Dr. TAIRA のブログII

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COVIDウイルスの体内持続性は何を意味するのか?

カテゴリー:感染症とCOVID-19 (2024年)

はじめに

SARS-CoV-2 に感染した人々は、かなり割合(10% 前後)で長期コロナ症(long COVID)に移行するとされています。長期コロナ症とは、米国疾病予防管理センター(CDC)によれば、COVID-19 に罹患後、数週間、数カ月、あるいは数年にわたり、再発を繰り返したり、新たな健康問題を引き起こしたりするものです。

長期コロナ症の患者は、いわゆる風邪のような急性期の症状の後に、息切れ、倦怠感、疲労感、ブレインフォグ(脳霧)、肉体的な衰えなどの症状を呈し、さまざまな程度の免疫調節障害、臓器や組織の損傷を経験します。

しかし、なぜこのようなことが起こるのか、いろいろな角度から研究がなされていますが、依然としてわからないことが多いです。一つの仮説としては、SARS-CoV-2 が何らかの形や場所で、急性感染後も長期間体内で持続しているのではないかということが提唱されています。

今回、この仮説を後押しするような論文(コレスポンデンス)が発表されました [1]下図)。早速この論文を解説したウェブ記事 [2] も出ています。これらを適宜翻訳しながら、このブログで紹介したいと思います。結論から言えば、SARS-CoV-2 は感染すると、急性期の程度次第で体内で持続しやすく、それが症状の長期化(慢性化)の原因になるということです。このウイルスの特徴の一つと言えるものです。

1. 研究の背景

長期コロナ症の患者は、SARS-CoV-2 の持続的なリザーバーになっているという断片的な証拠はこれまでも提示されてきました。ウイルスが残っていれば、様々な健康障害も出てくるだろうということは当然予想されることです。

多くの先行研究で、長期症状とウイルスRNAの検出との関係が論じられています [例:3, 4]。長期症状患者におけるウイルスの再活性、免疫との関係、様々なタンパクマーカーのレベル上昇も報じられています [5]。ウイルスタンパク断片の再会合によって重篤な症状になる可能性も指摘されています(COVID-19が重篤炎症に至る謎を解く鍵はウイルスの断片)。

しかし、少なくとも SARS-CoV-2 の持続性に関しては、既往研究にいくつかの限界があることも事実でした。たとえば、対象集団が小規模で代表とするには弱いこと、急性感染からの期間が短いこと、ワクチン接種歴や再感染歴の記録が不明確であること、アッセイの特異性を評価するための真の陰性比較対象群が存在しないことなどの限界がありました。

これらの限界に対処するため、今回の研究では、PCRで確定診断された SARS-CoV-2 感染後 14 ヵ月間で、よく特徴づけられた成人 171 人の血漿サンプルについて調査を行っています。

2. 研究の概要

今回の研究は、米カリフォルニア大学やハーバード大学などの共同研究チームによってなされたもので、その成果は Lancet Infectious DIsease に論文掲載されています [1]。ウイルス RNA で陽性とされた患者の血漿サンプルについて、さらに抗原レベルで検出を行ったことが特徴です。

血漿サンプルとして、COVID パンデミック時代に検査された 660 検体(成人 171 人分)を用いました。検出の特異性を理解するために、2020 年以前(パンデミック前)に採取され、定義上 SARS-CoV-2 に感染していない成人 250 人のサンプルと比較しました。これらのサンプルを対象として、Simoa(Quanterix社製)1 分子アレイ検出プラットフォームを用いて、SARS-CoV-2 のスパイク抗原、S1 抗原、およびヌクレオカプシド(N)抗原を測定しました。

分析の結果、パンデミック時代の 660 検体( 171 人分)のうち、42 人(25%)からの 61 検体が、1 つ以上の SARS-CoV-2 抗原を有していました。最も多く検出された抗原はスパイク(n = 33)であり、次いで S1(n = 15)、N(n = 15)となりました。陽性率が 2% であったパンデミック前の参加者のサンプルと比較して、パンデミック時代のサンプルでは、感染後急性期の 3 つのタイムポイントすべてにおいて、いずれかの抗原が検出される頻度が有意に高くなりました。

興味深いことに、急性 COVID-19 で入院を必要とした参加者は、入院しなかった参加者と比較して、ウイルス抗原が検出される可能性が約 2 倍高くなりました。また、入院していない参加者のうち、COVID-19 急性期に自己申告した健康状態が悪かった人ほど、急性期後の抗原検出率が高くなりました。つまり、急性期の病状が重いほど、ウイルスの持続性が高いということです。

これらの所見は、持続的な SARS-CoV-2 リザーバーの確立に、感染急性期が影響することを示唆するものです。SARS-CoV-2 が血流を通じて全身に感染し、一部の部位で保護されたリザーバーを確立する可能性を示唆しています。あるいは、急性感染症がより重症化するのは、一次感染部位への侵入量が多くなり、免疫クリアランスを回避できる可能性が高くなることを示しているかもしれません。

データ解釈への懸念の一つとして、SARS-CoV-2 に対するワクチン接種または最近の再感染が、陽性結果の解釈に影響を及ぼすのではないかということがあります。このため、研究チームは、これらの発生以前に採取された検体を中心に調査しています。ほとんどの検体は、SARS-CoV-2 のデルタ型とオミクロン型が出現する前に採取されたもので、再感染が一般的になった時期でもあります。

今回の SARS-CoV-2 の測定は、免疫(抗原抗体)反応によるものであるため、すべてのシグナルが抗原に特異的であると仮定することはできないという限界に留意する必要があります。今回のサンプルはウイルス RNA の検出で全てチェックされていますが、そこから算出される Simoa 法で記録した特異度は 98% です。この数字は十分に高いですが不完全です。関連病原体や宿主由来の抗原は理論的には交差反応する可能性があり、一般的に特異性がほぼ完全で、シークエンシングによる直接分析物の評価が可能な核酸レベルの検出とは異なります。

要約すると、今回の結果は、SARS-CoV-2が何らかの形や場所で、急性感染後最大 14 ヵ月間持続するという強力な証拠を提示しており、この持続性が急性感染時の事象に影響されることを示唆しています。これらの知見から、SARS-CoV-2の持続性の臨床症状、特に急性感染後の長期症状(例えば、疲労、疼痛、認知障害)あるいは個別の合併症(例えば、心血管系イベント)と因果関係があるかどうかに関して、緊急の研究課題として提起されます。

そして、新規の SARS-CoV-2 感染はすべて長期化(慢性化)する可能性があるという事実が語られています [2]。これは、このウイルスと COVID-19 の最も懸念すべき点です。従来考えられている以上にウイルスの持続性があり、その影響が長引くということです。

おわりに

今回の研究 [1] にもあるように、長期コロナ症においては、ウイルスの持続性が関係しているということはより確実性を持って言えるようになってきました。しかし、様々な疑問もあります。その一つは、急性期の症状が重くてウイルス量が高い場合、それが長期的なリザーバー形成に影響を与えるとしても、急性期の症状に関わりなく長期コロナ症になる人も多いということです。

私の知人は感染時風邪程度の軽症でしたが、後で長期的な障害で苦しんでいます。このように感染時ほとんど無症状でも長期コロナ症になることはよく報告されています。この場合は、ウイルスの持続性はどうなっているのでしょうか?

COVID ワクチンは、長期コロナ症の予防効果を持つことが報告されています [6, 7]。これはワクチンが COVID-19 の発症そのものの予防効果があるために、必然として長期コロナ症の患者も少なくなるということです。ところが、実際の COVID-19 発症者数に対する長期コロナ症患者数の割合を見ると、ワクチン接種者の方が非接種者よりも高くなっています。これはどういうことでしょうか。ワクチン接種者の COVID 発症者は比較的重度の人がカウントされていて、その分長期症状になる人(ウイルスの持続性が高い人)が多いということでしょうか。ワクチンが絡むと状況は複雑になります。

ウイルスのリザーバーがあるとしてもその部位は人によって異なり、それに応じて症状も異なってくるというのも容易に想像されます。長期コロナ症患者の異質性はよく理解されており [5]、どこにウイルスの巣があるのか、それが病状とどのような関係があるのかを明らかにしていくことが課題でしょう。ウイルスの変異体との関係も検討されるべきです。

あと重要なこととして、ウイルスの持続性ということで語られていますが、これは本当にウイルスそのもなのか、あるいはひょっとしてゲノムDNAに組み込まれたウイルスやワクチンの遺伝情報の発現によるものではないのか、念のために確かめておく必要があると思います。どういうわけか、ウイルス RNA やワクチン mRNA の DNA 統合の可能性については無視されたままです。

気になるのが、今回の研究で検出されたウイルス抗原の検出頻度が、N 抗原よりもスパイクの方が高かったことです。このデータはワクチン接種前の話なので、ワクチンの影響は排除できます。そうするとウイルスの影響ということになりますが、DNA に組み込まれた遺伝情報の部分的発現が影響していることはないでしょうか。

引用文献

[1] Peluso, M. J. et al.: Plasma-based antigen persistence in the post-acute phase of COVID-19。 Lancet Infect. Dis. Published April 08, 2024. https://doi.org/10.1016/S1473-3099(24)00211-1

[2] Dayne, J: COVID can quietly linger in your body long after getting sick. What does that mean?  Miami Herald, April 11, 2024. https://www.yahoo.com/news/covid-quietly-linger-body-long-222930491.html?soc_src=social-sh&soc_trk=tw&tsrc=twtr

[3] Proal, A. D. et al.: SARS-CoV-2 reservoir in post-acute sequelae of COVID-19 (PASC). Nat. Immunol. 24, 1616–1627 (2023). https://doi.org/10.1038/s41590-023-01601-2

[4] Zhang, Y. et al: Viral afterlife: SARS-CoV-2 as a reservoir of immunomimetic peptides that reassemble into proinflammatory supramolecular complexes. Proc. Natl. Acad. Sci. USA. 121, e2300644120 (2024). https://doi.org/10.1073/pnas.2300644120

[5] Klein, J. et al. Distinguishing features of Long COVID identified through immune profiling. Nature. Published September 25, 2023. https://doi.org/10.1038/s41586-023-06651-y

[6] Català, M. et al.: The effectiveness of COVID-19 vaccines to prevent long COVID symptoms: staggered cohort study of data from the UK, Spain, and Estonia. 
Lancet Respir. Med. 12, 225-236 (2024). https://doi.org/10.1016/S2213-2600(23)00414-9
[7] Trinh, N. T. H. et al.: Effectiveness of COVID-19 vaccines to prevent long COVID: data from Norway. Lancet Respir. Med. Published April 10, 2024. https://doi.org/10.1016/S2213-2600(24)00082-1

引用したブログ記事

2024年2月3日 COVID-19が重篤炎症に至る謎を解く鍵はウイルスの断片

        

カテゴリー:感染症とCOVID-19 (2024年)