Dr. TAIRA のブログII

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永遠のCOVID

カテゴリー:感染症とCOVID-19 (2024年)

はじめに

2024年を迎え、世界保健機構(WHO)は、COVID-19 などに関わる世界的な公衆衛生問題についての現状と見解を発信しました [1]。一言で表せば、COVID-19 パンデミックは継続中であり、この危機的状況に警鐘を鳴らしています。

国際共産主義組織である「第四インターナショナル」の分派の一つ、かつ主要団体である第四インターナショナル国際委員会(International Committee of the Fourth International [ICFI] )は、彼らのウェブサイト(World Social Web Site [WSWS])でこの WHO のプレスを取り上げ、批評しています [2](下図)

WSWS の記事は、もとより共産主義組織によるものであり、政治的メッセージには偏りがあって賛同できませんが(というより彼らの目標実現は不可能)、科学的内容については理解できる部分も大きいので、このブログで紹介したいと思います。以下、筆者による翻訳文を載せます。

1. WSWSの記事

パンデミックの4回目の冬を迎え、世界中で COVID-19 の感染者、入院者、死亡者が急増している。廃水監視が実施されているところでは、どこでも、現在のウイルス感染の程度は、パンデミック全体でも最高か2番目に高いレベルである。

現在も続いている集団感染の波は、世界保健機関(WHO)、バイデン政権、その他の各国保健機関が、昨年5月に COVID-19 公衆衛生緊急事態(PHE)終結宣言を行ったことの犯罪性を浮き彫りにしている。このような非科学的で政治的動機に基づく決定の結果、事実上すべてのパンデミック監視が解除され、一方で大勢の人々がパンデミックは終息したと誤信させられた。

先週行われた2回の異例の記者会見で、WHO当局はパンデミックの継続的な危険性を明らかにしたが、その一方で、もはや予防策を講じていない世界の人々を偽善的にたしなめるとともにに、このプロセスにおける自らの過失を無視している。

1月10日(水)、WHO のテドロス・アダノム・ゲブレイエスス事務局長は、12月に世界中で COVID-19 感染が急増したのは、休日の集まりと JN.1 変異体への進化が原因であると指摘した。そして次のように付け加えた。

12月には COVID-19 による死亡が 10,000 人近く WHO に報告され、11月に比べて入院が42%、ICU 入室が62%増加した。しかし、(死亡率に関する)トレンドは、ヨーロッパとアメリカ大陸を中心とした50カ国未満のデータに基づいている。報告されていない他の国々でも増加していることは確かである。

入院患者数に関する情報を提供しているのはわずか29カ国であり、ICU 入院患者数に関するデータを提供しているのはわずか21カ国である。これは、昨年5月の WHO の PHE 終了を受けて、大半の国がパンデミック監視システムを完全に解体したためである。

その2日後、WHO が UN Web TV で行った記者会見で、COVID、インフルエンザ、呼吸器系病原体の共流行について、COVID-19 に関する技術責任者であるマリア・ヴァン・カーコフ博士は次のように語った。

基本的に、公衆衛生と社会的措置が解除され、世界が解放されたことで、これらのウイルスやバクテリアは、空気を通して効率的に人々の間を行き来するようになったのです。

ヴァン・カーコフ氏は、世界の多くの地域でワクチンへのアクセスが依然として課題であることを述べ、ワクチンが入手可能であるにもかかわらず、その供給や接種率は極めて低く、免疫不全の人々や妊婦を含む高齢者や最も弱い立場にある人々への懸念が高まっていることを指摘した。そして、こう警告した。

今知っておくべき重要なことは、COVID による公衆衛生上のリスクは依然として世界的に高いということです。WHO に報告される症例ベースのデータは信頼できる指標ではありません。疫学曲線を見ると、ウイルスがいなくなったように見えますが、そうではありません。

彼女は、多くの国から得た廃水データに基づく推定によれば、SARS-CoV-2 の実際の循環量は、報告されている量の2倍から19倍である、と述べている。難しいのは、ウイルスが進化し続けていることであり、死亡者数は2年前より激減しているが、公式な COVID による死亡者数は月に約10,000人であることを指摘した。

しかし、ヴァン・カーコフ氏は、これはデータを報告している国の4分の1以下の見積もりであり、公式な死亡者数の半分は米国からのものである、と念を押した。彼女は単刀直入にこう言った。「これらの国々が死亡を報告していないからといって、死亡が起きていないということにはなりません」。

1月の公式数字は、JN.1 の流行の激しさと、連休中に屋内で行われた多くの大規模なイベント・集会から、上昇することが予想される。パンデミックが歯止めなく続いていることを認めた上で、ヴァン・カーコフ氏は次のように述べた。

一方では、 十分な検査、抗ウイルス薬の適切な入手と使用、適切な臨床ケア、医療用酸素、そしてもちろんワクチン接種によってCOVIDを予防できるにもかかわらず、COVIDによる各国の負担はあまりにも大きすぎると感じています。COVIDは依然として公衆衛生の脅威であり、あまりにも多くの負担を引き起こしているのです。

ヴァン・カーホフ氏は、入手可能な限られたデータから、現在世界中で「数十万人」がCOVIDで入院していると推定している。

ヴァン・カーコフ氏は次に、長期コロナ症(long COVID)と呼ばれる COVID-19 感染の急性期後のフェーズが重要であることを認めた。有症状の症例の6~10%が長期コロナ症に移行し、全身の複数の臓器に影響を及ぼす可能性があり、衰弱した状態が12カ月以上続くこともあるという。

単純に計算すれば、現在の世界的な急増だけでも数千万から数億人が、何らかのレベルの長期コロナ症を発症することになる。長期コロナ症を集団感染症、そしてパンデミック中のパンデミックと表現するのは大げさなことではない。

私たちが心配しているのは、5年後、10年後、20年後に、心臓障害、肺障害、神経障害がどうなっているかということだ、と彼女は警告した。「このウイルスのすべてがわかっているわけではないのです」。彼女は続けて、この問題は重大であり、長期コロナ症をよりよく理解し治療するための研究は、財政的に深刻な資金不足に陥っていると述べた。

この2人の WHO 首脳による悲惨な報告は、疑問を投げかける。なぜ彼らは、PHE を速やかに復活させ、ウイルスの蔓延を遅らせるために、すべての国の政府に厳格な COVID 対策措置を再施行するよう促さないのだろうか。

WHO が昨年5月、バイデン政権が発足する1週間前に突然 PHE を廃止したのは、米国帝国主義からの強い圧力があったからである。WHO は政治的圧力に動かされたのであって、この措置が、COVID-19 が依然としてもたらしている公衆衛生の脅威を変えるような意味のあるものではなかったのである。

オミクロンの JN.1 系統が下気道を好む傾向が強いという最近の証拠や、それに付随してウイルスが初期の強毒型に戻る危険性を考慮すると、PHE を再実施し、すべての国で包括的な公衆衛生プログラムに大規模な資金を投入することが不可欠である。

それにもかかわらず、世界各国政府は、呼吸器官だけでなく全身の臓器系に害を及ぼす非常に危険なウイルスへの感染を際限なく繰り返すという、残忍な「永遠のCOVID」“forever COVID” 政策を押し付けてきている。このような政策を実行し続けることの長期的な結果が、世界人口の健康に重大な影響を及ぼすという証拠が蓄積されつつある。

WSWS の2024年新年の声明の第2部が明らかにしているように、現在および将来の公衆衛生の危機に対する唯一の実行可能な解決策は、2023年春の上海での取り組みで証明されたように、感染力の強いオミクロン変異体に直面しても可能であることが証明された世界的な排除戦略である。ポイント28での主張は以下のとおりである。

中国におけるゼロコロナの長年の成功は、COVID-19に向けた排除戦略の実行可能性を証明した。同時に、その最終的な終焉は、帝国主義の時代において、いかなる国家ベースのプログラムも実行不可能であることを再確認させた。実行不可能であることが証明されたのは、国の枠組みであって、政策そのものではなかった。撲滅は依然として実行可能であり、必要であるが、現在では、以下の原則のために闘う大衆運動の構築によってのみ達成することができる:

パンデミックとの闘いは、社会主義的解決を必要とする政治的・革命的問題である。公衆衛生の組織は、企業の利益ではなく、社会的必要性に基づいていなければならない。すべての医療、製薬、保険会社から利潤動機を完全に排除しなければならない。

世界的に協調した戦略のみが、COVID-19のパンデミックに対処し、潜在的な伝染病やパンデミック病原体を予防するための包括的な戦略を開発する条件を作り出すことができる。WHO首脳の発言は、新年の声明で WSWS が導き出した以下の結論を確認するものである。

パンデミックの4年後、世界資本主義のもとでは、このような世界戦略が決して生まれないことは明らかになった。資本主義は、金に狂った金融寡頭政治の飽くなき利潤追求にすべての公衆衛生支出を従属させているのである。公衆衛生の中心的概念である、病気をなくす、根絶するという考え方そのものが放棄されている。世界社会主義革命によってのみ、パンデミックを終わらせ、資本主義的蛮行と第三次世界大戦へのさらなる転落を止めることが可能になる。

おわりに

WSWS は、COVID-19 パンデミックに関する WHO の現状認識をトレースするとともに、WHO の対応を批判しています。その主要なものは、なぜ、PHE を再実施しな復活させないのか、ということです。彼らの 現在の COVID-19 流行に関する科学的解釈は妥当なものです。ウイルス撲滅のためには、中国が行なったようなゼロコロナ戦略が必要だというのも頷けます。

ただ、人間はあらゆる生物学的価値を貨幣価値に変えてしまった生物であり、金がなければ生活できないです。その前提での資本主義経済の選択と実行が、いずれ破綻するとわかっていながら、その解決をひたすら先送りしながら、突き進むしかない悲しい性を持ち合わせています。分かっていながら、欲望の果実の味を覚えた人間には、ゼロコロナも社会主義共産主義も不可能なことは明らかであり、WSWS の政治的メッセージは実現性に乏しいと言わざるを得ません。経済優先はゼロコロナは相反するものであり、もはや「永遠のCOVID」とともに不健康時代を生きて行くしかないのかもしれません。

厚生労働省の発表では、昨年8月までの国内のCOVID死亡者は約9万5千人に上っています。現在はおそらく10万人を超えているでしょう。COVID 関連死も含めればもっと多くなるかもしれません。その意味で、最近やたら芸能人の体調不良や訃報が多いのが気になります。

年が明けて、JN.1 による第10波流行はますます顕著になってきました。人々が情報に閉ざされ、無防備になっている状況での流行は、過去最悪の被害をもたらすことが懸念されます。

引用文献・記事

[1] World Health Organization: Virtual press conference on global health issues transcript – 10 January 2024. https://www.who.int/publications/m/item/virtual-press-conference-on-global-health-issues-transcript-10-january-2024

[2] Mateus, B.: WHO officials warn sharply of the ongoing dangers of the COVID-19 pandemic. WSWS Janurary 15, 2024. https://www.wsws.org/en/articles/2024/01/15/covi-j15.html

          

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