Dr. TAIRA のブログII

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メディアも政府も口にしないコロナに毎週人々が感染する

カテゴリー:感染症とCOVID-19 (2023年)

はじめに

先日、エックス(X)(旧ツイッター)のタイムラインに、ジョン・スノウ・プロジェクト(Jons Snow Project, JSPのポストが目にとまりました(以下)。"International Guidance on Preventing Long Covid"というタイトルの記事 [1] の紹介で、long COVID(長期コロナ症)への対策に言及しています。

JSPのホームページは匿名のサイトで少々怪しげな感じはあるのですが、中身はごくまともなことを言っているので、ここで紹介したいと思います。この記事 [1] についてはSNS上でもいくつか引用されています。政府はもとより、大手マスコミもテレビも「コロナを口にしなくなった」いまだからこそ、注視する必要があると思います。

1. ジョン・スノウ・プロジェクトとは?

ジョン・スノウ・プロジェクト(JSP)は、今年2月に設立された米国の任意団体のようです。プロジェクトの目的は、COVID-19に関する情報を提供し、一般の人々や政策立案者が、この病気によってもたらされるリスクと、そのリスクを最善の方法で管理する方法を理解できるよう、消化しやすい情報を提供することである、としています。最新の科学的研究を理解するための記事や論説を配信し、COVID-19が家族、地域社会、職場に及ぼす影響を軽減するために、人々ができる実践的な方法を明らかにし、病気の影響を軽減するワクチンや治療薬の最新の開発状況を把握するのに役立てるとしています。

ただ、JSPの構成メンバーの名前は所属は一切出てきません。インターネットで調べたり、米国の研究者に尋ねたりしましたが、めぼしい情報は得られず、今のところほとんど正体不明と言ったところです。したがって、今のところ、彼ら自身の自己紹介文が唯一知る手段です。その点は割り引いてみる必要があります。

JSP編集グループは、ウイルス(SARS-CoV-2)の特徴、病気の特徴、そしてそれがもたらす課題を予測した優れた実績を持つ人物で構成されていると述べています。メンバーは、疫学、免疫学、微生物学、臨床実践、公衆衛生およびグローバルヘルスの専門知識を有しているとしています。メンバーには臨床医も含まれているようで、その多くは、過去3年間COVID-19患者の治療に携わり、現在は急性疾患と感染による長期的影響の両方に苦しむ患者の治療にあたっていると紹介されています。

JSP編集部の自己紹介文によれば、ボランティアと寄付によってコンテンツを制作しているとあり、編集方針に影響を与えるような政治的、経済的、社会的組織とは一切関係ないとしています。そして自らを、「自分自身と自分の愛する人たちのために、より良い世界を見たいと願い、ボランティアとして時間を捧げている個人で構成されている」と紹介しています。

ちなみに、このプロジェクト名は、英国の医師であるジョン・スノウ(1813–1858年)にちなんで付けられた名前です。J. スノウの名前は、公衆衛生微生物学を学んだ者であれば、一度は耳にしたことがあるでしょう。彼は、麻酔と医療衛生の発展に貢献した医者で、1854年にロンドンで起きたコレラVibrio cholelaeによる感染症の発生原因を追跡したことで、現代の疫学の創始者の一人と讃えられています。

19世紀半ばはまだ微生物の概念が確立しておらず、ルイ・パスツールが、スープが腐るのは空中から落下する微生物が原因として、従来の「生命の自然発生説」を否定した時期の直前です。 この時代にコレラが水を通して発生することを J. スノウが主張したことは、彼の洞察力の高さを物語るものです。

2. プロジェクトが掲げる5つのメッセージ

それでは、JSPはCOVID-19について何と言っているのか、このサイトをみてみましょう。私たちは「COVID-19について語る必要がある」として、5つの基本メッセージを掲げています(下図)。

この5つのメッセージについて、以下に翻訳引用して記します。

1) COVID-19はなくなっていない

COVID-19はメディアで報道されることもなく、政府による説明もないだろうが、それでも毎週のように人々を感染させ、再感染させている。

2) ウイルスは空気感染する

息をすることによって煙のように広がり、感染するのに十分な量を吸い込むのに数秒しかかからない。

3) いかなる感染も重大な問題を生じうる

呼吸困難、疲労、頭痛から心臓障害、免疫機能障害、神経障害に至るまで、感染はあらゆる場合において合併症を引き起こす可能性がある。

4) だれもが脆弱である

若くて健康な人でもそうである。感染を避ける必要があるのは、高齢者や免疫不全の人だけではない。私たち全員がそうなのだ。

5) 私たちはリスクを減らすことができる

私たちは、自分自身と愛する人々を守るために行動を起こすことができる。ワクチン に加えて換気、ろ過、そして高品質のマスクを使用することで、感染のリスクを減らすことができる。

3. 長期コロナ症について

冒頭で述べた「長期コロナ症を防ぐための国際的ガイダンス」という記事では、各国や米国内地域における取り組みを紹介しています。これも翻訳引用して以下に記します。

Long Covid(長期コロナ症)は、急性COVID-19の後に起こりうる200以上の症状につけられた名称である。長期コロナ症は日常生活に影響を及ぼし、症状は数週間、数ヵ月、数年と続くこともある。長期コロナ症の原因は不明であるが、ウイルスの持続性と免疫機能障害が関与している可能性がある。

世界各国の政府は、以前はワクチンのみに頼っていたところもあったが、国民へのガイダンスを更新し、現在では長期コロナ症を避ける最善の方法としてCOVID-19の予防を一般的に推奨している。現在では、ワクチン接種に加えて、屋内でのマスクや呼吸器の使用、空気の清浄化政策などを推奨しているところが多い。

ジョン・スノウ・プロジェクトは、長期コロナ症を防ぐための公式アドバイスについて、いくつかの国と地域を調査した。これらは、特に長期コロナ症を回避する方法について助言している国や地域の一部であり、長期コロナ症防止に以下の対策を推奨している。

フランスやオランダなど、他の多くの国々が、COVID-19を防ぐためにこれらの対策の一部または全部を使用するよう助言しているが、本調査では、健康上の懸念が高まっている長期コロナ症の予防について、具体的な助言を提供している一部の地域を取り上げた。

一般市民は、このようなメッセージの更新に注意を払い、ワクチン接種と先行感染によってリスクを軽減することはできても、長期コロナ症を予防することはできないことを認識すべきである。

おわりに

上述したように、JSPが主張していることはごくまともで、専門家の主張の国際標準とも言えるでしょう。COVID-19の本質が、全身性疾患であること、長期コロナ症をもたらすこと、誰もが罹りうることについてもきちんと焦点が当てられています。上記の表にあるように、長期コロナ症を回避する手段として、世界保健機構(WHO)を含め、各国や地域がワクチンとマスクを中心に力を入れていることもわかります。

この意味で、JSP記事 [1] に日本が言及されていないのはきわめて残念です。長期コロナ症への取り組みが無きに等しいということでしょう。「COVID-19はメディアで報道されることもなく、政府による説明もないだろうが、それでも毎週のように人々を感染させ、再感染させている」という主張は、まさしくいまの日本にも当てはまることです。

日本でどのくらいの人が長期コロナ症になり(なっているのか)、集団的健康障害としてどのくらいの社会・経済活動の負担になっていくのか、大きな懸念事案です。

引用記事

[1] The John Snow Project: International Guidance on Preventing Long Covid. August 7, 2023. https://johnsnowproject.org/primers/international-guidance-on-preventing-long-covid/

       

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