を拾っているだけだから意味がない」と主張していた専門家も国内外で多く見られましたが [3, 4, 5, 6]、これも適切な判断ではなかったということになりそうです。

引用文献

[1] Peluso, M. J. et al.: Plasma-based antigen persistence in the post-acute phase of COVID-19。 Lancet Infect. Dis. Published April 08, 2024. https://doi.org/10.1016/S1473-3099(24)00211-1

[2] Zoo, W. et al.: The persistence of SARS-CoV-2 in tissues and its association with long COVID symptoms: a cross-sectional cohort study in China
Published:April 22, 2024. https://doi.org/10.1016/S1473-3099(24)00171-3

[3] 酒井健司:「PCR検査は陽性だが、感染力ない」ってどういうこと. 朝日新聞DIGITAL. 2020.05.11. https://digital.asahi.com/articles/ASN5803SPN57ULBJ01Y.html

[4] Schraer, R.: Coronavirus: Tests 'could be picking up dead virus. BBC. Sept. 5, 2020. 'https://www.bbc.com/news/health-54000629

[5] 日本経済新聞: PCR「陽性」基準値巡り議論、日本は厳しめ? 2020.11.08. https://www.nikkei.com/article/DGXMZO65910480W0A101C2CE0000/

[6] 倉原優: 感染後いつまで新型コロナの検査は「陽性」のままなのか? 陰性確認の検査で「陽性」になる誤算. 2022.10.12. https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/6079d4f5ec854d160829907441e954187dc05397

引用したブログ記事

2024年4月19日 COVIDウイルスの体内持続性は何を意味するのか?

        

カテゴリー:感染症とCOVID-19 (2024年)

COVIDウイルスの体内持続性は何を意味するのか?

カテゴリー:感染症とCOVID-19 (2024年)

はじめに

SARS-CoV-2 に感染した人々は、かなり割合(10% 前後)で長期コロナ症(long COVID)に移行するとされています。長期コロナ症とは、米国疾病予防管理センター(CDC)によれば、COVID-19 に罹患後、数週間、数カ月、あるいは数年にわたり、再発を繰り返したり、新たな健康問題を引き起こしたりするものです。

長期コロナ症の患者は、いわゆる風邪のような急性期の症状の後に、息切れ、倦怠感、疲労感、ブレインフォグ(脳霧)、肉体的な衰えなどの症状を呈し、さまざまな程度の免疫調節障害、臓器や組織の損傷を経験します。

しかし、なぜこのようなことが起こるのか、いろいろな角度から研究がなされていますが、依然としてわからないことが多いです。一つの仮説としては、SARS-CoV-2 が何らかの形や場所で、急性感染後も長期間体内で持続しているのではないかということが提唱されています。

今回、この仮説を後押しするような論文(コレスポンデンス)が発表されました [1]下図)。早速この論文を解説したウェブ記事 [2] も出ています。これらを適宜翻訳しながら、このブログで紹介したいと思います。結論から言えば、SARS-CoV-2 は感染すると、急性期の程度次第で体内で持続しやすく、それが症状の長期化(慢性化)の原因になるということです。このウイルスの特徴の一つと言えるものです。

1. 研究の背景

長期コロナ症の患者は、SARS-CoV-2 の持続的なリザーバーになっているという断片的な証拠はこれまでも提示されてきました。ウイルスが残っていれば、様々な健康障害も出てくるだろうということは当然予想されることです。

多くの先行研究で、長期症状とウイルスRNAの検出との関係が論じられています [例:3, 4]。長期症状患者におけるウイルスの再活性、免疫との関係、様々なタンパクマーカーのレベル上昇も報じられています [5]。ウイルスタンパク断片の再会合によって重篤な症状になる可能性も指摘されています(COVID-19が重篤炎症に至る謎を解く鍵はウイルスの断片)。

しかし、少なくとも SARS-CoV-2 の持続性に関しては、既往研究にいくつかの限界があることも事実でした。たとえば、対象集団が小規模で代表とするには弱いこと、急性感染からの期間が短いこと、ワクチン接種歴や再感染歴の記録が不明確であること、アッセイの特異性を評価するための真の陰性比較対象群が存在しないことなどの限界がありました。

これらの限界に対処するため、今回の研究では、PCRで確定診断された SARS-CoV-2 感染後 14 ヵ月間で、よく特徴づけられた成人 171 人の血漿サンプルについて調査を行っています。

2. 研究の概要

今回の研究は、米カリフォルニア大学やハーバード大学などの共同研究チームによってなされたもので、その成果は Lancet Infectious DIsease に論文掲載されています [1]。ウイルス RNA で陽性とされた患者の血漿サンプルについて、さらに抗原レベルで検出を行ったことが特徴です。

血漿サンプルとして、COVID パンデミック時代に検査された 660 検体(成人 171 人分)を用いました。検出の特異性を理解するために、2020 年以前(パンデミック前)に採取され、定義上 SARS-CoV-2 に感染していない成人 250 人のサンプルと比較しました。これらのサンプルを対象として、Simoa(Quanterix社製)1 分子アレイ検出プラットフォームを用いて、SARS-CoV-2 のスパイク抗原、S1 抗原、およびヌクレオカプシド(N)抗原を測定しました。

分析の結果、パンデミック時代の 660 検体( 171 人分)のうち、42 人(25%)からの 61 検体が、1 つ以上の SARS-CoV-2 抗原を有していました。最も多く検出された抗原はスパイク(n = 33)であり、次いで S1(n = 15)、N(n = 15)となりました。陽性率が 2% であったパンデミック前の参加者のサンプルと比較して、パンデミック時代のサンプルでは、感染後急性期の 3 つのタイムポイントすべてにおいて、いずれかの抗原が検出される頻度が有意に高くなりました。

興味深いことに、急性 COVID-19 で入院を必要とした参加者は、入院しなかった参加者と比較して、ウイルス抗原が検出される可能性が約 2 倍高くなりました。また、入院していない参加者のうち、COVID-19 急性期に自己申告した健康状態が悪かった人ほど、急性期後の抗原検出率が高くなりました。つまり、急性期の病状が重いほど、ウイルスの持続性が高いということです。

これらの所見は、持続的な SARS-CoV-2 リザーバーの確立に、感染急性期が影響することを示唆するものです。SARS-CoV-2 が血流を通じて全身に感染し、一部の部位で保護されたリザーバーを確立する可能性を示唆しています。あるいは、急性感染症がより重症化するのは、一次感染部位への侵入量が多くなり、免疫クリアランスを回避できる可能性が高くなることを示しているかもしれません。

データ解釈への懸念の一つとして、SARS-CoV-2 に対するワクチン接種または最近の再感染が、陽性結果の解釈に影響を及ぼすのではないかということがあります。このため、研究チームは、これらの発生以前に採取された検体を中心に調査しています。ほとんどの検体は、SARS-CoV-2 のデルタ型とオミクロン型が出現する前に採取されたもので、再感染が一般的になった時期でもあります。

今回の SARS-CoV-2 の測定は、免疫(抗原抗体)反応によるものであるため、すべてのシグナルが抗原に特異的であると仮定することはできないという限界に留意する必要があります。今回のサンプルはウイルス RNA の検出で全てチェックされていますが、そこから算出される Simoa 法で記録した特異度は 98% です。この数字は十分に高いですが不完全です。関連病原体や宿主由来の抗原は理論的には交差反応する可能性があり、一般的に特異性がほぼ完全で、シークエンシングによる直接分析物の評価が可能な核酸レベルの検出とは異なります。

要約すると、今回の結果は、SARS-CoV-2が何らかの形や場所で、急性感染後最大 14 ヵ月間持続するという強力な証拠を提示しており、この持続性が急性感染時の事象に影響されることを示唆しています。これらの知見から、SARS-CoV-2の持続性の臨床症状、特に急性感染後の長期症状(例えば、疲労、疼痛、認知障害)あるいは個別の合併症(例えば、心血管系イベント)と因果関係があるかどうかに関して、緊急の研究課題として提起されます。

そして、新規の SARS-CoV-2 感染はすべて長期化(慢性化)する可能性があるという事実が語られています [2]。これは、このウイルスと COVID-19 の最も懸念すべき点です。従来考えられている以上にウイルスの持続性があり、その影響が長引くということです。

おわりに

今回の研究 [1] にもあるように、長期コロナ症においては、ウイルスの持続性が関係しているということはより確実性を持って言えるようになってきました。しかし、様々な疑問もあります。その一つは、急性期の症状が重くてウイルス量が高い場合、それが長期的なリザーバー形成に影響を与えるとしても、急性期の症状に関わりなく長期コロナ症になる人も多いということです。

私の知人は感染時風邪程度の軽症でしたが、後で長期的な障害で苦しんでいます。このように感染時ほとんど無症状でも長期コロナ症になることはよく報告されています。この場合は、ウイルスの持続性はどうなっているのでしょうか?

COVID ワクチンは、長期コロナ症の予防効果を持つことが報告されています [6, 7]。これはワクチンが COVID-19 の発症そのものの予防効果があるために、必然として長期コロナ症の患者も少なくなるということです。ところが、実際の COVID-19 発症者数に対する長期コロナ症患者数の割合を見ると、ワクチン接種者の方が非接種者よりも高くなっています。これはどういうことでしょうか。ワクチン接種者の COVID 発症者は比較的重度の人がカウントされていて、その分長期症状になる人(ウイルスの持続性が高い人)が多いということでしょうか。ワクチンが絡むと状況は複雑になります。

ウイルスのリザーバーがあるとしてもその部位は人によって異なり、それに応じて症状も異なってくるというのも容易に想像されます。長期コロナ症患者の異質性はよく理解されており [5]、どこにウイルスの巣があるのか、それが病状とどのような関係があるのかを明らかにしていくことが課題でしょう。ウイルスの変異体との関係も検討されるべきです。

あと重要なこととして、ウイルスの持続性ということで語られていますが、これは本当にウイルスそのもなのか、あるいはひょっとしてゲノムDNAに組み込まれたウイルスやワクチンの遺伝情報の発現によるものではないのか、念のために確かめておく必要があると思います。どういうわけか、ウイルス RNA やワクチン mRNA の DNA 統合の可能性については無視されたままです。

気になるのが、今回の研究で検出されたウイルス抗原の検出頻度が、N 抗原よりもスパイクの方が高かったことです。このデータはワクチン接種前の話なので、ワクチンの影響は排除できます。そうするとウイルスの影響ということになりますが、DNA に組み込まれた遺伝情報の部分的発現が影響していることはないでしょうか。

引用文献

[1] Peluso, M. J. et al.: Plasma-based antigen persistence in the post-acute phase of COVID-19。 Lancet Infect. Dis. Published April 08, 2024. https://doi.org/10.1016/S1473-3099(24)00211-1

[2] Dayne, J: COVID can quietly linger in your body long after getting sick. What does that mean?  Miami Herald, April 11, 2024. https://www.yahoo.com/news/covid-quietly-linger-body-long-222930491.html?soc_src=social-sh&soc_trk=tw&tsrc=twtr

[3] Proal, A. D. et al.: SARS-CoV-2 reservoir in post-acute sequelae of COVID-19 (PASC). Nat. Immunol. 24, 1616–1627 (2023). https://doi.org/10.1038/s41590-023-01601-2

[4] Zhang, Y. et al: Viral afterlife: SARS-CoV-2 as a reservoir of immunomimetic peptides that reassemble into proinflammatory supramolecular complexes. Proc. Natl. Acad. Sci. USA. 121, e2300644120 (2024). https://doi.org/10.1073/pnas.2300644120

[5] Klein, J. et al. Distinguishing features of Long COVID identified through immune profiling. Nature. Published September 25, 2023. https://doi.org/10.1038/s41586-023-06651-y

[6] Català, M. et al.: The effectiveness of COVID-19 vaccines to prevent long COVID symptoms: staggered cohort study of data from the UK, Spain, and Estonia. 
Lancet Respir. Med. 12, 225-236 (2024). https://doi.org/10.1016/S2213-2600(23)00414-9
[7] Trinh, N. T. H. et al.: Effectiveness of COVID-19 vaccines to prevent long COVID: data from Norway. Lancet Respir. Med. Published April 10, 2024. https://doi.org/10.1016/S2213-2600(24)00082-1

引用したブログ記事

2024年2月3日 COVID-19が重篤炎症に至る謎を解く鍵はウイルスの断片

        

カテゴリー:感染症とCOVID-19 (2024年)

酒に弱い人はコロナに防御的?

カテゴリー:感染症とCOVID-19 (2024年)

はじめに

お酒に弱い人は、コロナ(COVID-19)に対して防御的な体質を持つのではないかという興味深い研究成果が発表されました。この研究は、佐賀大学医学部環境医学分野などに所属する共同研究チームによるもので、Environmental Health and Preventive Medicine 誌に論文掲載されています [1](下図)

「お酒に弱いとコロナに防御的」というのは、どういうことでしょうか。お酒が弱い人はすぐに顔が赤くなりますが(いわゆるアジアンフラッシュ)、これはアルコールの分解時にできるアセトアルデヒドが蓄積するためです。実は、この蓄積したアセトアルデヒドが、コロナに対して防御的に作用するというのが、今回の論文の結論です。

この研究成果は、すでに佐賀大学のプレスリリース [2] および NHK ウェブニュース [3] でも紹介されていますが、このブログでも取り上げてみたいと思います。

1. 研究の背景

アルコールの初期段階の分解代謝には複数の酵素が関わっています。この一つがアルデヒド脱水素酵素2(ALDH2であり、アルコールが分解してできるアセトアルデヒドの分解に関わっています。ALDH2 遺伝子には、人によっては一塩基多型である rs671の変異が見られますが、この変異が入ると作られる成熟タンパク質では Glu487Lys のアミノ酸置換が起こり、主に二量体構造を破壊することによって酵素活性を低下させることになります。

ALDH2 は低濃度でアセトアルデヒド代謝できる唯一の酵素です。そのため、rs671 変異を有する人は、アルコール飲料を摂取した後にアセトアルデヒド血中濃度が上昇し、顔が赤くなったり、頭痛をもよおすなど不快な症状を呈します。このタイプの人は東アジアに多いことから、飲酒時の皮膚の紅潮などの症状は「アジアンフラッシュ」と呼ばれています。日本人の約半数がこれに該当します。

ALDH2 は、ヒトにおいては飲酒に関連する酵素として認識されているのですが、多くの生物種で発現しているため、この酵素の本質的な役割は、他の種類の内因性アルデヒド代謝であると考えられています。たとえば、ホルムアルデヒドと4-ヒドロキシ2-ノネナール(4-HNE)はよく知られた内因性アルデヒドであり、ALDH2 の基質になります。

ホルムアルデヒドは、様々な代謝経路で産生される必須アルデヒドであり、マクロファージ機能の促進や細菌の増殖抑制に関与しています。4-HNEは、脂質過酸化の最終生成物であり、非常に毒性が強く、老化や他の病的状態に関与しているほか、効果的な静菌剤でもあります。

このような知見に基づけば、ALDH2 の rs671 変異が進化的に拡大した理由を示唆しているように思われます。つまり、ALDH2の活性低下は、免疫機能の向上や細菌の増殖抑制に働く物質の産生促進につながり、進化的に理にかなうということです。すでに、疫学研究と動物モデルの両方において、rs671 変異が細菌感染に対して保護的であると報告されていますし、B 細胞やマクロファージを含む様々な免疫細胞のエンドソームや細胞表面に発現している Toll 様受容体9のような、SARS-CoV-2 と共通の免疫学的経路を活性化する可能性があります。

今回の研究では、rs671 変異体が COVID-19 を予防するという仮説を検証することが目的です。飲酒時のアジアンフラッシュ の発生は、約 90 %の精度で rs671 の変異アレルの存在を示すことから、この皮膚紅潮現象を rs671 の変異アレルの代用指標として用いています。

2. 研究の概要

研究チームは、飲酒後の皮膚紅潮と COVID-19 感染の時期について、ウェブベースの後方視的調査を行ないました。すなわち、飲酒後に顔などの皮膚が赤くなる(フラッシャー)、赤くならない(非フラッシャー)かや、COVID-19 感染の有無についてインターネット上でアンケート調査を行ない、フラッシャー 445 人、非フラッシャー 362 人(合計 807 件)の有効回答を得ました。

集計分析の結果、2019 年 12 月 1 日から 2023 年/5月31日の42ヵ月間に、COVID-19を経験したのはフラッシャーで 35.7 %、非フラッシャーで 40.6 %であり、フラッシャーほど発症が遅い傾向がありました。同様に、COVID-19が原因で入院したのは、フラッシャーでは0.5%、非フラッシャーでは2.5%でした、生存分析では、COVID-19およびそれに関連する入院のリスクは、フラッシャーで低くなりました。

日本人の約半数が COVID-19 ワクチンを 2 回接種した 2021 年 8 月 31 日までの 21 ヵ月間を対象とした Cox 比例ハザードモデルでは,性別,年齢,ステロイドの使用,居住地域を調整した結果,COVID-19 発症のハザード比(95%信頼区間)はフラッシャーと非フラッシャーで 0.21(0.10-0.46)と推定されました。つまり、ワクチン完全接種をした人が国内人口の半数ほどにとどまっていた 2021 年 8 月までの期間に絞り込むと、フラッシャーの感染率は、非フラッシャーに比べて、およそ 5 分の 1 にとどまったということになります。

3. 解釈と意義

生物におけるアルデヒドの直接的な静菌作用は、文献上よく知られています。動物においては、内因性ホルムアルデヒドは、正常な条件下でも細菌の増殖を阻害するのに十分な濃度範囲(25 μM 以上)で存在すると報告されています。植物においては。緑葉の揮発性物質は内因性アルデヒドであり、病原体に対する抵抗性を誘導します。

上記の事実は、rs671 の変異対立遺伝子保有者においては、ホルムアルデヒド濃度が高くなり、病原体に対する防御効果が得られる可能性を示しています。また、内因性の 4-HNE は、SARS-CoV-2 感染の制御に重要なオートファジーを促進する可能性があり、さらなるメカニズムが働いていることが考えられます。したがって、rs671 保因者においてはアルデヒド代謝の低下により、内因性アルデヒドの濃度が上昇し、ウイルス抵抗性が生じるという仮説を説明できるかもしれません。

この研究では、フラッシャーの人は、COVID-19に関連した入院が少なくなることがわかりました。この所見は、感染防御特性によりウイルスの侵入が少なくなるため、罹患率の低さと関連する同じメカニズムで部分的に説明できます。さらに、体液性免疫に関する所見から、別のメカニズムの可能性も示唆されます。COVID-19 の重症感染では、抗体分泌細胞の拡大が大きく、高濃度の SARS-CoV-2 特異的中和抗体が早期に産生されることが報告されています。研究チームは、COVID-19 ワクチン接種後の特異的 IgG 抗体濃度が rs671 変異保有者では低いことを見出しました。これらの所見から、rs671 は獲得液性免疫応答の低下、すなわち過剰な免疫応答の抑制と関連している可能性があり、その結果、入院イベントが少なくなることが示唆されます。

おわりに

本研究は、飲酒後のフラッシング現象と COVID-19 の罹患および入院リスクの低下との関連を示唆し、rs671 変異が防御因子であることを示唆したものです。本研究は、感染制御のための貴重な情報を提供するとともに、東アジア人特有の体質が COVID-19 感染率の低さに関わっている可能性を示唆するものです。

思えば、COVIDパンデミック当初、欧米と東アジアで圧倒的な感染率や死亡率の差異があり、ファクターX なるものがそれに関わっているだろうとされました(→COVID-19を巡るアジアと欧米を分ける謎の要因と日本の対策の評価)。その一つはマスク着用率の高さであったわけですが、それに加えて ALDH2 の rs671 変異が加わったように思います。

N 抗体の保有率に基づいて、すでに日本人の 6 割が SARS-CoV-2 に感染していると考えられていますが、ほぼ全員が感染していると言われる欧米に比べると、あきらかに感染の進行が遅いです。マスク着用+ rs671 変異のためと考えれば納得いきますが、それでも昨今の感染対策の緩みのせいで、せっかくのファクター X が生かせてないような気がします。

引用文献

[1] Takashima, S. et al: Asian flush is a potential protective factor against COVID-19: a web-based retrospective survey in Japan. Environ. Health Prev. Med. 29, 14 (2024). https://doi.org/10.1265/ehpm.23-00361

[2] 佐賀大学 Press Releasse: お酒を飲むと顔が赤くなるアジアンフラッシュ体質が新型コロナウイルス感染症に対し防御的であることを報告. 2024.03.26. https://www.saga-u.ac.jp/koho/press/2024032633170

[3] NHK News Web: 酒飲んで赤くなる人はコロナ感染に防御的か 佐賀大研究成果. 2024.03.27. https://www3.nhk.or.jp/lnews/saga/20240327/5080016798.html

引用したブログ記事

2020年5月18日 COVID-19を巡るアジアと欧米を分ける謎の要因と日本の対策の評価

         

カテゴリー:感染症とCOVID-19 (2024年)

A群溶血レンサ球菌感染症の広がりの謎

カテゴリー:感染症とCOVID-19 (2024年)

いま日本では、COVID-19流行もさることながら、A群溶血性レンサ球菌 Streptococcus pyogenes (A群溶連菌)による感染症が広がっています。英ガーディアン紙は、日本のこの出来事を、「希少だが危険な細菌感染症が日本で記録的な勢いで蔓延している謎」という表現で記事にしています [1]下図)。このブログで、この記事を取り上げたいと思います。

A群溶血性レンサ球菌感染症の中でも、最も重度な病態で死に至る可能性のある「レンサ球菌中毒性ショック症候群(streptococcal toxic shock syndrome 、STSS)」が日本で確認されたことで、2024年の患者数は昨年の記録的な数を上回ると予想されています。国立感染症研究所(NIID)は次のように述べています :「劇症型溶血性レンサ球菌のメカニズムについては、まだ未知の要素が多く、説明できる段階にはない」。

感染研が発表した暫定値によると、昨年報告された STSS の症例数は 941 件でした。ところが、今年は最初の 2 ヶ月間で、すでに 378 人の感染者が報告されており、47都道府県のうち、2 つを除くすべての自治体で感染が確認されています。

感染研によると、高齢者ほどリスクが高いと考えられている一方で、A 群株は50歳未満の患者の間でより多くの死亡につながっていると言います。朝日新聞は、2023 年 7 月から 12 月までに STSS と診断された 50 歳未満の 65 人のうち、約 3 分の 1 に当たる 21 人が死亡したことを報じました。

一般的に、STSS は A 群溶連菌によって引き起こされます。主に子供に咽頭炎を引き起こす細菌です。しかし、この細菌は、特に 30 歳以上の成人において、場合によっては重篤な病気や健康合併症、死亡を引き起こす可能性があります。STSSの症例の約 30% は死に至ります。

高齢者は風邪のような症状を経験しますが、まれに症状が悪化し、溶連菌感染症扁桃炎、肺炎、髄膜炎などを引き起こすことがあります。最も深刻な場合、臓器不全や壊死を引き起こすこともあります。

専門家の中には、昨年の感染者の急増は、COVID-19 パンデミック時に実施された規制が解除されたことと関係があると考える人もいます。感染症法の分類変更に伴う規制解除です。

2023 年 5 月、政府は COVID-19 の感染症法上の位置付けを、結核SARS を含む 2 類相当から 5 類に格下げし、法律上は季節性インフルエンザと同等としました。この変更により、地方自治体は、感染者に外出を控えるよう命じたり、入院を勧めたりすることができなくなりました。

日本では、マスク着用、手洗い・手指消毒、3 つの C(いわゆる 3 密)を避けることで、当初は COVID-19 による死亡者数を比較的低く抑えることができましたが、5 類への変更と感染対策の緩和は、人々の警戒心を低下させました。人口が日本の半分強の英国では COVID-19 で 22 万人以上が死亡したのに対し、日本の死亡者は約 10 万人です(記事では約7万3千人となっている)。ただし、英国ではパンデミック初期に死亡が集中しているのに対し、日本ではオミクロン流行以降で 8 割を占めています。

東京女子医科大学の菊池健教授(感染症学)は、重篤な劇症型溶連菌感染症の患者数が今年劇的に増加したことを「非常に懸念している」と述べました。同氏は、COVID-19 の 5 類化が、溶血レンサ球菌感染症増加の最も重要な要因であると考えています。このため、定期的な手指消毒などの基本的な感染予防策を放棄する人が増えたと述べています。

「私の考えでは、50%以上の日本人が SARS-CoV-2 に感染している」と菊池氏はガーディアン紙に語っています。「COVID-19 から回復した後の人々の免疫状態は、いくつかの微生物に対する感受性を変化させるかもしれない。劇症型溶血性レンサ球菌感染症の感染サイクルを明らかにし、早急にコントロールする必要がある」と語っています。

COVID-19のような溶連菌感染症は、飛沫や身体的接触によって伝播します。また、この細菌は手足の傷口からも患者に感染します。

A群溶血性レンサ球菌感染症抗生物質で治療されますが、より重篤な劇症型A群溶血性レンサ球菌感染症の患者は、集中的な治療とともに抗生物質と他の薬剤の併用が必要となる可能性が高くなります。

厚生労働省は、COVID-19 パンデミック時に日常生活の一部となった溶連菌A型に対する基本的な衛生上の予防策をとることを推奨しています。ジャパンタイムズ紙によると、武見敬三厚労相は今年初め、記者団に対し、「指や手を清潔に保ち、咳エチケットを実践するなどの予防措置を取ってほしい」と語りました。

以上が、ガーディアン記事の翻訳を含めた内容ですが、注意しなければならないのは、溶連菌感染症自体は、COVID-19 パンデミック以前から増え続けているということです。個人的には、マクロライド系抗生物質の乱用が耐性菌の増加を促し、溶連菌の菌体表層に存在する病原因子M蛋白をコードする emm 遺伝子の変化(現在80以上の血清型が確認されている)が、溶連菌感染症の増加に関係していると考えています。

そして、COVID-19の5類化と感染対策の緩和が、溶連菌感染症の増加につながっているのは間違いないでしょう。なぜなら、それまで増え続けていた溶連菌感染症患者は、COVIDパンデミックで感染対策が強化された時には、減少に転じていたからです。政府、厚労省による公衆衛生維持の取り組みの緩みは、一般人の感染対策の緩みに繋がっており、スーパーやコンビニなどに置かれているアルコール消毒液で手指消毒する人もあまり見かけなくなりました。

あとは、COVID-19 感染の免疫への影響があります。COVID 感染した人たちがあらゆる感染症にかかりやすくなっていることは論文でも指摘されています。

引用文献

[1] McCurry, J.: Mystery in Japan as dangerous streptococcal infections soar to record levels. Guardian March 15, 2024. https://www.theguardian.com/world/2024/mar/15/japan-streptococcal-infections-rise-details

        

カテゴリー:感染症とCOVID-19 (2024年)

川戸の森問題を考える

カテゴリー:その他の環境問題公園と緑地

はじめに

千葉市にある川戸の森は、長年地域住民や市民に親しまれてきた緑地であり、2016 年には市民緑地に指定されました。市民緑地とは、都市緑地法に基づき、市と土地所有者が契約締結し、300 平方メートル以上の土地に管理計画を作り、自然とのふれあいの場を市民に開放する制度です [1]

ところが、昨年来、この緑地が大きな問題に発展しました。市民緑地の契約が突如解除され、地権者が不動産会社に変わり、土地開発を目的として森が伐採されてしまったからです。伐採跡では宅地工事が進められています(2024年3月現在)。

伐採計画が浮上した昨年の春、地域住民や市民有志の方々は、早速問題提起し、森の存続を訴えてきました(以下 YouTube)が、すでに森の半分の区域が伐採済です。新聞各紙も川戸の森の伐採を取り上げているように、問題の大きさがわかります [2, 3, 4]

www.youtube.com私の専門は生命科学微生物学ですが、大学での在職時から別途昆虫(特にチョウ類)の生態調査を行ってきました。川戸の森についても、2016 年から調査、観察を行ってきましたが、残念ながら森の伐採でそれもできなくなりました。そこでこのブログでは、これまでの調査記録の一部を紹介すると同時に、森の伐採と開発について何が問題かを考えてみたいと思います。

1. 森の概要

川戸の森は千葉市中央区川戸町にあります。森を中心に約 2 ha の緑地が広がっており、西側は大網街道沿いに県がんセンター、大学などが集まる公共施設区域に隣接し、東側に下ると谷津田が広がっていて、支川都川(しせんみやこがわ)を隔てて若葉区に至ります。図 1 に川戸の森および周囲の植生を示します。図中、赤線で囲んだ部分がすでに伐採され、宅地工事が進められています。

図1. 川戸の森の植生(国土地理院の地図に筆者描画).

森は、ブナ科のクヌギやコナラ、カバノキ科のイヌシデなどの落葉樹を中心とする樹木で構成されており、一部にスギ、ヒノキの人工林やマダケ林が見られました。樹木の間にはササ類や多種多様な草本が生え、アオキ、イボタノキ、エゴノキ、ガマズミ、ゴンズイヒサカキタラノキ、ヌルデ、ムラサキシキブなどの灌木が見られました。

私は、特に幼虫段階でエノキ Celtis sinensis を食樹とするチョウ種の生態の調査研究を行っていますので、この森でのエノキの存在にも注目してきました。図 1 に示すように、確認したエノキ高木は少なくとも 6 本存在しますが、大部分は伐採区域にあっため、すでに消失しています。

写真 1 は、No.2 のエノキで、クヌギと主幹が交差する珍しい形状をしていました。撮影は 1 月ですが、周囲の高木が落葉していて、この森が主に落葉広葉樹から構成されていることがよくわかります。

写真1. 川戸の森のエノキ高木(No.2、2020年1月).

写真 2 は、No.1 とNo.6 のエノキを示します。後者は現在唯一残されているエノキ高木です。

写真2. 川戸の森のエノキ高木(No.1 [右] および No.5 [左]、2020年1月).

写真 3 は No.3 のエノキの根元です。落葉が積もり、エノキを食草とするゴマダラチョウ Hestina japonica の幼虫が越冬する場所になっていました(下記)。

写真3. 川戸の森のエノキ高木の根元(No.3 、2020年1月).

写真 4 は 2024 年 2 月現在の森の状態(伐採跡)を示します。ちょうど通りの右側(写真中央あたり)に No.3 のエノキがありました。左側にはまだ残されている樹木があります。

写真4. 川戸の森の伐採後の宅地工事(2024年2月).

2. 昆虫の多様性

私は 2016 年から川戸の森で昆虫(特にチョウ類)の調査を行ってきました。この森で目撃・確認できたチョウ種およびそれらの幼虫段階での食草・食樹を表 1 に一覧します。目撃した種数は 37 種に及び、そのほとんどについて食草の存在・生育も確認できました。比較的狭い範囲でこれだけの種数が見られるということは、この森が豊富で多様な植物を育んでいることを裏付けています。

表1. 川戸の森で確認できたチョウ類およびその食草・食樹

注目に値するのは、千葉市、千葉県のレッドデータとして記載されている重要・要保護生物(凖絶滅危惧種が 6 種含まれていたことです。これらの中には、千葉市レッドリストで消息不明・絶滅とされているアサマイチモンジ Limenitis glorifica も含まれています(写真 5)。私は少なくとも二度本種を目撃しました。森内で見られる食草のスイカズラ Lonicera japonica 幼虫の発生も確認しました。

写真5. アサマイチモンジ(川戸の森、2020年7月).

千葉県の重要保護生物として指定されているオオチャバネセセリ Zinaida pellucida も多数回目撃し、写真に収めることができました(写真 6)。

写真6. オオチャバネセセリ(川戸の森、2020年7月).

千葉県の要保護生物とされているゴマダラチョウは、成虫は写真に撮ることはできませんでしたが、毎冬の越冬幼虫調査で多数の個体を検出できました(写真 7)。特に No.3 のエノキ(写真 3)は毎年 20 頭前後を産出してきました。

写真7. ゴマダラチョウの越冬幼虫(川戸の森、2021年1月).

エノキ下の落葉は、チョウの幼虫以外にも様々な昆虫の越冬場所になっていて、アカスジキンカメムシ、エサキモンキツノカメムシ写真 8)、ヘリカメムシ類などのカメムシの仲間、クビキリギリスなどが見られたほか、頻繁にワカバグモが検出されました。ワカバグモが見られるということは、昆虫の越冬場所として良い状態を意味します。

写真8. エノキ根元の落ち葉から出てきたエサキモンキツノカメムシ(川戸の森、2021年1月).

エノキ高木は図 1  に示すように、伐採された区域に集中していたため、今は 1 本(No.1)を除いて、消失しました。この 1 本は車道の近くにあって環境が悪く、これまでゴマダラチョウを検出したことはありません。したがって、この森では、伐採に伴ってゴマダラチョウが消失したのみならず、幼虫段階でエノキを食べるヒオドシチョウ Nymphalis xanthomelas テングチョウ Libythea celtis も絶滅したと考えられます。

エノキの幼木はまだありますが、より高木が必要な在来チョウ種の生息を支えるのは不可能でしょう。残されるとすれば、エノキ幼木を好む特定外来生物アカボシゴマダラ Hestina assimilis assimilis だけと思われます。

森は半分が消失しましたので、他の昆虫にとっても大打撃と思われます。おそらく東側の急斜面の緑を残してさらに伐採が進むでしょう。ブナ科樹木を食樹とする要保護生物アカシジミ Japonica luteaミズイロオナガシジミ Antigius attilia もおそらく絶滅状態だと思います。

3. 谷津の環境とオオムラサキ

千葉市はたくさんの谷津田を持つことが特徴です。谷津田とは、台地あるいは丘陵地が小河川によって開析されて生成した浅い谷(谷津)の底部が稲作地となったもので、周囲には雑木林が広がっています。中央区の一部にも谷津田があります。千葉市谷津田の自然の保全施策指針を公表しています [5]

谷津田周辺の雑木林には、林縁に沿ってエノキ高木が点在しており、これを食樹とする国蝶オオムラサキ Sasakia charonda の生息を支えています。中央区では、これまで少なくとも川戸、花輪、赤井、生実の各町でオオムラサキの発生を確認してきました(ちなみに川戸の森での目撃はなし)。

オオムラサキは年一回の発生であり、6-7 月頃に羽化した成虫がすぐに産卵を始めます。夏に生まれた幼虫は 4 齢まで成長し、晩秋〜初冬にエノキ根元に降りて、落葉下で越冬します(写真9)。

オオムラサキの越冬幼虫は、適度な温度と湿気を要求しますので、森が伐採されて日射量が増え、風通しがよくなって乾燥化が進むと、生きられなくなります。また成虫は、樹液などからエネルギー確保しますので、樹液量が豊富なクヌギやコナラを中心とする雑木林が伐採されるとそれが困難になります。さらに、成虫は林縁を飛ぶ習性があるので、伐採で森が分断されると、狭い空間に閉じ込められることになり、遺伝的多様性を保てず、絶滅していきます。

このように、オオムラサキの生息は自然環境が保全されているか、里山・里地としての谷津田と周囲環境のバランスがれているかどうかのよい指標になるわけです。川戸町でも数年前までは、雑木林が結構残っていて、オオムラサキの成虫や越冬幼虫が見られました(写真 9)。

写真9. オオムラサキの越冬幼虫(中央区川戸町、2016年1月).

しかし、2017 年以降、川戸町および周辺地域ではオオムラサキはほとんど見られなくなり、ほぼ絶滅状態と考えられます。ゴマダラチョウも急激に個体数を減らしつつあります。

3. 森の伐採

川戸の森に限らず、千葉市中央区では、ここ数年森の伐採が急速に進んでいます。多くは施設・宅地化、ソーラー発電など土地開発目的であり、環境保全(防犯上見通しをよくする、落葉対策など)という名の伐採もあります。

写真 10 は、数年前の川戸町内の雑木林の伐採の様子を示したものです。

写真10. 森の伐採(中央区川戸町、2020年1月).

写真 11 は、赤井町の伐採の様子です。ここは昨年までわずかにオオムラサキがいました。

写真11. 森の伐採(中央区赤井町、2024年2月).

エノキ高木も次々と伐採されています(写真 12)。多くは落葉が邪魔、見通しをよくするという理由での伐採と思われます。

写真12. エノキ高木の伐採(中央区二戸名町、2024年2月).

写真 13 は、2020 年 1 月の撮影で、中央区川戸町と若葉区大宮町の境を流れる支川都川を示しますここは谷津、谷津田の構造になっています。

写真13. 支川都川(中央区若葉区の境、2020年1月).

写真 14 は、現在の同じ場所を示します。ほとんど変わっていないように見えますが、谷津にソーラーバネルが設置され、雑木林との境に生えていたエノキ、カワヤナギなどの多くの樹木が伐採されています。

写真14. 支川都川(中央区若葉区の境、2024年2月).

千葉市中央区および周辺では、市街地と谷津、谷津田が隣接し、商業地域と里地、自然が共存する環境が長い間保たれてきました。しかし、市街地近辺という宿命で、その地理的特徴が、急速に失われていこうとしています。地理的構造は少し違いますが、東京 23 区やさいたま市が辿った自然消失の運命を、今千葉市が辿ろうとしています。

4. 何が問題か

川戸の森問題には、市民緑地に関わる三つの考慮すべきポイントがあると個人的に考えています。一つ目は、緑地の生態系サービスに関わる環境公共財としての位置付けであり、二つ目はそれを維持するための行政の役割、そして三つ目は管理者、地権者、市域住民の情報共有化と連携です今回はこれらの点で、認識の欠如、手続きのまずさ、制度上、管理上の不備があったように思います。

生態系サービスとは、自然環境から得られる生物多様性、食料、水、空気、風、気温、景観、レクリエーションの時空間などの恩恵を言い、自然資本から発生するフローのことを指します [6]。教育、文化、芸術の豊かさの形成にも多大な影響を与えるものです。経済活動に直結するもののほか、お金に代えられない恩恵も多々あります。

ある程度の規模の緑地になると、地域に風量、日射量、気温、湿気などの物理的影響を及ぼします(いわゆるクールアイランド機能や保水機能を含む)。地域住民はそれらの日常的な影響と景観の下で、それらを当たり前のこととして生活することになり、さらにレクリエーション、憩いの場として利活用することにもなります。そこでの生活が長ければ長いほど、人々は人生と緑との歴史を共有することになるのです。

他の先進諸国では公共財としての緑地の価値を最大限に認識し、それだからこそ、たとえ私有地であっても、法的な手続きの瑕疵はなくとも、安易に現状変更しないという取り組みを積極的に行っているわけです。緑地の価値と重要性は、気候変動、地球温暖化生物多様性の損失の時代に突入した今、ますます高まっています。

環境省は、生態系サービスに基づいた企業などのネイチャーポジティヴ経営ガイドラインを策定しています [6]。ネイチャーポジティブとは、2021 年 5 月の G7 首脳サミットコミュニケ付属文書において言及された、2030 年までに生物多様性の損失を止めて反転させるという自然再興の概念です。

今回の件で言えば、川戸の森の公共財としての認識およびネイチャーポジティブ経営の認識が、当事者に欠落していたと言えます。川戸の森の伐採計画における開発業者による事前の委託環境調査報告書 [7] では、164種の植物といくつかの鳥類の生息が記載されており、これを読めば、伐採などとてもできないと思えるのですが、報告書の結論は「問題ない」となっています。単に開発を進めるのための手続きとして、一応調査報告を行ったという以上のものではないことがわかります。

結果として、市は市民緑地の理念と目的をあっさり放棄し、開発業者は一昔前の 20 世紀型の経済概念で開発を進めたということです。今は気候変動の時代なのです。一度失われた歴史や公共財は、金では戻せず、代替することも不可能であり、環境をより悪化させるだけです。地域住民は、これから従来以上の酷暑の夏を経験することになるでしょう。

行政の関わりで言えば、市民緑地の制度上の不備が緑地の維持を困難にしています。千葉市内でも、この 10 年で 4 カ所が契約解除に至っている [3] ということからもわかります。この制度には、基本的に、自治体長の承認なしに契約の変更または解除をすることができない旨の定めが必要ですが、現状では土地所有者の固定資産税・都市計画税の全額免除という利点はあるものの、相続対策などで売却が必要となった場合、契約解除の正当な理由になるというのがネックです。

千葉市の神谷俊一市長は、昨年の 6 月 2 日の定例会見で川戸の森の問題に触れ、「市街化区域の緑地をどう保全していくのか、これまでの制度でよいのか検証する必要がある」と述べました [3] が、遅すぎるように思います。全国的に、市民緑地制度を発足する前提として、整備しておく必要があったと思われます。緑地をより長く保全・管理する「特別緑地保全地区」制度の活用、公費での買取、寄付の促進、はたまた関連法改正への働きかけなど、行政はより積極的な取り組んでいく必要があるでしょう。

市民緑地の実際の運用上の管理者は様々ですが、千葉市の場合、主に地域の市民団体です。緑地の生態系サービス、公共財としての価値という面から、管理者、行政、土地所有者、地域住民、市民が、日頃から情報共有化しておくことが肝要です(特に管理者と土地所有者との連携は重要)。川戸の森で言えば、この共有化(森の価値は何か)と連携が弱かったことは否めないのではないでしょうか。

日本は「緑地は公共財」の認識がきわめて弱く、緑の先進国に大きく立ち遅れています。しかし、緑地が次々と消失することで損をするのは、結局、その生態系サービスを享受していた市民なのです。

おわりに

開発業者は、森の一部を市に寄付するようです [8, 9, 10] が、寄付対象は急斜面で開発が困難な森の東側であり、経済性の面だけで考えた措置だと考えられます。もとより、森の半分強が失われた時点で、森の機能と価値は失われていると言えます。

私は今年の夏、失われたその機能と価値を確かめることになりそうです。わずかに残された緑地に、今まで目撃できていた昆虫が果たして生息しているでしょうか。

引用文献・記事

[1] 千葉市: 市民緑地. 2024.02.24更新. https://www.city.chiba.jp/toshi/koenryokuchi/kanri/shiminryokuchi.html

[2] 中谷秀樹: 川戸の森「廃止」利用者ら60人語り合う「地権者に感謝」「急過ぎ、早く周知を」. 東京新聞Web. 2023.05.30. https://www.tokyo-np.co.jp/article/253293

[3] 宮坂奈津 重政紀元: ずっとあると思った市街地の「森」市民に開放するための制度の盲点. 朝日新聞デジタル. 2023.06.29. https://www.asahi.com/articles/ASR6Q41JSR5ZUDCB00T.html

[4] 中谷秀樹: 千葉市の「川戸の森」宅地開発問題 慎重派、事業者 溝埋まらず. 東京新聞Web. 2023.07.31. https://www.tokyo-np.co.jp/article/266689

[5] 千葉市: 谷津田等の保全に関する情報. 2022.07.13更新. https://www.city.chiba.jp/kankyo/kankyohozen/hozen/shizen/sizen_yatuda.html

[6] 環境省: 生物多様性民間参画ガイドライン(第3版)-ネイチャーポジティブ経営に向けて. 2023.03. -https://www.env.go.jp/content/000125803.pdf

[7] 株式会社PCER: 千葉市中央区環境調査報告書. 2023.09. https://takusho.co.jp/pdf/info/info-001.pdf

[8] 千葉日報: 旧「川戸の森」一部寄付で合意 不動産開発会社と千葉市 市民に開放へ. 2024.03.02. https://www.chibanippo.co.jp/news/local/1169859

[9] 加藤豊大: 川戸の森」の森林 千葉市に一部寄付 事業者が覚書
東京新聞WEB. 2024.03.04. https://www.tokyo-np.co.jp/article/312924

[10] 千葉市: 旧川戸の森」一部区域の緑地の寄附に関して、覚書を締結しました. 2024.03.08. https://www.city.chiba.jp/toshi/koenryokuchi/kanri/ryokuchikifu.html

        

カテゴリー:その他の環境問題公園と緑地

子どものCOVID感染がオミクロン以降増えた理由

カテゴリー:感染症とCOVID-19 (2024年)

はじめに

COVID-19 パンデミックが始まった当初、原因ウイルスである SARS-CoV-2 の感染は、子どもより大人の方が起こりやすいことが世界中で報告されました。これは、インフルエンザが子どもが罹りやすいのと対照的です。

これに関して2021年には、東北大学押谷仁教授を責任著者とするグループが論文を出版し、COVID-19では子どもの患者が大人に比べて少ないことから、学級閉鎖などの対策は慎重になるべきと主張しました [1](→子どもが感染を拡大させる。この主張は、ひょっとしたら、その後の学校の感染対策に影響したのではないかと個人的には思います。

しかし、SARS-CoV-2は変異を起こしやすく、組換えによる著しい変化も生じることがあるウイルスです。一つの変異体のデータに基づいて、ウイルスの病毒性や感染性を固定化して述べることは危険なことです。

デルタ波流行までと比べて、オミクロン変異体が現れた第6波以降では、子どもの感染は急増しました。案の定、それまでの常識が通じなくなったのです。オミクロン変異体では、細胞内侵入に必要な宿主の膜貫通型タンパク質分解酵素 TMPRSS2(テンプレス2)への要求性が低下するように変異していました。これが、一般に大人と比べてテンプレス2の発現が低い子どもでも感染できる要因である、という仮説が生まれました。

今回、鳥取大学の研究チームは、分離したオミクロン株が、デルタ株と比較して、テンプレス2に依存することなく増殖できることを、メドアーカイヴに報告しました [2]。これまでの推測を補強するものです。まだプレプリント段階ですが、ここで紹介したいと思います。

1. 研究の背景ーテンプレス2とは

SARS-CoV-2 の感染は、まず、ウイルス表面にある突起構造であるスパイクタンパク質が、宿主細胞の表面に存在する受容体タンパク質(ACE2 受容体)に結合することで始まります。この後、ウイルス外膜と細胞膜の融合が起こって、細胞内にゲノム RNA が放出されるわけですが、そのためには、ウイルスのスパイクタンパク質がプロテアーゼで切断され(開裂され)、活性化される必要があります。

スパイクタンパク質は、S1 と S2 のサブユニットで構成されており、先っぽにあるS1 が受容体であるACE2受容体に結合します。S1 と S2 はタンパク分解酵素フーリンで切断され、そして、根元側にあるもう一方の S2 がさらにテンプレス2で切断されることによって膜融合が進行します。パンデミックが始まってからすぐに、SARS-CoV-2の感染には ACE2 とテンプレス2が気道細胞において必須であると報告され、このプロテアーゼによる分解を受けないと膜融合能を獲得できないとされました。

事実、デルタ波の時期まで流行していた SARS-CoV-2 は、細胞侵入にテンプレス2を効率よく利用していました。実際、テンプレス2を発現した細胞で、効率よくウイルス分離できることが報告されています [3]

しかし、オミクロン変異体ではスパイクタンパク質に変異が起こり、テンプレス2を介在させなくとも細胞侵入の効率が低下せず、 もう一つの侵入経路であるエンドサイトーシスを介した細胞侵入が起こることがわかりました [4, 5]。この経路では、S2 の切断はカテプシンLが担っています (図1)。

図1. SARS-CoV-2の細胞内侵入の機構(左:エンドサイトーシス経路、右:膜融合経路). 文献 [5] より転載.

子どもの気道細胞におけるテンプレス2の発現は、成人に比べて低いことが知られています。 したがって、オミクロン変異体ではテンプレス2の利用可能性が低下しているわけですから、子どもの感染者が増加につながったという仮説が成り立ちます [6]

今回の研究は、国内の分離株を用いた実験により、この仮説を支持するものです。

2. 研究の概要

研究チームは、オミクロン波発生直後に子どものCOVID-19患者が急増した原因を検討するために、日本の1都市内の2病院を受診した患者からデルタ型とオミクロン型のウイルスを分離し、これら両型の分離株の増殖に必要なテンプレス2のレベルを、培養細胞(Vero細胞)を用いて評価しました。

分離したデルタ株では、この変異体の特徴である スパイクタンパク質の P681R 変異が見られました。一方、オミクロン分離株は、H655Y、N679K、P681H をこの変異型の特徴としてもっていました。

デルタ分離株の増殖特性を調べたところ、テンプレス2陽性の Vero 細胞の培養では完全に増殖しましたが、この酵素が陰性の Vero 40 細胞の培養では増殖しませんでした。テンプレス2の機能に対するデルタ型変異体特有の依存性は、モデル研究で推定されてきましたが、今回の流行株でも見られたということになります。

一方、オミクロン分離株は、テンプレス2の発現に関わらず、Vero 細胞での複製能力は変わりませんでした。 オミクロン株には、分離源の患者の年齢による明らかな選択性も見られませんでした。

解読した分離株のゲノム配列について Blast 検索を行った結果、各菌株は海外分離株と高い相同性(99.5%以上)があり、輸入株が変異することなく調査地域に拡散したことが示唆されました。 S2 切断に影響するスパイクタンパク質の主要アミノ酸のプロファイルは、報告されているものと同一でした。 したがって、他で報告されているデルタおよびオミクロン変異体の性質は、本研究の株にも適用可能であると推定されます。

以上の結果より、オミクロン変異体は、テンプレス2に依存しない S2 開裂という性質により、呼吸器上皮表面のテンプレス2発現が低い状態でも容易に増殖し、小児の間で流行することが可能であると考えられました。

テンプレス2依存性のデルタ変異体は、気道におけるテンプレス2の発現が低い子どもにはほとんど感染していませんでした。一方、オミクロン変異体におけるテンプレス2非依存性は、成人および小児由来の株にも当てはまり、現在までのオミクロン流行における子どもの患者増大につながっていると考えられます。

おわりに

SARS-CoV-2 は、細胞内侵入に ACE2 を使用し、一つの機構として、ウイルス外膜と宿主細胞膜の融合を起こすことで侵入します。このためには、ACE2 受容体へ結合したあとに、フーリンによるS1とS2 の開裂が起こり、さらにS2がテンプレス2で切断され、活性化されることが必要です。

従来、この細胞内侵入機構が、デルタとオミクロン変異体では異なることが示されてきたわけですが、今回の研究で国内の分離株を用いて実際それが証明されました。そして、オミクロン変異体がテンプレス2非依存の増殖能をもつことで、一般にこの酵素の発現が低い子どもにおいても、感染が可能であるという従来の仮説が支持されたことになります。

ここで気になるのが、冒頭で挙げた押谷教授が主導した「子どものCOVID感染率は大人に比べて低い」という論文です [1]。この古い情報がアップデートされないまま、政府や保健当局のCOVID感染対策に影響を与え、子どもや学校での感染は大したことはない、無視してもよい、という方針になったのではないかという懸念が、どうしてもあります。

文部科学省の方針で、学校では「マスク着用を求めない」ことが基本となりました。この基本方針がある限り、さまざまな後付け対策が言われても感染対策は無に等しいです。結果として、子どもの健康被害が拡大し、学級閉鎖、学年閉鎖、休校が続出し、貴重な学びの機会が奪われています。文科省の責任はきわめて重いです。

引用文献

[1] Imamura, T. et al.: Roles of children and adolescents in COVID-19 transmission in the community: A retrospective analysis of nationwide data in Japan. Front. Pediatr. 9, Published: August 10, 2021. https://doi.org/10.3389/fped.2021.705882

[2] Kakee, S. et al.: Difference in TMPRSS2 usage by Delta and Omicron variants of SARS-CoV-2: Implication for a sudden increase among children. medRxiv Posted February 14, 2024. https://doi.org/10.1101/2024.02.13.24302758

[3] Matsuyama, S. et al.: Enhanced isolation of SARS-CoV-2 by TMPRSS2-expressing cells. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 117, 7001-7003 (2020). https://doi.org/10.1073/pnas.2002589117

[4] Meng. B. et  al.: Altered TMPRSS2 usage by SARS-CoV-2 Omicron impacts  infectivity and fusogenicity.  Nature 603, 706-714 (2022). https://doi.org/10.1038/s41586-022-04474-x

[5] Jackson, C. B. et al.: Mechanisms of SARS-CoV-2 entry into cells. Nat. Rev. Mol. Cell. Biol. 23, 3-20 (2022). https://doi.org/10.1038/s41580-021-00418-x

[6] Schuler, B. A. et al.: Age-determined expression of priming protease TMPRSS2 and localization of SARS-CoV-2 in lung epithelium. J. Clin. Invest.  131, e140766 (2021). https://doi.org/10.1172/JCI140766

引用したブログ記事

2023年6月3日 子どもが感染を拡大させる

            

カテゴリー:感染症とCOVID-19 (2024年)

コロナ禍で反ワクチン論にハマった人の政治的傾向

カテゴリー:感染症とCOVID-19 (2024年)

はじめに

COVID-19パンデミックでは、人類史上初の mRNA ワクチンが緊急承認され、世界各国で国策としてのワクチン接種プログラムが実施されました。原因病原体であるSARS-CoV-2は、自然感染とワクチン獲得免疫を逃避するかのように変異を繰り返しており、ブレイクスルー感染に対応したワクチン開発とブースター接種は今なお行なわれています。

それとともに、顕著になったのが反ワクチン派の声です。単なる反ワクチンと mRNA COVID-19 ワクチン批判は分けて考えなければいけませんが、しばしば一括りにされてしまう傾向にあります。mRNA ワクチンは、抗原を注射して抗体を獲得するという従来のワクチンではありません。すなわち、抗原をコードした指令書(mRNA)を脂質ナノ粒子に包んで体内に導入し、宿主自身にワクチン(抗原)をつくらせるというものです。その意味で、厳密には、ワクチンではなく mRNA 型生物製剤と呼ぶべきでしょう。

今回、SNS上で反映されたワクチン反対派の社会的、政治的傾向を分析した論文が発表されました。東京大学大学院工学系研究科の鳥海不二夫教授らによる共同研究の成果です [1](下図)。研究チームは、旧ツイッターに投稿された、ワクチン関連の大量の文章を機械学習で分析し、コロナ禍以前からの反ワクチン派と新たにワクチン反対になる人の特徴を明らかにしました。

結論から言えば、コロナ禍以前からの反ワクチン派は、リベラル・左派政党とのつながりが強い、政治的関心が高い人々で構成されているというものです。一方、パンデミック下で初めてワクチン反対派になった人々は政治的関心度は低く、陰謀論スピリチュアリティ自然派食品や代替医療への関心が強い傾向にありました。

今回の研究成果は大学からプレリリースされており [2]、概要はそれを見れば理解できます。ここでは、特に論文が触れていない重要な点を指摘しながら、この研究の意義と限界を述べたいと思います。

1. 研究の概要

本研究は、2021年1月から12月までに投稿されたツイートについて、「ワクチン」という言葉を含む約 1 億件を収集し、機械学習を用いて「ワクチン肯定」「ワクチン政策批判」「反ワクチン」のクラスターを特定化しました。そして、第一に反ワクチン派の特徴を記し、第二に、パンデミック以前からの反ワクチン派とそれ以降に新たな反対派の比較分析で、新規にワクチン反対派になる「きっかけ」を分析しました。最後に、政党やその党首のアカウントのフォロー率を分析することで、新規にワクチン反対派になったユーザの政治的特徴や反ワクチン政党である参政党への傾倒を明らかにしました。

1-1. 反ワクチン派の記述的特徴

研究チームは、まず、反ワクチン派とワクチン肯定派の記述的特徴を分析しました。この分析では、反ワクチンインフルエンサーについて、反ワクチン情報を拡散し、10,000人以上のフォロワーを持ち、1000回以上リツイートされた投稿を持つアカウントと定義しました。

分析の結果、ツイッターの利用初期に反ワクチンインフルエンサーをフォローしている人は、反ワクチン態度を維持する可能性が高いことがわかりました。これらの特徴には、2つの傾向が見られました。一つは、反ワクチン情報を収集する目的でツイッターを使い始めた人は、一貫して反ワクチンであるということです。もう一つは、使用初期に何らかの理由で反ワクチンのインフルエンサーをフォローすることで、そのインフルエンサーに感化され、反ワクチンの態度を持続的に持つようになるという傾向が見られました。

加えて 反ワクチン群は、政治、日本、日本共産党原発、民主主義など、政治に関連する用語の使用が多いことで特徴付けられました。このような政治への関心の高さは、世界的な大流行によって、反ワクチンが政治化したことを示す先行研究と一致しています。

一方、ワクチン肯定に分類される群の最も多い特徴は、ゲームやアニメのような文化的人工物への嗜好性が高いということであり、政治的なキーワードは希薄でした。これらのアカウントは、投稿やリツイートを通じてワクチンについても言及しているものの、ゲームやアニメへの個人的な関心が圧倒的に高く、SNS が趣味のプラットフォームとして機能していることがわかりました。つまり、個人的趣味としてツイッターを利用している人は、反ワクチン的な態度を持つ可能性は低いものでした。

1-2. 反ワクチン継続者と新規反ワクチン派との比較

次に、2020年1月に反ワクチン群に属し、2021年12月もこの分類を維持している人々(N=12,999)を HH 群としました。同様に、2020年1月時点ではワクチン肯定であったものの、2021年12月に反ワクチンに転換した人(N=1921)を LH 群としました。この分析の目的は、パンデミック発生後に、反ワクチンのスタンスに切り替えた人々の特徴を捉えることです。

HH 群と LH 群に見られる 43% を占める最大のクラスターは、陰謀論、健康不安、スピリチュアルな言説、自然主義的言説に関連する言葉で特徴付けられました。このクラスターは、また、健康、免疫、ダイエットといった用語が示すように、スピリチュアルや自然主義に傾倒する健康志向クラスターと解釈できます。さらに、このクラスターには、政治的言説が登場しないことでも特徴付けられました。

二番目に大きいクラスターは強い左派的特徴を示していました(左派クラスターと呼称)。プロフィールの文章には左派政党「れいわ新撰組」とその代表である山本太郎氏が頻繁に登場し、安倍晋三元首相とその政権に対する批判や「維新」のような右派政党に対する敵意を表していました。

三番目のクラスターは、原発反対、福島の放射能汚染への懸念、反戦感情、沖縄米軍基地問題日本共産党への支持など、典型的な左派政党が支持する問題への関心の高さを示していました(左派問題クラスターと呼称)。二番目と三番目のクラスターの違いとしては、前者が主に政党や指導者に言及しているのに対し、後者は左翼イデオロギーに沿った問題に焦点を当てていることです。

第四のクラスターは右派クラスターと思われますが、原文を直訳しても、その意味に整合性がありませんでした。以下に、私の翻訳と原文を示します。

対照的に第四のクラスターは、「反日」勢力、保守主義天皇、日の丸、右派政治家に対する敵意を表明しており、保守的イデオロギーを持つ右派クラスターを反映している。

(原文) The fourth cluster, in contrast, expresses hostility toward “anti-Japanese” forces, conservatism, the emperor, the Japanese flag, and rightist politicians, reflecting a rightist cluster with conservative ideology.

HH 群と LH 群とでは、クラスター構成員のパターンにやや違いがありました。HH 群では、陰謀論・スピリチュアル・自然主義クラスターに37.8%、左派クラスターに31.3%、左派問題クラスターに 11.3% が属しており、右派的傾向は 8.5% とわずかでした。一方、LH 群では、第一クラスターが圧倒的に多く(82.7%)、左派クラスターは 10% でした。

この結果は、HH 群の多くが左派的政治イデオロギーをもつことを示唆しています。一方、パンデミック後に新たに出現した反ワクチン派は、陰謀論、スピリチュアル、自然主義に強い傾倒を持っていることを表しています。このように、HH 群の政治的スタンスは LH 群よりも明確ですが、同時に陰謀論やスピリチュアル/自然主義的言説への傾斜も顕著であるということです。

1-3. 反ワクチン政党の国政進出

最後に、ツイッター上での反ワクチン意識の浸透が、反ワクチン新興政党である参政党の躍進に寄与したかどうかを検証しました。

ワクチン接種に反対し続けた HH 群は、パンデミックの間、立憲民主党、れいわ、日本共産党のようなリベラル・左派政党を支持する傾向が強かったことを示していましたが、このパターンは比較的一貫しており、2022年3月から9月にかけて参政党への支持はわずかに上昇した程度でした。

対照的に、新たな反ワクチン派である LH 群は、著名な政治家や主要政党を支持する傾向は弱まりしたが、例外的に参政党を支持が多くなりました。2022年3月にはすでに13%が参政党またはそのリーダーをフォローしていましたが、9月にはそれが24%に上昇しました。

参政党は、反ワクチン言説を選挙キャンペーンの中心に据えた政党です。このキャンペーンは、既存の反ワクチン有権者(HH 群)の支持を得ることに部分的に成功しましたが、それ以上に、パンデミック後に反ワクチン意識を持った新たな反ワクチン層(LH群)の支持を迅速に得る結果になりました。一方、永続的な反ワクチン論者は、既存のリベラル政党や保守政党への支持が高いため、参政党への移行は限定的でした。

パンデミック以前に政治的関心が薄く、既成政党との結びつきも弱かったけれども、健康、スピリチュアル、陰謀論に以前から関心があった個人は、参政党の選挙活動を好意的に受け止めた可能性が高いと考えられます。

2. 研究結果の解釈と意義

COVID-19パンデミックとワクチン接種の広範な推進は、反ワクチン感情の広がりを早めており、ソーシャルメディアの広範な利用がそれを促進しています。これまでの研究では、ワクチン接種に反対する人々の特徴については明らかにされてきましたが、人々がそのような意見を採用するようになる要因についてはほとんど検討されてきませんでした。その意味で、本研究では、日本のツイッター上の反ワクチン言説を縦断的に分析し、反ワクチン派への傾倒・変容の要因を明らかにした点で価値があります。

第一の知見として、根強い反ワクチン派は、ワクチンに好意的関心のあるツイッターユーザーよりも政治的関心が強いことが挙げられます。特に、大部分が左派的傾向にあることが特徴であり、立憲民主党日本共産党、れいわ新撰組など、既存のリベラル・左派政党や政治家を支持する傾向がありました。その立ち位置から政治的な言葉が発信しています。これは、非反ワクチン派が、ワクチンについてツイート/リツイートする一方で、主にゲームやアニメといった私的な趣味領域に関心を持っていることと対照的です。

反ワクチン派は、パンデミック以前から一貫して反ワクチンだったユーザーと、パンデミック後に反ワクチンに転じたユーザーでは少し政治的態度が異なります。前者はツイッター利用の初期段階で反ワクチンのインフルエンサーをフォローしており、もともとワクチンに関心があり、ツイッター上でより社会的影響力を持っていたことが示唆されます。そして、新しく反ワクチンになった人よりも政治的関心が高く、いわゆる左寄りの人が多いということです。新しく反ワクチンになった人たちは、政治的関心は低いけれでも、健康、スピリチュアル、自然主義的言説、陰謀論に特別な関心を持っている傾向があります。

このような傾向から、新たな反ワクチン論者の出現は、主に政治的関心によって引き起こされたものではないことを示唆しています。むしろ、陰謀論、スピリチュアルな言説、健康に対する既存の関心が、パンデミック時に反ワクチンに傾倒する入口として作用した可能性があります。

上記のように、根強い反ワクチン派が、既存のリベラル・左派政党や政治家を支持する傾向がある一方で、新たな反ワクチン派は既存の政党を支持することはありませんでした。ところが、2022年3月から9月にかけて、反ワクチンの参政党を支持する新規の反ワクチンが急増したことから、この党がパンデミック下で反ワクチンとなった人々へのアピールに成功し、結果としてが国会で議席を獲得したことが考えられます。

要約すれば、健康やスピリチュアリティに強い関心を持ち、パンデミック関連の不安に駆られている場合、反ワクチンにそれほど信念を持たない個人が反ワクチンツイートに接することで、反ワクチンの陰謀論とスピリチュアルな言説が混在する政党を支持する傾向があるのかもしれません。

3. 研究の限界

本研究にはいくつかの限界があることは論文中でも述べられています。方法論の問題としては、反ワクチン情報を拡散するアカウントを不釣り合いにフォローしている人々を反ワクチン派と仮定していることが挙げられます。これらのユーザーが、実際に反ワクチンの態度を反映しているかということについては、議論の余地があるでしょう。

また、実際はそれほど多くはありませんが、反ワクチン情報を拡散するアカウントとワクチン推進のアカウントの両方をフォローしている場合、ワクチンへの賛否の態度表明というよりも、むしろ、単純な情報探索行動を反映している可能性があります。したがって、反ワクチン態度の推定をより精緻化するためのアプローチが求められます。

次に、本研究は日本の事例のみに焦点をあてているため、知見のどの部分が日本特有のもので、どの部分がグローバルに一般化できるのかが不明であるという問題があります。ただ、スピリチュアリティが反ワクチン態度の入り口になることを示唆する、海外の先行研究例がありますので、この部分では、日本以外にも一般化できる可能性があります。

論文では、特に、反ワクチン派が政治的に大きな影響力を持つかどうかについて、国によって事情が異なるとしながら、日本の参政党の台頭を挙げています。海外では、既存の右翼政党やポピュリスト政党が反ワクチン派を吸収している一方で、反ワクチンと結びついた参政党の場合は、日本特有の大きな要因があると考えられると述べています。しかし、選挙での投票行動との因果関係は立証されていませんので、この点では追研究が必要です。

本論文で触れられていない点として、反ワクチンの人々の属性があります。たとえば、反ワクチンとはニュアンスが異なりますが、ワクチン接種の「ためらい」率と教育・教養レベルとの関係があることが、Kingらの先行論文で示されています [3]。この論文では、接種忌避率は、低学歴の人々と専門性の高い高学歴、博士学位取得者の両端で高いこと、一方、接種率は学卒で高いことが示されています。そして、低学歴の人々は、状況次第でそれを考え直すこともあるけれども、高学歴者はなかなか考えを変えないことも述べられています(関連ブログ→ワクチン接種へのためらい率は高学歴者で最も高い)。

これは、mRNA ワクチンをどう捉えるか、その知識が深いかどうかという一つの現れでもあります。つまり、従来の概念のワクチンの効用は認めるけれども、mRNA 製剤には安全性の点で慎重にならざるを得ないという考えが、COVID-19・mRNAワクチンの最新知見への科学的理解が深まるほどに強くなるということでしょう。

ちなみに、今回の鳥海教授らの論文では、Kingらの論文は引用されていません。

しかしながら、もとより、mRNA ワクチンの接種は世界的な国策であり、そのなかでも日本は格段に接種率が高い国です。仕事上、環境上接種せざるを得ない人々もたくさんいたはずで、接種後に健康上何もなければ、自動的にそれを肯定する立場になるのではないかと思われます。

これは、mRNA ワクチン接種後の死亡や心筋炎発症などが、接種人口に比べればきわめて稀であり、統計的に有意な有害事象として検出することは困難である(つまり、ワクチンは安全とされる)ことも関係するでしょう。

反ワクチン派が政治的関心度が高いというのはいいとして、反ワクチンと一括りにした、言葉の傾向によるパターン分析で、左寄りとか右寄りとかの政治的イデオロギーに結びつけるのは、いささか危ない気もします。学歴、科学性、知識と情報リテラシーの程度、職場環境などの要因分析が必要ではないかと考えます。

おわりに

今回の研究は、リベラル・左派系の政治信条を持った強固の反ワクチン論者が存在する一方で、政治には無関心であるものの、陰謀論スピリチュアリティなどが入口となって反ワクチン的態度を持つようになる人がいることを明らかにした点で新規性があります。とはいえ、方法としては、ツイッター上の言葉を機械学習で分析しただけのことなので、言葉の分類で反ワクチンの特性、政治的傾向が単純化された可能性があります。

実際は、ワクチン一般には賛成だけども、mRNA COVID ワクチンには反対、慎重という人たちがかなりいるはずで、これらの傾向の人は今回の研究では埋もれてしまっています。mRNA ワクチンに対するこのような考えに至るには、高度な知識や高い情報リテラシーが必要で、その意味で学歴や知識レベルなどの属性が関係していると思われますが、今回の分析では検討されていません。

論文が指摘する、陰謀論スピリチュアリティが反ワクチン的態度の拡散につながらないようにする方法論が公衆衛生の維持に必要というのは、全くそのとおりです。しかし、問題はかなり複雑で、薬品メーカーと政治の利権が絡み、mRNA ワクチンの安全性には検討の余地があるにもかかわらず(たとえば、合成されたスパイクタンパクの断片の影響、レトロポジションによるDNA統合の可能性など)、ワクチン推進の当局、権力側からの主張はスラムダンク状態です。

引用文献・記事

[1] Toriumi, F. et al.: Anti-vaccine rabbit hole leads to political representation: the case of Twitter in Japan. J Comput Soc Sci. Published February 5, 2024. https://doi.org/10.1007/s42001-023-00241-8

[2] 東京大学工学部プレリリース: 人はなぜワクチン反対派になるのか ―コロナ禍におけるワクチンツイートの分析―. 2024.02.05. https://www.t.u-tokyo.ac.jp/press/pr2024-02-05-001

[3] King, W. C. et al.: Time trends, factors associated with, and reasons for COVID-19 vaccine hesitancy: A massive online survey of US adults from January-May 2021. PLoS ONE 16, e0260731 (2021). https://doi.org/10.1371/journal.pone.0260731

引用したブログ記事

2021年8月13日 ワクチン接種へのためらい率は高学歴者で最も高い

         

カテゴリー:感染症とCOVID-19 (2024年)

COVID-19が重篤炎症に至る謎を解く鍵はウイルスの断片

カテゴリー:感染症とCOVID-19 (2024年)

はじめに

SARS-CoV-2 によって引き起こされる COVID-19 は、当初考えられていたような単純なる呼吸器疾患ではなく、全身性の疾患として認識されるに至っています。そして、しばしな重篤な炎症をもたらしたり、最悪死亡に至ることもあります。さらに、他のコロナウイルスが普通の風邪を引き起こすだけであるのに対し、 COVID-19 の場合は、見かけ上、原因ウイルスが排除された後も、かなりの患者で様々な症状が持続します(いわゆる長期コロナ症 [Long COVID])。

このように、COVID-19 は重篤な炎症を含めて様々な病態を示すわけですが、その理由については、まだ明解な説明はなされていません。

今回、米カリフォルニア大学ロスアンゼルス校(UCLA)主導の研究チームは、SARS-CoV-2 のペプチド断片が長期的な炎症を引き起こす可能性を示す論文を発表しました [1](下図)。ウイルスのペプチド断片が、宿主内の特定の抗菌性ペプチド(antimicrobial peptides, AMPs)の働きを模倣することによって、炎症を引き起こすというのです。

この研究成果は、米国科学アカデミー紀要(PNAS)に2月2日付けで掲載されました。実は1月末に UCLA News でこの研究成果を紹介しており、「本日」論文が発表された、とその記事は述べていました [2] が、私はその PNAS 論文を見つけられないままでいました。それもそのはずで、掲載は2日後の2月2日になっていました。ここで、今回の研究の概要を紹介します。

1. 研究の概要

COVID-19は、ウイルス感染に必要なアンジオテンシン変換酵素2レセプター(ACE2)を持たない細胞を含む多様な細胞型における免疫活性化の増幅を伴います。この反応は強力ですが非効果的でもあって重篤な炎症反応が起こりますが、その詳細については不明なままです。SARS-CoV-2 ビリオンのタンパク質分解は、宿主によるウイルス排除の重要なイベントですが、一方で、高ウイルス量から生じる残存ウイルスペプチド断片の影響はわかっていません。

今回、研究チームは、感染した宿主環境における超分子自己組織化の観点から、断片化したウイルス成分の炎症能力に着目しました。つまり、ウイルスタンパクが部分分解され、ペプチド化された分子がどの程度 ウイルスAMP様配列(xenoAMPs)として存在するかということです。これらの分子の種類と利用可能な数によって、宿主細胞に及ぼす影響が変化すると考えられます。

研究チームは、SARS-CoV-2プロテオーム(タンパク集合体)中のすべての xenoAMPsをマップし、解析することを試みました。実際、この作業は技術的には容易ではありません。なぜなら、SARS-CoV-2 の RNA ゲノムのサイズは、ウイルスとしてはきわめて大きく(〜30 kb)、宿主および/またはウイルスのタンパク質分解酵素(プロテアーゼ)によって高度にプロセシングされ、必須機能部位を産生する成熟タンパク質をコードしていることが、xenoAMPs の決定を複雑にしているからです。

疑問の一つは、これらのペプチドモチーフにコードされている AMPs は、異なるプロテアーゼによる微妙に異なる位置での切断に対して、どの程度機能を維持できるのかということです。さらに、病原性の低い 「普通の風邪 」コロナウイルスを分析した場合、これらの AMP 様モチーフはどのように変化するのだろうかという課題もあります。

これらの疑問に答えるため、研究チームは、以前に SARS-CoV-2 プロテオームを学習させたサポートベクターマシン (SVM) 分類システムを用いました。この分類システムでは、与えられた配列の AMP らしさを シグマスコア(σ)の出力で評価することができます。まず、潜在的な xenoAMP を同定し、次にSARS-CoV-2タンパク質の配列を、多くの AMP の典型的なサイズである24〜34アミノ酸配列の移動幅でスキャンすることで、近傍の異なるアミノ酸位置で切断されても AMP 様であるかどうかを評価しました。

今回のSARS-CoV-2プロテオームに対する機械学習分析の結果、高スコア AMP 様配列の集団から宿主の抗菌ペプチド、特に炎症を増強する高カチオン性ヒトカテリシジン(cathelicidin)LL-37を模倣する配列モチーフが明らかになりました。ちなみに、LL-37は、ヒトから単離されたカテリシジンファミリーに属する最初の両親媒性のα-ヘリックスペプチドであり、溶液中におけるタンパク質分解に対して耐性があります。病原体の感染に対する最前線での防御の重要な役割を果たしており、細菌や真核生物細胞の両方に対し細胞毒性を有します。

研究チームは、カチオン電荷をもつLL-37がアニオン性二本鎖 RNA(dsRNA)への結合に選択され、免疫調節のための「秩序構造」に組織化する能力を模倣していることを明らかにしました。ここで、dsRNA は SARS-CoV-2感染で傷害を受けた細胞から放出されると予想される病原体関連分子パターンであるとされています。

重要なこととして、SARS-CoV-2由来の xenoAMPs は、他のコロナウイルスにあるような低病原性ホモログではなく、dsRNA を Toll 様受容体(TLR)の立体サイズに見合った格子定数を持つナノ結晶複合体に会合させるような、多価結合が可能であるということです。このような複合体は、培養中の多様な未感染細胞型(上皮細胞、内皮細胞、ケラチノサイト、単球、マクロファージ)においてサイトカイン分泌を増幅し、関節リウマチやループスにおけるカテリシジンの役割と類似している、と研究チームは評しています。

誘導されたトランスクリプトームは、ウイルスプロテオームのわずか0.3%未満を使用しているにもかかわらず、COVID-19のグローバルな遺伝子発現パターンを反映していました。

2. 研究の意義

今回の研究の重要な知見として、感染していない細胞を通して炎症を伝播させる予期せぬメカニズムが、SARS-CoV-2感染には存在することがわかったことが挙げられます。そして、このメカニズムは、風邪を起こす従来の感冒コロナウイルスには見られないということです。つまり、COVID-19は、明らかに風邪ではないということになります。

このメカニズムには、宿主の自然免疫におけるLL-37カテリシジンのような AMP を模倣できるウイルス由来ペプチド断片が関与していることが明らかになりました。LL-37は、ループス・エリテマトーデスや関節リウマチの病因に関与していることがわかっています。したがって、COVID-19 患者の免疫系が、なぜ関節リウマチのような自己免疫疾患を持つ人の免疫系に似ているのかを理解する上で、重要な概念を提供します。

COVID-19が、組織への直接感染に加えて、ウイルスペプチド断片を介して宿主に伝播するという概念は、既存の観察結果の多くを説明できるかもしれません。ペプチドと核酸の複合体形成が、炎症亢進や自己免疫反応に関わっている可能性があるのです。臨床研究によると、SARS-CoV-2 肺炎によって引き起こされる肺外多臓器病変は、細胞・組織の残骸(宿主由来だけでなくウイルス由来の核酸やタンパク質断片)の循環系への大量放出に関連している可能性があります。

ウイルスのペプチド断片と核酸の複合体は、宿主による酵素分解から保護されているため、急性炎症以外にも長期的な影響を及ぼす可能性があります。この複合体形成が、少なくとも部分的にはCOVID-19の長期作用(長期コロナ症)を説明できるかもしれません。

より一般的には、宿主におけるウイルスの残骸の存在が、インフルエンザ感染における慢性疾患と関連していることが知られていますし、ウイルスRNAは、がエボラ出血熱感染から回復した人のさまざまな体液中に1年以上残存していることもわかっています。

UCLA Newsroom は、今回の研究結果を評して、「『ゾンビ』ウイルスの断片はウイルスが破壊された後も炎症を引き起こし続ける」と表現しています [2]。共著者の人である G. ウォン氏は「教科書によれば、ウイルスが破壊されれば宿主は病気に勝利し、ウイルスの異なる断片は、免疫系が将来認識できるように訓練するために使われる。しかし、COVID-19は、こんな単純なものではないことを教えてくれる」と述べています。

おわりに

今回の知見は、簡単に言えば、SARS-CoV-2のペプチド断片が、一般にDNAからタンパク質を作るのに不可欠な分子の特殊形である二本鎖RNAと自発的に新しい構造を作り、それが自然免疫(抗菌ペプチド)を模倣し、宿主の持続的炎症の原因になるというものです。まさしく、壊れたはずのウイルスがソンビとして復活し、悪さをするというものでしょう。このゾンビは、襲った細胞をウイルス感染したときと同様のエピジェネティックな変化を引き起こします。しかも、ゾンビなので「感染」とは認識されないという、厄介なものです。

この成果は、長期コロナ症の説明にもつながる重要なものですが、専門家や SNS 上でも発信されているコロナの病態や免疫に関する考え方にも警告を発しています。一つは「コロナは普通の風邪」ということを全く否定するものです。もう一つは、「感染して免疫を鍛える」という考え方が、全く愚かなものであることも証明しています。

論文を読んでみて一つ疑問を思ったこととして、著者らは感染した大量のウイルスから派生するペプチド断片を前提にして話を組み立てていますが、これは後発的なイベントとして起こることはないのか?ということです。つまり、ウイルス RNA が宿主 DNA に統合され、その転写産物としてのタンパク質から派生することはないのか、という疑問があります。ペプチドと dsRNA の複合体は、酵素分解作用に対して耐性があるということですが、年単位にも及ぶ長期的な炎症の持続性には、別のペプチド供給メカニズムが関与していることはないのか、という想像も働きます。

そして、ウイルス断片で起こるとするなら、大量のスパイクタンパク質をつくる mRNA ワクチンの場合も、xenoAMPs を生じることはないのか?、ウイルス感染によって複合体を形成することはないか?という疑問も残ります。

引用文献・記事

[1] Zhang、Y. et al: Viral afterlife: SARS-CoV-2 as a reservoir of immunomimetic peptides that reassemble into proinflammatory supramolecular complexes. Proc. Natl. Acad. Sci. USA. 121, e2300644120 (2024). https://doi.org/10.1073/pnas.2300644120

[2] Lewis, W.: Viral protein fragments may unlock mystery behind serious COVID-19 outcomes. UCLA Newsroom. January 29, 2024. https://newsroom.ucla.edu/releases/viral-protein-fragments-behind-serious-covid-19-outcomes

             

カテゴリー:感染症とCOVID-19 (2024年)

BA.2.86は親系統より病原性が低い?

カテゴリー:感染症とCOVID-19 (2024年)

はじめに

現在、 日本では COVID-19 の第10波が襲来しています。主体となっている SARS-CoV-2 オミクロン BA.2 を親系統とする BA.2.86 からさらに派生した JN.1 変異体です。JN.1 は免疫逃避と感染力が強化されていることが報告されており [1]、第10波における感染者と入院患者の増加の要因になっていると思われます。

先のブログ記事(→SARS-CoV-2の高度変異体 JN.1はより重篤な疾患を引き起こす)では、セル誌掲載の二つの論文 [2, 3] を紹介しながら、BA.2.86 が従来のオミクロンとは異なり、下気道に感染しやすくなっており、病原性においてオミクロン以前の先祖帰り(つまり重篤性が復活)している可能性を述べました。

一方、最近、日本の研究グループ G2P-Japan Consortium は、BA.2.86 変異体のウイルス学的特性について論文を発表し、親型の BA.2.1 よりも病原性が低いことを指摘しました [4](下図)。ここで紹介したいと思います。

1. 論文の概要

G2P-Japan Consortium は、北海道大学東京大学熊本大学広島大学など、複数の機関に所属する研究者のチーム [5] で、さらに海外の研究者とも共同で今回の論文を発表しています。簡単に言うと、論文の結論は、BA.2.86 は従来の先行のオミクロンである BA2.1、EG.5.1 より感染性と ACE2 親和性が高いけれども、病原性が低いということです。

ちなみに、EG.5.1 は昨年夏の第9波流行をもたらした SARS-CoV-2 変異体です。EG.5系統には、スパイクタンパク質に L455F や F456L のアミノ酸変異(いわゆるフリップ変異)が追加されており、ワクチンや抗体薬を広汎に使ってきた結果、生まれたものだろうと推察されています [6]

以下に、今回の論文 [4] のハイライトを記します。

●BA.2.86は、より最近で優勢なEG.5.1よりも感染力が強い

●BA.2.86の抗ウイルス薬に対する感受性は EG.5.1 と同等である

●BA.2.86の in vitro および in vivo での複製効率は EG.5.1 より低い

●ハムスターを使ったモデル実験では、BA.2.86は、EG.5.1 および親型 BA.2.1 よりも病原性が低い

2. BA.2.86 の病原性

研究チームは、BA.2.86 の特に病原性に関する特性を理解するために、BA.2.86、EG.5.1 および BA.2 の臨床分離株(2,000 TCID50)とモデル動物ハムスターを使って、in vivo 実験を行いました。麻酔下でこれらのウイルス株を経鼻接種し、経過観察すると、感染したハムスターはすべて体重減少を示しました。しかし、BA.2.86 における体重減少は、他の2つのウイルス株に比べると、有意に少ないことがわかりました。

次に、感染ハムスターの肺機能を調べたところ、EG.5.1 と BA.2 の場合は、感染後3日でモニターした2つの呼吸パラメータに有意な差が見られた一方、BA.2.86 感染ハムスターでは、これらのパラメータは一定でした。つまり、BA.2.86 は EG.5.1 および BA.2 に比べてハムスターへの病原性が低いことが示唆されました。

さらに、感染ハムスターにおけるウイルスの広がり方を評価するために、口腔スワブおよび2つの肺領域(肺門および肺周辺部)のウイルス RNA 量を定期的に測定しました。その結果、EG.5.1 と BA.2 に感染したハムスターのウイルスRNA量は同程度でしたが、BA.2.86 感染ハムスターのウイルスRNA量は、それらよりも有意に少ないものでした。このことから、BA.2.86 の生体内における増殖力は、EG.5.1 および BA.2 よりも低いと考えられました。

上記の結果は、ウイルスクレオカプシド(N)タンパク質を標的とした免疫組織化学分析でも裏付けられました。BA.2.86 感染ハムスターの肺における N 陽性細胞の割合は、BA.2 感染および EG.5.1 感染ハムスターに比べて有意に低いものでした。

BA.2.86 感染ハムスターでは、BA.2感染およびEG.5.1感染ハムスターに比べて気管支炎/細気管支炎は軽度であり、肺胞損傷およびII型肺細胞を含む炎症面積は小さいものでした。BA.2.86 の気管支炎・気管支腔炎、出血・うっ血、肺胞損傷、II型肺細胞面積を含む病理組織学的スコアは、分析したオミクロン亜型の中では最も低くなりました。

3. 低い病原性の要因

オミクロン前のデルタ変異体のスパイクタンパク質は、効率的にフーリン切断され、高い融合原性を示し、それまでのSARS-CoV-2変異体よりも高い病原性を示しました。対照的に、オミクロンBA.1 のスパイクは、かすかにフーリン切断されるだけで、融合原性は低く、先行のSARS-CoV-2よりも低い病原性でした。

今回の研究では、BA.2.86 のスパイクは BA.2 のそれよりも効率よく切断されることがわかりました。それにもかかわらず、両者の融合原性は同程度であることが示され、ハムスターにおける BA.2.86 の病原性は BA.2 のそれよりも有意に低いものでした。

この見かけ上相反する事実について、著者らは BA.2.86 の複製能力の低さによって説明できるとしています。すなわち、BA.2.86 の複製速度は、in vitro 細胞培養および in vivo において、BA.2のそれよりも著しく低いことがわかりました。BA.2.86 の病原性の減弱は、その複製能力の低下に起因しているというわけです。

おわりに

今回の G2P-Japan Consortium による「BA.2.86は病原性が低い」という研究結果 [4]は、先行した2つのセル論文 [2, 3] とは反駁するように思います。セル論文では、BA.2.86 は初期の SARS-CoV-2 に特徴的であった、肺細胞への強固な侵入という特徴を取り戻しているとされています。BA.2.86 は、TMPRSS2 を利用して効率的に肺細胞に侵入すること 、S50LとK356Tの変異が効率的な肺細胞侵入を引き起こすこと、抗体治療に対して高い抵抗性を示すこと、自然感染やワクチン接種で誘導される抗体を回避することが述べられています(SARS-CoV-2の高度変異体 JN.1はより重篤な疾患を引き起こす)。

私たちは、BA.2.86 の病原性に関する異なる見解の論文をどのように解釈したらよろしいでしょうか。少なくとも、危機管理上、公衆衛生上においては、より深刻な場合を想定した取り組みや予防対策が必要と考えられます。この意味で、入院患者数や死亡者数に関するリアルタイムでの統計データが必須と思われますが、日本政府はこれを放棄しています。一方、米CDCでのデータでは、米国の入院患者数はピークを超えたように思われます。

今回の論文でも、最新の BA.2.86 サブ系統である JN.1 を含めて、2024年1月現在、世界中で急速に拡大しており、この系統が主流となる可能性があり、注意深く監視する必要があると述べられています。しばらくは、第10波流行を注意深く監視していくことが必要です。

引用文献

[1] Kaku, Y. et al.: Virological characteristics of the SARS-CoV-2 JN.1 variant. Lancet Infect. DIs. Published January 03, 2024. https://doi.org/10.1016/S1473-3099(23)00813-7

[2] Qu, P. et al.: Immune evasion, infectivity, and fusogenicity of SARS-CoV-2 BA.2.86 and FLip variants. Cell. Published January 8, 2024. https://doi.org/10.1016/j.cell.2023.12.026

[3] Zhang, L. et al.: SARS-CoV-2 BA.2.86 enters lung cells and evades neutralizing antibodies with high efficiency. Cell. Published January 8, 2024.

https://doi.org/10.1016/j.cell.2023.12.025

https://doi.org/10.1016/j.cell.2023.12.025

[4] Tamura et al.: Virological characteristics of the SARS-CoV-2BA.2.86 variant. Cell Host Microbe 32, 1-11 (2024). https://doi.org/10.1016/j.chom.2024.01.001

[5] 千葉雄登: 日本のコロナ論文トップジャーナル掲載、半数占める「G2P-Japan」. m3p 医療維新. 2023.04.16. https://www.m3.com/news/open/iryoishin/1133032

[6] 橋本款: ウィズ・コロナ時代における新規オミクロン変異株EG.5の流行. TMiMS東京都医学綜合研究所. 2023.08.31. https://www.igakuken.or.jp/r-info/covid-19-info177.html

           

カテゴリー:感染症とCOVID-19 (2024年)

永遠のCOVID

カテゴリー:感染症とCOVID-19 (2024年)

はじめに

2024年を迎え、世界保健機構(WHO)は、COVID-19 などに関わる世界的な公衆衛生問題についての現状と見解を発信しました [1]。一言で表せば、COVID-19 パンデミックは継続中であり、この危機的状況に警鐘を鳴らしています。

国際共産主義組織である「第四インターナショナル」の分派の一つ、かつ主要団体である第四インターナショナル国際委員会(International Committee of the Fourth International [ICFI] )は、彼らのウェブサイト(World Social Web Site [WSWS])でこの WHO のプレスを取り上げ、批評しています [2](下図)

WSWS の記事は、もとより共産主義組織によるものであり、政治的メッセージには偏りがあって賛同できませんが(というより彼らの目標実現は不可能)、科学的内容については理解できる部分も大きいので、このブログで紹介したいと思います。以下、筆者による翻訳文を載せます。

1. WSWSの記事

パンデミックの4回目の冬を迎え、世界中で COVID-19 の感染者、入院者、死亡者が急増している。廃水監視が実施されているところでは、どこでも、現在のウイルス感染の程度は、パンデミック全体でも最高か2番目に高いレベルである。

現在も続いている集団感染の波は、世界保健機関(WHO)、バイデン政権、その他の各国保健機関が、昨年5月に COVID-19 公衆衛生緊急事態(PHE)終結宣言を行ったことの犯罪性を浮き彫りにしている。このような非科学的で政治的動機に基づく決定の結果、事実上すべてのパンデミック監視が解除され、一方で大勢の人々がパンデミックは終息したと誤信させられた。

先週行われた2回の異例の記者会見で、WHO当局はパンデミックの継続的な危険性を明らかにしたが、その一方で、もはや予防策を講じていない世界の人々を偽善的にたしなめるとともにに、このプロセスにおける自らの過失を無視している。

1月10日(水)、WHO のテドロス・アダノム・ゲブレイエスス事務局長は、12月に世界中で COVID-19 感染が急増したのは、休日の集まりと JN.1 変異体への進化が原因であると指摘した。そして次のように付け加えた。

12月には COVID-19 による死亡が 10,000 人近く WHO に報告され、11月に比べて入院が42%、ICU 入室が62%増加した。しかし、(死亡率に関する)トレンドは、ヨーロッパとアメリカ大陸を中心とした50カ国未満のデータに基づいている。報告されていない他の国々でも増加していることは確かである。

入院患者数に関する情報を提供しているのはわずか29カ国であり、ICU 入院患者数に関するデータを提供しているのはわずか21カ国である。これは、昨年5月の WHO の PHE 終了を受けて、大半の国がパンデミック監視システムを完全に解体したためである。

その2日後、WHO が UN Web TV で行った記者会見で、COVID、インフルエンザ、呼吸器系病原体の共流行について、COVID-19 に関する技術責任者であるマリア・ヴァン・カーコフ博士は次のように語った。

基本的に、公衆衛生と社会的措置が解除され、世界が解放されたことで、これらのウイルスやバクテリアは、空気を通して効率的に人々の間を行き来するようになったのです。

ヴァン・カーコフ氏は、世界の多くの地域でワクチンへのアクセスが依然として課題であることを述べ、ワクチンが入手可能であるにもかかわらず、その供給や接種率は極めて低く、免疫不全の人々や妊婦を含む高齢者や最も弱い立場にある人々への懸念が高まっていることを指摘した。そして、こう警告した。

今知っておくべき重要なことは、COVID による公衆衛生上のリスクは依然として世界的に高いということです。WHO に報告される症例ベースのデータは信頼できる指標ではありません。疫学曲線を見ると、ウイルスがいなくなったように見えますが、そうではありません。

彼女は、多くの国から得た廃水データに基づく推定によれば、SARS-CoV-2 の実際の循環量は、報告されている量の2倍から19倍である、と述べている。難しいのは、ウイルスが進化し続けていることであり、死亡者数は2年前より激減しているが、公式な COVID による死亡者数は月に約10,000人であることを指摘した。

しかし、ヴァン・カーコフ氏は、これはデータを報告している国の4分の1以下の見積もりであり、公式な死亡者数の半分は米国からのものである、と念を押した。彼女は単刀直入にこう言った。「これらの国々が死亡を報告していないからといって、死亡が起きていないということにはなりません」。

1月の公式数字は、JN.1 の流行の激しさと、連休中に屋内で行われた多くの大規模なイベント・集会から、上昇することが予想される。パンデミックが歯止めなく続いていることを認めた上で、ヴァン・カーコフ氏は次のように述べた。

一方では、 十分な検査、抗ウイルス薬の適切な入手と使用、適切な臨床ケア、医療用酸素、そしてもちろんワクチン接種によってCOVIDを予防できるにもかかわらず、COVIDによる各国の負担はあまりにも大きすぎると感じています。COVIDは依然として公衆衛生の脅威であり、あまりにも多くの負担を引き起こしているのです。

ヴァン・カーホフ氏は、入手可能な限られたデータから、現在世界中で「数十万人」がCOVIDで入院していると推定している。

ヴァン・カーコフ氏は次に、長期コロナ症(long COVID)と呼ばれる COVID-19 感染の急性期後のフェーズが重要であることを認めた。有症状の症例の6~10%が長期コロナ症に移行し、全身の複数の臓器に影響を及ぼす可能性があり、衰弱した状態が12カ月以上続くこともあるという。

単純に計算すれば、現在の世界的な急増だけでも数千万から数億人が、何らかのレベルの長期コロナ症を発症することになる。長期コロナ症を集団感染症、そしてパンデミック中のパンデミックと表現するのは大げさなことではない。

私たちが心配しているのは、5年後、10年後、20年後に、心臓障害、肺障害、神経障害がどうなっているかということだ、と彼女は警告した。「このウイルスのすべてがわかっているわけではないのです」。彼女は続けて、この問題は重大であり、長期コロナ症をよりよく理解し治療するための研究は、財政的に深刻な資金不足に陥っていると述べた。

この2人の WHO 首脳による悲惨な報告は、疑問を投げかける。なぜ彼らは、PHE を速やかに復活させ、ウイルスの蔓延を遅らせるために、すべての国の政府に厳格な COVID 対策措置を再施行するよう促さないのだろうか。

WHO が昨年5月、バイデン政権が発足する1週間前に突然 PHE を廃止したのは、米国帝国主義からの強い圧力があったからである。WHO は政治的圧力に動かされたのであって、この措置が、COVID-19 が依然としてもたらしている公衆衛生の脅威を変えるような意味のあるものではなかったのである。

オミクロンの JN.1 系統が下気道を好む傾向が強いという最近の証拠や、それに付随してウイルスが初期の強毒型に戻る危険性を考慮すると、PHE を再実施し、すべての国で包括的な公衆衛生プログラムに大規模な資金を投入することが不可欠である。

それにもかかわらず、世界各国政府は、呼吸器官だけでなく全身の臓器系に害を及ぼす非常に危険なウイルスへの感染を際限なく繰り返すという、残忍な「永遠のCOVID」“forever COVID” 政策を押し付けてきている。このような政策を実行し続けることの長期的な結果が、世界人口の健康に重大な影響を及ぼすという証拠が蓄積されつつある。

WSWS の2024年新年の声明の第2部が明らかにしているように、現在および将来の公衆衛生の危機に対する唯一の実行可能な解決策は、2023年春の上海での取り組みで証明されたように、感染力の強いオミクロン変異体に直面しても可能であることが証明された世界的な排除戦略である。ポイント28での主張は以下のとおりである。

中国におけるゼロコロナの長年の成功は、COVID-19に向けた排除戦略の実行可能性を証明した。同時に、その最終的な終焉は、帝国主義の時代において、いかなる国家ベースのプログラムも実行不可能であることを再確認させた。実行不可能であることが証明されたのは、国の枠組みであって、政策そのものではなかった。撲滅は依然として実行可能であり、必要であるが、現在では、以下の原則のために闘う大衆運動の構築によってのみ達成することができる:

パンデミックとの闘いは、社会主義的解決を必要とする政治的・革命的問題である。公衆衛生の組織は、企業の利益ではなく、社会的必要性に基づいていなければならない。すべての医療、製薬、保険会社から利潤動機を完全に排除しなければならない。

世界的に協調した戦略のみが、COVID-19のパンデミックに対処し、潜在的な伝染病やパンデミック病原体を予防するための包括的な戦略を開発する条件を作り出すことができる。WHO首脳の発言は、新年の声明で WSWS が導き出した以下の結論を確認するものである。

パンデミックの4年後、世界資本主義のもとでは、このような世界戦略が決して生まれないことは明らかになった。資本主義は、金に狂った金融寡頭政治の飽くなき利潤追求にすべての公衆衛生支出を従属させているのである。公衆衛生の中心的概念である、病気をなくす、根絶するという考え方そのものが放棄されている。世界社会主義革命によってのみ、パンデミックを終わらせ、資本主義的蛮行と第三次世界大戦へのさらなる転落を止めることが可能になる。

おわりに

WSWS は、COVID-19 パンデミックに関する WHO の現状認識をトレースするとともに、WHO の対応を批判しています。その主要なものは、なぜ、PHE を再実施しな復活させないのか、ということです。彼らの 現在の COVID-19 流行に関する科学的解釈は妥当なものです。ウイルス撲滅のためには、中国が行なったようなゼロコロナ戦略が必要だというのも頷けます。

ただ、人間はあらゆる生物学的価値を貨幣価値に変えてしまった生物であり、金がなければ生活できないです。その前提での資本主義経済の選択と実行が、いずれ破綻するとわかっていながら、その解決をひたすら先送りしながら、突き進むしかない悲しい性を持ち合わせています。分かっていながら、欲望の果実の味を覚えた人間には、ゼロコロナも社会主義共産主義も不可能なことは明らかであり、WSWS の政治的メッセージは実現性に乏しいと言わざるを得ません。経済優先はゼロコロナは相反するものであり、もはや「永遠のCOVID」とともに不健康時代を生きて行くしかないのかもしれません。

厚生労働省の発表では、昨年8月までの国内のCOVID死亡者は約9万5千人に上っています。現在はおそらく10万人を超えているでしょう。COVID 関連死も含めればもっと多くなるかもしれません。その意味で、最近やたら芸能人の体調不良や訃報が多いのが気になります。

年が明けて、JN.1 による第10波流行はますます顕著になってきました。人々が情報に閉ざされ、無防備になっている状況での流行は、過去最悪の被害をもたらすことが懸念されます。

引用文献・記事

[1] World Health Organization: Virtual press conference on global health issues transcript – 10 January 2024. https://www.who.int/publications/m/item/virtual-press-conference-on-global-health-issues-transcript-10-january-2024

[2] Mateus, B.: WHO officials warn sharply of the ongoing dangers of the COVID-19 pandemic. WSWS Janurary 15, 2024. https://www.wsws.org/en/articles/2024/01/15/covi-j15.html

          

カテゴリー:感染症とCOVID-19 (2024年)

SARS-CoV-2の高度変異体 JN.1はより重篤な疾患を引き起こす

カテゴリー:感染症とCOVID-19 (2024年)

はじめに

現在、世界的に SARS-CoV-2 の高度変異型である JN.1 による COVID 流行が起きています。日本でも JN.1 が増加しつつあり、第10波が本格的になりました。特に大地震で被災した地域では、インフルエンザとともに COVID 感染が懸念されるところです

JN.1 は、通称"Pirola"として知られる BA.2.86 の派生型ウイルスです。この BA.2.86 系統について、気になる二つの論文ががセル(Cell)誌に掲載されました。BA.2.86 がこれまでのオミクロン変異体よりも重症化する可能性があるというのです [1, 2]。このブログでその内容を紹介したいと思います。

1. セル誌に掲載された研究の内容

これら二つの論文は、セル誌に1月9日付けで同時掲載されています。一つは米オハイオ州立大学の研究チームによるもので [1]、もう一つはドイツとフランスの共同研究チームによる結果です [2]

オハイオ州立大学の研究者らは、実験室で作成した感染性のない BA.2.86 の疑似ウイルスを用いて様々な実験を行ないました。その結果、BA.2.86 変異体は、二価ワクチン誘導抗体による中和に対する耐性は低いけれども、mAb S309 に対する耐性は高く、FLip や他の XBB 変異体と比較してより効率的にヒトの細胞(CaLu-3)と融合し、肺の下部の細胞に感染することがわかりました(下図)。ワクチン mAb S309 が BA.2.86 を中和できないことは、D339H変異によるものとされています。

BA.2.86 変異体のこれらの特徴は、より致命的であったオミクロン以前の初期変異体と類似している可能性があります。

ドイツとフランスの研究チームも同じ結論に至っています [2]。すなわち、BA.2.86 は初期の SARS-CoV-2 に特徴的であった、肺細胞への強固な侵入という特徴を取り戻していると記載されています。この変異体は、TMPRSS2 を利用して効率的に肺細胞に侵入すること 、S50LとK356Tの変異が BA.2.86 の効率的な肺細胞侵入を引き起こすこと、抗体治療に対して高い抵抗性を示すこと、自然感染やワクチン接種で誘導される抗体を回避することが述べられています(下図)。

オミクロン変異体による病態は、それ以前の型によるものよりも軽いと考えられてきました。しかし、それが断定はできないことは、自然感染とワクチン接種の免疫への影響を考えればわかります。すなわち、オミクロンによって発病した人々は、その多くがすでに初期のウイルスに感染しており、感染の影響を和らげた可能性が高いからです。さらに、多くの人がワクチン接種を受けており、その効果も同じように考えることができます。

初期のオミクロンは上気道に感染する傾向があり、下気道には感染しませんでした。一方、今回の研究は、この傾向が逆転しつつあることを証明しています。

2. フォーチュンの記事

フォーチュン誌は、今回のセル論文2編を取り上げた記事を早速配信しました [3]。ここで、それを翻訳・要約しながら紹介したいと思います。

セル論文 [1] の責任著者であるシャン・ルー・リュー博士は、オハイオ州立大学ウイルス・新興病原体プログラムの教授兼共同ディレクターです。フォーチュン誌のインタビューに対して、「オミクロンがより重篤な形に進化している可能性を示す証拠を無視することはできない」と語りました。さらに、米国を含めて世界中で COVID-19 による入院が増えていることが、この議論を後押ししている可能性がある、と付け加えました。

COVID-19 感染症が再び重症化しているかどうかを見分けるのは容易ではありません。なぜなら、自然感染やワクチン接種による免疫付与の影響があるからです。ワクチン接種や先行感染による COVID に対する抗体疫は、病気の重症度を軽減したり、感染を防ぐことができます。しかし、それは3~6ヵ月後には減少します。理論的には、COVID に感染してから、あるいはブースターを受けてから時間が経てば経つほど、入院や死亡のリスクが高まります。

世界的にみて、2023年秋に発売された最新の COVID ブースターの接種率は期待に反して低調です。米国疾病予防管理センター CDC によれば、米国においても 20% 以下にしか過ぎません。

●JN.1はオミクロンより重症か?

JN.1 感染の重症度に関して、セル論文の研究が何を意味するのかについては、まだ結論は出ていません。しかし、リュー博士が言うように、JN.1 が消化管への感染を好んでいるのではないかという専門家の推測と今回の新しい知見とを合わせると、このウイルスの進化する性質についてさらに研究を深めるべきでしょう。

リュー博士のもう一つの懸念は、SARS-CoV-2 が動物体内で別のコロナウイルスと組み替えられ、再びヒトに感染するスピルオーバーの可能性です。つまり、パンデミックの物語に、また新たなウイルスの筋書きが加わることになるのです。オミクロンはこれまでの変異体に比べてきわめて変異が大きく、オミクロン感染はスピルオーバーの結果と主張する専門家もいます。

いずれにせよ、動物は過小評価されているワイルドカードである、とリュー博士は主張しています。例を挙げるならば、オハイオ州のオジロジカの多くが COVID 陽性と判定され、ウイルスが変異するための新たな個体群となっています(→スピルオーバー:ヒトー野生動物間の新型コロナ感染)。

リュー博士が抱く、おそらくより大きな懸念事項は、COVID ウイルスと致命的なウイルスとの融合(組換え)の可能性です。 たとえば、SARS や MERS の致死率はそれぞれ 10%、34%です。一方、ワクチン未接種の米国人における COVID 致死率は、オミクロン以前は 1% 程度、以後は 0.11% 程度です。

「何が起こるかわからない」、「次に何が起こるかを予測するのは本当に難しい」というのが専門家の一致した思いでしょう。動物がウイルスをさらに進化させ、人類に新たな変化球を送り込む力について言えば、結論は「人間よ、気をつけろ」でしょう。

おわりに

上記二つのセル論文は、慎重なものの言い方ですが、BA.2.86およびその派生型であるJN.1が下気道に感染しやすくなっていることは確実なようで、重篤化しやすい疾患を起こす可能性は高いでしょう。米国をはじめ、入院患者が増えているという傾向は、JN.1のこの特徴を後押しするものです。

JN.1 がオミクロン以前の変異体に回帰する病毒性を有するとすれば、また新たな脅威となります。ウイルスが徐々に減衰して風邪と同じ程度になるという「逸話」(→エンデミック(風土病)の誤解SARS-CoV-2の進化と将来のシナリオ)を信じている人々にとっては、都合の悪いニュースです。スピルオーバーによって、ウイルスがより強毒化したり、被害拡大したりする可能性も否定できません(→地球環境変動とスピルオーバー感染症の脅威 )。

ちなみに、JN.1の免疫逃避能力と感染力は、BA.2.86よりさらに強化されています。ワクチン抗体および自然感染の抗体から逃れる力は、それぞれBA.2.86の3.6~4.5倍、3.8倍と報告されています [4]。これらの能力から、JN.1はさらに全世界に拡大し、流行の主体になると考えられます。

不幸にして、日本は BA.2.86 系統 JN.1 による第 10 波流行と震災が重なりました。政府やメディアによる感染症対策への注意喚起が遅れがちなのは否めません(下記"X"へのポスト)。

この先、感染症の影響を含めた災害関連死の増加と日本全国への被害拡大が懸念されます。

引用文献・記事

[1] Qu, P. et al.: Immune evasion, infectivity, and fusogenicity of SARS-CoV-2 BA.2.86 and FLip variants. Cell. Published January 8, 2024. https://doi.org/10.1016/j.cell.2023.12.026

[2] Zhang, L. et al.: SARS-CoV-2 BA.2.86 enters lung cells and evades neutralizing antibodies with high efficiency. Cell. Published January 8, 2024. https://doi.org/10.1016/j.cell.2023.12.025

[3] Prater, E. : New, highly mutated COVID variants ‘Pirola’ BA.2.86 and JN.1 may cause more severe disease, new studies suggest. Fortune Well January 9, 2024. https://fortune.com/well/2024/01/08/covid-omicron-variants-pirola-ba286-jn1-more-severe-disease-lung-gi-tract-symptoms/

[4] Kaku, Y. et al.: Virological characteristics of the SARS-CoV-2 JN.1 variant. Lancet Infect. DIs. Published January 03, 2024. https://doi.org/10.1016/S1473-3099(23)00813-7

引用したブログ記事

2023年11月15日 地球環境変動とスピルオーバー感染症の脅威

2023年5月29日 SARS-CoV-2の進化と将来のシナリオ

2022年3月9日 スピルオーバー:ヒトー野生動物間の新型コロナ感染

2022年1月31日 エンデミック(風土病)の誤解

          

カテゴリー:感染症とCOVID-19 (2024年)

2024年頭にあたってー原発はそれ自体が戦争

カテゴリー:日記・その他

COVID-19 パンデミックが始まって以来、年頭にこのパンデミックの行方を考えるのが恒例になりました。今年も COVID-19 や SARS-CoV-2 に関する最新文献を参照しながら、いろいろと考察で頭を巡らしていたら、突然スマートフォン地震警報の音が鳴り始めました。慌てて、ストーブを消し、飼い猫をキャリーケースに入れていたらユラユラと揺れ始めました。

ゆっくりとした揺れの感じと長さから、おそらく少し離れたところで起こっている地震の大きさを感じ取ることができました。東日本大震災のときに、愛知県豊橋市の大学棟内で感じた揺れに似ていました。揺れが収まったところでテレビをつけたら、能登地方の大地震を速報していました。屠蘇気分も一変に吹き飛んでしまいました。

とっさに頭に浮かんだのが、津波原発です(以下 "X" のポスティング)。石川県には北陸電力志賀原発があり、いま運転停止中ですが、原子力規制委員会が「活断層なし」と判断したばかりで、地元からは「一日も早い再稼働を」という声があがっています[1]新潟県には東電の柏崎刈羽原発もあります。

石川県トップの馳浩知事は、何と「帰省中」だそうで、地元にいないことがわかりました。自衛隊機でも防災ヘリでも何でもいいから、サッサと現地入りして陣頭指揮とったらどうかと思いますが。

官房長官の記者会見をテレビで見ていたら、相変わらずの細切れ、後だしの情報発信で、少々不信感が横切ります。

今から半世紀近く前、「原子力戦争」という言葉を使いながら、「電力会社のいう無事故とは、事故をおこさないことではなく、事故を外部にもらさず、もみ消すことだ」と評した田原総一郎氏の言葉を思い出します。不幸にして、原発事故は3.11大震災で現実のものとなり、いま日本国民は大きなツケを払わされています。

原発事業の当初から「原発はそれ自体が戦争」と表現されたように(下図[2]地震国日本では原発は凶器そのものであり、常に戦時下なのです。

思えば、2006年当時の安倍晋三総理大臣は、福島原発の事故と危険性を予測・指摘した野党質問を真に受けず、「日本の原発でそういう事態は考えられない」として一切の対策を怠ったことが、いまの日本の不幸をもたらしています(→食の安全と安心)。もはや何の役にも立たない、大きな負の遺産である福島第一原発に莫大なお金と労力と時間を投じている上に、今なお大地震の度に原発ストレスに曝される日本は一体何を学んできたのでしょうか。

一方、COVID-19パンデミックは、長期コロナ症心不全パンデミックに様変わりしつつあります。

いま世界的にJN.1変異体が流行している状態であり、日本では第10波が始まっています。インフルエンザといっしょのツインデミックです。COVID-19についてはいろいろと考察中でしたが、正月の大地震でまとまらなくなりました。地震被害の全貌はこれから明らかになってきます。まさに、2024年とこの先の日本の苦難を暗示させるような出来事です。

引用記事

[1] 北國新聞: 再稼働「一日も早く」 電気代高騰で企業切実 志賀原発活断層なし」. 2023.03.04. https://www.hokkoku.co.jp/articles/-/1004335

[2] 津村喬・西尾漢: 原子力推進と情報ファシズム. 技術と人間臨時増刊号, pp.198-205. (株)技術と人間, 東京, 1976.

引用したブログ記事

2018年3月11日 食の安全と安心

            

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感染症とCOVID-19 (2024年)

4月↓

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COVIDウイルスの体内持続性は何を意味するのか?

3月↓

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2月↓

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1月↓

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永遠のCOVID

SARS-CoV-2の高度変異体 JN.1はより重篤な疾患を引き起こす

2023年以前はこちら↓

感染症とCOVID-19 (2023年)

感染症とCOVID-19 (2022年)

感染症とCOVID-19

          

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地球環境変動とスピルオーバー感染症の脅威

カテゴリー:感染症とCOVID-19 (2023年)

はじめに

今月 8 日付けで、BMJ Global Heath 誌に、スピルオーバー(異種間伝播)感染症(→スピルオーバー:ヒトー野生動物間の新型コロナ感染 )に関する一つの論文が掲載されました [1](下図)。今後、人為的要因による気候変動や環境変動の結果、人獣共通感染症が増え、30 年後の死者数は 12 倍以上になると警鐘を鳴らしている論文です。すでに、多くの専門家が予想していることとは言え、ちょっと不気味な数字です。

著者らは、米マサチューセッツ州ボストンに拠点を構えるバイオテクノロジー企業 Ginkgo Bioworks のメンバーで、新しく開所したカリフォルニア州エメリービルの研究所に所属しているようです。

私はこの論文をブログで紹介しようと思っていたところ、Forbes Japan に本論文の解説記事の邦訳文 [2] が出ているのを見つけました。著者は GrrlScientist というハンドル名の鳥類専門の進化生態学者、科学ジャーナリストのようですが、当該論文を簡潔に解説していますので、それを読めば理解するのに役立つと思います。このブログでは補足しながら述べたいと思います。

1. 論文の概要

元論文 [1] では、まず、このテーマについてのこれまでの情報として、以下のように記しています。

COVID-19 のような現代の人獣共通の感染症の広がりが、人間の健康と生活に壊滅的な影響を及ぼしていることから、感染症のスピルオーバーの傾向をよりよく理解する必要性が浮き彫りになっている。

人為的な気候変動や環境変動の結果、スピルオーバー感染症の発生頻度は増加すると予想されているが、人獣共通感染症の流出頻度やその経時的変動に関する実証データが限られているため、それが将来のグローバル・ヘルスに及ぼす影響の大きさを明らかにすることは困難である。

その上で、著者らは本研究の方法と得られた成果について以下のように述べています。

●本研究では、広範な疫学データベースを用いて、特定の人獣共通感染症のサブセットについて、アウトブレイクの頻度と重症度の傾向を調べた。

●このサブセット(SARS-CoV-1、フィロウイルス、マチュポウイルス、ニパウイルスによる感染症)についての集団発生数と死亡数は、1963年から2019年まで指数関数的な割合で増加していることがわかった。

●本研究で観察された傾向が続けば、2050年には(2020年と比較して)、これらの病原体による感染事例は4倍に、死亡者数は12倍になると予測される。

そして、著者らは、本研究の分析結果が、感染対策としての実践、政策に与える影響について以下のように記しています。

●本研究は、最近の一連の衝撃的なスピルオーバーによる感染症流行が、ランダムでも異常でもなく、より大規模に、より頻繁に発生するようになった数十年の傾向に沿ったものであることを示している。

●グローバル・ヘルスに対するこの大規模かつ増大しつつあるリスクに対処するためには、アウトブレイクを予防・封じ込める能力を向上させるための世界的な協調努力が緊急に必要であり、本研究の知見はそのことを示す新たな証拠を提示している。

上記のように、著者らは、これらの病原体による感染事例は、2020 年と比べて 4 倍、死亡者数は 12 倍になると予測されると述べているわけですが、これは控えめな数字だとも言っています。この理由の一つとして、この分析では厳しい組み込み基準を適用しているために、監視・検出能力の進歩によって捉えられるべき偶発的事例が除外されている可能性があることを挙げています。もう一つの理由として、他の事象よりも数桁規模が大きい現在進行中の COVID-19 パンデミックを分析から除外したことを挙げています。

この研究は、歴史的証拠の分析に基づいて、人獣共通感染症のスピルオーバーによって引き起こされた最近の一連の感染症流行が、より大規模に、より頻繁に発生していることをあらためて示しています。この傾向が続くと、世界的な感染症のリスクと負荷によって、人類の健康と生活への損失という形で大きく現れて行く可能性があります。

しかし、論文では、世界的な努力を結集し、流行を予防・封じ込める能力を向上させるなど、この傾向を打ち砕く行動をとることは可能であるとしています。行動指針として、森林伐採や気候変動など、パンデミック・リスクの要因に対処すること、公衆衛生の脅威を検知し、それに対応するために必要な技術とインフラを整備することなどを挙げています。

これらの提言のうち、特にインフラと技術の進歩の分野では、COVID-19 に対応して実施され、成功を収めているものもいくつかあると論文は述べています。例えば、mRNA ワクチンの迅速な開発、廃水検査や能動的な検査を利用した、旅行拠点、学校や大学などの人が集まる場所での集中的サーベイランスの実施、新興のウイルス変異体を検出するためのゲノムサーベイランスなどがあります。著者らは、これらはすべて、公衆衛生の脅威に対する回復力を向上させる上で、計り知れない価値を示していると評価しています。

世界的な予防、備え、回復力を支援する究極の対策パッケージは、まだ明確になっていません。しかし、論文で強調されていることは、歴史的な傾向から明白なこととして、グローバル・ヘルスに対する大規模かつ増大しつつあるリスクに対処するために、緊急の行動が必要である、ということです。

2. ワンヘルスと環境サーベイランス

人類の人口は過去 50 年余で約 37 億人から約 80 億人へと激増し、それの伴い、気候変動と大規模な環境変動も起こるようになりました。これらの急激な変化により、人類は野生動物、家畜、ペットと密接に接触する機会が増え、上述したように、人獣共通の感染症が伝播する機会も増えています。現在、新興ウイルス関連感染症の75%が人獣共通感染症に起因すると推定されており、2019 年からの COVID-19 の台頭とパンデミックは、世界経済にも大きな破壊的影響を及ぼすことも人類は経験しました。

COVID-19 はすでに人獣共通感染症として認識されており、新たなスピルオーバーにより新規変異体の流行についても監視の重要性が指摘されています。このように、感染症とどう向き合うかという課題について、世界はいま、従来の公衆衛生の考え方から、ヒトと野生生物、家畜などの健康を一括するワンヘルス(One health)の考え方へシフトしています。

ワンヘルスの取り組みの一つとして重要なのが、環境監視です [3, 4]。既知の病原体に加えて、まだ発見されていない未知の感染症について、人に隣接した環境を監視するための好ましいツールとしてどのようなものが適用できるか、また、それらが古典的な臨床診断をどのように補完できるかなどの重要な課題があります。例えば、廃水検査は、COVID-19 パンデミックの際、公衆衛生の専門家と政策立案者が SARS-CoV-2 の拡散を評価する主要なツールの 1 つとして認識されるに至りました。これは、上記のBMJ論文でも指摘されています。

このような COVID-19 や他のウイルス性疾患の例を通して、その有効性が証明されている廃水サーベイランスですが、ワンへルス主導のアプローチとしても評価されています。すなわち、集中的にネットワーク化でき、システムとして強固であり、費用対効果が高く、比較的簡単に実施できるため、臨床診断を補完する、きわめて有用な方法であることが提案されています [3]

COVID-19は人獣共通感染症として懸念されている最新の RNA ウイルス感染症であり、その起源と拡散に関する情報は、将来発生するリスクをどのように軽減するかを決定するのに役立つ可能性があります。このようなウイルスの動態の追跡に加えて、ワンヘルスアプローチとして適切で実行可能な介入策が提案されています [4]

第一に、野生動物-家畜-ヒト間の流出インターフェイスにおける疫学的リスクアセスメントと組み合わせたスマートなサーベイランス、第二に、パンデミックへの備えを強化し、ワクチンと治療薬の開発を促進するための研究、第三に、流出リスクと流出の根本的な要因を減らし、誤った情報の影響を軽減するための戦略です。これら三つすべてにおいて、バイオセーフティバイオセキュリティを改善し、ワンヘルスアプローチの実施と統合するための継続的な取り組みが不可欠とされています。

おわりに

気候変動、地球温暖化、地球環境変動の時代に突入したいま、従来に増して感染症が、それも人獣共通感染症が増加していき、被害が増えて行く可能性が高いことは、上記論文 [1] が示すとおりです。地球温暖化は、細菌病原体の増殖を促す方向に働くと予想されます。このための対策として、ワンヘルスに基づく環境監視が必須であり、具体的なツールと介入策が提案されています。

翻って、日本の取り組みはどうでしょうか。厚生労働省は、人獣共通感染症は、全ての感染症のうち約半数を占めているとして、医師および獣医師は、活動現場でこれらの感染症接触するリスクを有していると述べています [5]。そして、ワンヘルスの考え方を広く普及・啓発するとともに、分野間の連携を推進するとして、農水省環境省との連携を進めているようです。

しかし、海外の専門家から指摘されているような環境監視の重要性については、厚労省の HP を見てもいまひとつ具体的に伝わってきません。何よりも、COVID-19 パンデミックでは、検査抑制論に走り、長い間空気感染を認めず、5 類化後はいわば公衆衛生の維持と疫学情報の取得・公表を放棄してしまった、非科学的で「真に国民のためのヤル気」が見えない厚労省です。

廃水サーベイランスについては、今もって国主導で集中化、システム化されておらず、自治体の単発的な取り組みに任せっきりになっています。古典的な臨床医学に偏向したこの国の感染症対策の弊害が出ているような気がします。

mRNA ワクチンの導入は、COVID-19 感染の健康被害を軽減することには成功していますが、逆に多様なウイルス変異体を生み出し、社会に深く入り込んでしまうことを許す結果になっている可能性があります。これからワンヘルスの概念に立脚して、COVID-19 のみならず、様々な新興感染症をいかにして迎え撃つか、厚労省の姿勢を見ているといささか不安になります。

引用文献

[1] Meadows, A. J. et al.:Historical trends demonstrate a pattern of increasingly frequent and severe spillover events of high-consequence zoonotic viruses. BMJ Global Health 8, e012026 (2023). https://gh.bmj.com/content/8/11/e012026

[2] GrrlScientist(訳:高橋信夫):動物から人間に感染する病気、30年後の死者数は12倍以上に. Forbes Japan. 2023.11.12. https://forbesjapan.com/articles/detail/67214 

[3] Leifels. M. et al.: The one health perspective to improve environmental surveillance of zoonotic viruses: lessons from COVID-19 and outlook beyond. 
ISME Commun. 2, 107 (2022). https://doi.org/10.1038/s43705-022-00191-8

[4] Keusch, G. T.: Pandemic origins and a One Health approach to preparedness and prevention: Solutions based on SARS-CoV-2 and other RNA viruses. 
Proc. Natl. Acad. Sci. USA. 119, e2202871119 (2022). https://doi.org/10.1073/pnas.2202871119

[5] 厚生労働省: ワンヘルス・アプローチに基づく人獣共通感染症対策. https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000172990.html

引用したブログ記事

2022年3月9日 スピルオーバー:ヒトー野生動物間の新型コロナ感染 

      

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