Dr. TAIRA のブログII

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コロナ禍で反ワクチン論にハマった人の政治的傾向

カテゴリー:感染症とCOVID-19 (2024年)

はじめに

COVID-19パンデミックでは、人類史上初の mRNA ワクチンが緊急承認され、世界各国で国策としてのワクチン接種プログラムが実施されました。原因病原体であるSARS-CoV-2は、自然感染とワクチン獲得免疫を逃避するかのように変異を繰り返しており、ブレイクスルー感染に対応したワクチン開発とブースター接種は今なお行なわれています。

それとともに、顕著になったのが反ワクチン派の声です。単なる反ワクチンと mRNA COVID-19 ワクチン批判は分けて考えなければいけませんが、しばしば一括りにされてしまう傾向にあります。mRNA ワクチンは、抗原を注射して抗体を獲得するという従来のワクチンではありません。すなわち、抗原をコードした指令書(mRNA)を脂質ナノ粒子に包んで体内に導入し、宿主自身にワクチン(抗原)をつくらせるというものです。その意味で、厳密には、ワクチンではなく mRNA 型生物製剤と呼ぶべきでしょう。

今回、SNS上で反映されたワクチン反対派の社会的、政治的傾向を分析した論文が発表されました。東京大学大学院工学系研究科の鳥海不二夫教授らによる共同研究の成果です [1](下図)。研究チームは、旧ツイッターに投稿された、ワクチン関連の大量の文章を機械学習で分析し、コロナ禍以前からの反ワクチン派と新たにワクチン反対になる人の特徴を明らかにしました。

結論から言えば、コロナ禍以前からの反ワクチン派は、リベラル・左派政党とのつながりが強い、政治的関心が高い人々で構成されているというものです。一方、パンデミック下で初めてワクチン反対派になった人々は政治的関心度は低く、陰謀論スピリチュアリティ自然派食品や代替医療への関心が強い傾向にありました。

今回の研究成果は大学からプレリリースされており [2]、概要はそれを見れば理解できます。ここでは、特に論文が触れていない重要な点を指摘しながら、この研究の意義と限界を述べたいと思います。

1. 研究の概要

本研究は、2021年1月から12月までに投稿されたツイートについて、「ワクチン」という言葉を含む約 1 億件を収集し、機械学習を用いて「ワクチン肯定」「ワクチン政策批判」「反ワクチン」のクラスターを特定化しました。そして、第一に反ワクチン派の特徴を記し、第二に、パンデミック以前からの反ワクチン派とそれ以降に新たな反対派の比較分析で、新規にワクチン反対派になる「きっかけ」を分析しました。最後に、政党やその党首のアカウントのフォロー率を分析することで、新規にワクチン反対派になったユーザの政治的特徴や反ワクチン政党である参政党への傾倒を明らかにしました。

1-1. 反ワクチン派の記述的特徴

研究チームは、まず、反ワクチン派とワクチン肯定派の記述的特徴を分析しました。この分析では、反ワクチンインフルエンサーについて、反ワクチン情報を拡散し、10,000人以上のフォロワーを持ち、1000回以上リツイートされた投稿を持つアカウントと定義しました。

分析の結果、ツイッターの利用初期に反ワクチンインフルエンサーをフォローしている人は、反ワクチン態度を維持する可能性が高いことがわかりました。これらの特徴には、2つの傾向が見られました。一つは、反ワクチン情報を収集する目的でツイッターを使い始めた人は、一貫して反ワクチンであるということです。もう一つは、使用初期に何らかの理由で反ワクチンのインフルエンサーをフォローすることで、そのインフルエンサーに感化され、反ワクチンの態度を持続的に持つようになるという傾向が見られました。

加えて 反ワクチン群は、政治、日本、日本共産党原発、民主主義など、政治に関連する用語の使用が多いことで特徴付けられました。このような政治への関心の高さは、世界的な大流行によって、反ワクチンが政治化したことを示す先行研究と一致しています。

一方、ワクチン肯定に分類される群の最も多い特徴は、ゲームやアニメのような文化的人工物への嗜好性が高いということであり、政治的なキーワードは希薄でした。これらのアカウントは、投稿やリツイートを通じてワクチンについても言及しているものの、ゲームやアニメへの個人的な関心が圧倒的に高く、SNS が趣味のプラットフォームとして機能していることがわかりました。つまり、個人的趣味としてツイッターを利用している人は、反ワクチン的な態度を持つ可能性は低いものでした。

1-2. 反ワクチン継続者と新規反ワクチン派との比較

次に、2020年1月に反ワクチン群に属し、2021年12月もこの分類を維持している人々(N=12,999)を HH 群としました。同様に、2020年1月時点ではワクチン肯定であったものの、2021年12月に反ワクチンに転換した人(N=1921)を LH 群としました。この分析の目的は、パンデミック発生後に、反ワクチンのスタンスに切り替えた人々の特徴を捉えることです。

HH 群と LH 群に見られる 43% を占める最大のクラスターは、陰謀論、健康不安、スピリチュアルな言説、自然主義的言説に関連する言葉で特徴付けられました。このクラスターは、また、健康、免疫、ダイエットといった用語が示すように、スピリチュアルや自然主義に傾倒する健康志向クラスターと解釈できます。さらに、このクラスターには、政治的言説が登場しないことでも特徴付けられました。

二番目に大きいクラスターは強い左派的特徴を示していました(左派クラスターと呼称)。プロフィールの文章には左派政党「れいわ新撰組」とその代表である山本太郎氏が頻繁に登場し、安倍晋三元首相とその政権に対する批判や「維新」のような右派政党に対する敵意を表していました。

三番目のクラスターは、原発反対、福島の放射能汚染への懸念、反戦感情、沖縄米軍基地問題日本共産党への支持など、典型的な左派政党が支持する問題への関心の高さを示していました(左派問題クラスターと呼称)。二番目と三番目のクラスターの違いとしては、前者が主に政党や指導者に言及しているのに対し、後者は左翼イデオロギーに沿った問題に焦点を当てていることです。

第四のクラスターは右派クラスターと思われますが、原文を直訳しても、その意味に整合性がありませんでした。以下に、私の翻訳と原文を示します。

対照的に第四のクラスターは、「反日」勢力、保守主義天皇、日の丸、右派政治家に対する敵意を表明しており、保守的イデオロギーを持つ右派クラスターを反映している。

(原文) The fourth cluster, in contrast, expresses hostility toward “anti-Japanese” forces, conservatism, the emperor, the Japanese flag, and rightist politicians, reflecting a rightist cluster with conservative ideology.

HH 群と LH 群とでは、クラスター構成員のパターンにやや違いがありました。HH 群では、陰謀論・スピリチュアル・自然主義クラスターに37.8%、左派クラスターに31.3%、左派問題クラスターに 11.3% が属しており、右派的傾向は 8.5% とわずかでした。一方、LH 群では、第一クラスターが圧倒的に多く(82.7%)、左派クラスターは 10% でした。

この結果は、HH 群の多くが左派的政治イデオロギーをもつことを示唆しています。一方、パンデミック後に新たに出現した反ワクチン派は、陰謀論、スピリチュアル、自然主義に強い傾倒を持っていることを表しています。このように、HH 群の政治的スタンスは LH 群よりも明確ですが、同時に陰謀論やスピリチュアル/自然主義的言説への傾斜も顕著であるということです。

1-3. 反ワクチン政党の国政進出

最後に、ツイッター上での反ワクチン意識の浸透が、反ワクチン新興政党である参政党の躍進に寄与したかどうかを検証しました。

ワクチン接種に反対し続けた HH 群は、パンデミックの間、立憲民主党、れいわ、日本共産党のようなリベラル・左派政党を支持する傾向が強かったことを示していましたが、このパターンは比較的一貫しており、2022年3月から9月にかけて参政党への支持はわずかに上昇した程度でした。

対照的に、新たな反ワクチン派である LH 群は、著名な政治家や主要政党を支持する傾向は弱まりしたが、例外的に参政党を支持が多くなりました。2022年3月にはすでに13%が参政党またはそのリーダーをフォローしていましたが、9月にはそれが24%に上昇しました。

参政党は、反ワクチン言説を選挙キャンペーンの中心に据えた政党です。このキャンペーンは、既存の反ワクチン有権者(HH 群)の支持を得ることに部分的に成功しましたが、それ以上に、パンデミック後に反ワクチン意識を持った新たな反ワクチン層(LH群)の支持を迅速に得る結果になりました。一方、永続的な反ワクチン論者は、既存のリベラル政党や保守政党への支持が高いため、参政党への移行は限定的でした。

パンデミック以前に政治的関心が薄く、既成政党との結びつきも弱かったけれども、健康、スピリチュアル、陰謀論に以前から関心があった個人は、参政党の選挙活動を好意的に受け止めた可能性が高いと考えられます。

2. 研究結果の解釈と意義

COVID-19パンデミックとワクチン接種の広範な推進は、反ワクチン感情の広がりを早めており、ソーシャルメディアの広範な利用がそれを促進しています。これまでの研究では、ワクチン接種に反対する人々の特徴については明らかにされてきましたが、人々がそのような意見を採用するようになる要因についてはほとんど検討されてきませんでした。その意味で、本研究では、日本のツイッター上の反ワクチン言説を縦断的に分析し、反ワクチン派への傾倒・変容の要因を明らかにした点で価値があります。

第一の知見として、根強い反ワクチン派は、ワクチンに好意的関心のあるツイッターユーザーよりも政治的関心が強いことが挙げられます。特に、大部分が左派的傾向にあることが特徴であり、立憲民主党日本共産党、れいわ新撰組など、既存のリベラル・左派政党や政治家を支持する傾向がありました。その立ち位置から政治的な言葉が発信しています。これは、非反ワクチン派が、ワクチンについてツイート/リツイートする一方で、主にゲームやアニメといった私的な趣味領域に関心を持っていることと対照的です。

反ワクチン派は、パンデミック以前から一貫して反ワクチンだったユーザーと、パンデミック後に反ワクチンに転じたユーザーでは少し政治的態度が異なります。前者はツイッター利用の初期段階で反ワクチンのインフルエンサーをフォローしており、もともとワクチンに関心があり、ツイッター上でより社会的影響力を持っていたことが示唆されます。そして、新しく反ワクチンになった人よりも政治的関心が高く、いわゆる左寄りの人が多いということです。新しく反ワクチンになった人たちは、政治的関心は低いけれでも、健康、スピリチュアル、自然主義的言説、陰謀論に特別な関心を持っている傾向があります。

このような傾向から、新たな反ワクチン論者の出現は、主に政治的関心によって引き起こされたものではないことを示唆しています。むしろ、陰謀論、スピリチュアルな言説、健康に対する既存の関心が、パンデミック時に反ワクチンに傾倒する入口として作用した可能性があります。

上記のように、根強い反ワクチン派が、既存のリベラル・左派政党や政治家を支持する傾向がある一方で、新たな反ワクチン派は既存の政党を支持することはありませんでした。ところが、2022年3月から9月にかけて、反ワクチンの参政党を支持する新規の反ワクチンが急増したことから、この党がパンデミック下で反ワクチンとなった人々へのアピールに成功し、結果としてが国会で議席を獲得したことが考えられます。

要約すれば、健康やスピリチュアリティに強い関心を持ち、パンデミック関連の不安に駆られている場合、反ワクチンにそれほど信念を持たない個人が反ワクチンツイートに接することで、反ワクチンの陰謀論とスピリチュアルな言説が混在する政党を支持する傾向があるのかもしれません。

3. 研究の限界

本研究にはいくつかの限界があることは論文中でも述べられています。方法論の問題としては、反ワクチン情報を拡散するアカウントを不釣り合いにフォローしている人々を反ワクチン派と仮定していることが挙げられます。これらのユーザーが、実際に反ワクチンの態度を反映しているかということについては、議論の余地があるでしょう。

また、実際はそれほど多くはありませんが、反ワクチン情報を拡散するアカウントとワクチン推進のアカウントの両方をフォローしている場合、ワクチンへの賛否の態度表明というよりも、むしろ、単純な情報探索行動を反映している可能性があります。したがって、反ワクチン態度の推定をより精緻化するためのアプローチが求められます。

次に、本研究は日本の事例のみに焦点をあてているため、知見のどの部分が日本特有のもので、どの部分がグローバルに一般化できるのかが不明であるという問題があります。ただ、スピリチュアリティが反ワクチン態度の入り口になることを示唆する、海外の先行研究例がありますので、この部分では、日本以外にも一般化できる可能性があります。

論文では、特に、反ワクチン派が政治的に大きな影響力を持つかどうかについて、国によって事情が異なるとしながら、日本の参政党の台頭を挙げています。海外では、既存の右翼政党やポピュリスト政党が反ワクチン派を吸収している一方で、反ワクチンと結びついた参政党の場合は、日本特有の大きな要因があると考えられると述べています。しかし、選挙での投票行動との因果関係は立証されていませんので、この点では追研究が必要です。

本論文で触れられていない点として、反ワクチンの人々の属性があります。たとえば、反ワクチンとはニュアンスが異なりますが、ワクチン接種の「ためらい」率と教育・教養レベルとの関係があることが、Kingらの先行論文で示されています [3]。この論文では、接種忌避率は、低学歴の人々と専門性の高い高学歴、博士学位取得者の両端で高いこと、一方、接種率は学卒で高いことが示されています。そして、低学歴の人々は、状況次第でそれを考え直すこともあるけれども、高学歴者はなかなか考えを変えないことも述べられています(関連ブログ→ワクチン接種へのためらい率は高学歴者で最も高い)。

これは、mRNA ワクチンをどう捉えるか、その知識が深いかどうかという一つの現れでもあります。つまり、従来の概念のワクチンの効用は認めるけれども、mRNA 製剤には安全性の点で慎重にならざるを得ないという考えが、COVID-19・mRNAワクチンの最新知見への科学的理解が深まるほどに強くなるということでしょう。

ちなみに、今回の鳥海教授らの論文では、Kingらの論文は引用されていません。

しかしながら、もとより、mRNA ワクチンの接種は世界的な国策であり、そのなかでも日本は格段に接種率が高い国です。仕事上、環境上接種せざるを得ない人々もたくさんいたはずで、接種後に健康上何もなければ、自動的にそれを肯定する立場になるのではないかと思われます。

これは、mRNA ワクチン接種後の死亡や心筋炎発症などが、接種人口に比べればきわめて稀であり、統計的に有意な有害事象として検出することは困難である(つまり、ワクチンは安全とされる)ことも関係するでしょう。

反ワクチン派が政治的関心度が高いというのはいいとして、反ワクチンと一括りにした、言葉の傾向によるパターン分析で、左寄りとか右寄りとかの政治的イデオロギーに結びつけるのは、いささか危ない気もします。学歴、科学性、知識と情報リテラシーの程度、職場環境などの要因分析が必要ではないかと考えます。

おわりに

今回の研究は、リベラル・左派系の政治信条を持った強固の反ワクチン論者が存在する一方で、政治には無関心であるものの、陰謀論スピリチュアリティなどが入口となって反ワクチン的態度を持つようになる人がいることを明らかにした点で新規性があります。とはいえ、方法としては、ツイッター上の言葉を機械学習で分析しただけのことなので、言葉の分類で反ワクチンの特性、政治的傾向が単純化された可能性があります。

実際は、ワクチン一般には賛成だけども、mRNA COVID ワクチンには反対、慎重という人たちがかなりいるはずで、これらの傾向の人は今回の研究では埋もれてしまっています。mRNA ワクチンに対するこのような考えに至るには、高度な知識や高い情報リテラシーが必要で、その意味で学歴や知識レベルなどの属性が関係していると思われますが、今回の分析では検討されていません。

論文が指摘する、陰謀論スピリチュアリティが反ワクチン的態度の拡散につながらないようにする方法論が公衆衛生の維持に必要というのは、全くそのとおりです。しかし、問題はかなり複雑で、薬品メーカーと政治の利権が絡み、mRNA ワクチンの安全性には検討の余地があるにもかかわらず(たとえば、合成されたスパイクタンパクの断片の影響、レトロポジションによるDNA統合の可能性など)、ワクチン推進の当局、権力側からの主張はスラムダンク状態です。

引用文献・記事

[1] Toriumi, F. et al.: Anti-vaccine rabbit hole leads to political representation: the case of Twitter in Japan. J Comput Soc Sci. Published February 5, 2024. https://doi.org/10.1007/s42001-023-00241-8

[2] 東京大学工学部プレリリース: 人はなぜワクチン反対派になるのか ―コロナ禍におけるワクチンツイートの分析―. 2024.02.05. https://www.t.u-tokyo.ac.jp/press/pr2024-02-05-001

[3] King, W. C. et al.: Time trends, factors associated with, and reasons for COVID-19 vaccine hesitancy: A massive online survey of US adults from January-May 2021. PLoS ONE 16, e0260731 (2021). https://doi.org/10.1371/journal.pone.0260731

引用したブログ記事

2021年8月13日 ワクチン接種へのためらい率は高学歴者で最も高い

         

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