カテゴリー:感染症とCOVID-19 (2022年)
日本はCOVID-19流行で世界各国とは異なる傾向を示しています。それは、第5波以降、流行ピークが来るたびに、過去最悪の感染者数と死者数を更新していることです。オミクロン変異体になってから、ワクチン接種の効果もあってかCOVID-19の致死率や重症化率(これは定義そのものが病態に合致していない)が低下しているにも関わらず、死者数が第5、6、7波と最多更新されているわけです。そして第8波でまた最悪を迎えようとしています。
私はもう何度となく、本ブログやツイッター上でこの最悪状況を指摘していますが、再々度、日本の犠牲者数の推移を見てみましょう。
図1は主にアジアの国々(主として東アジア諸国)と比べた死者数の推移(7日間移動平均)を示します。図2は同じ期間の死亡率(100万人当たりの死者数)です。日本は人口が多いので死者数も多く、日当り2百人台でアジアトップを走り続けていますが(図1)、人口比死亡率で見たとしてもいまアジア最悪です(図2)。図から分かるようにアジアで1人負けしているのです。
図1. 日本およびアジア諸国におけるCOVID-19死者数の推移(Our World in Dataより転載).
図2. 日本およびアジア諸国におけるCOVID-19死亡率(人口100万人当たりの死者数)の推移(Our World in Dataより転載).
では世界全体と比べた場合はどうでしょうか。例としてG7諸国と比べたのが図3、4です。世界で最も経時的死者数が多いのは米国で変わりませんが、日本はワースト2位(G7の中でも世界全体でも)につけています(図3)。一方、死亡率で見た場合にはトップに躍り出ます(図4)。世界と比べた場合には、高齢化率が高いフィンランド、ギリシャ、ポルトガルと肩を並べる状況ですが、いずれにせよ世界最悪の部類に入ることは間違いありません。
図1. 日本および他のG7諸国におけるCOVID-19死者数の推移(Our World in Dataより転載).
図2. 日本および他のG7諸国におけるCOVID-19死亡率(人口100万人当たりの死者数)の推移(Our World in Dataより転載).
図1–4から分かることは、いま日本はCOVID-19流行で世界最悪とも言える犠牲者を出し続けているということです。それにもかかわらず、政府も専門家は一切これを口にせず、マスコミも報道しません。
今日のテレビ番組「ニュースな会」でも、米中のコロナ事情や日本の2類→5類の論議、ワクチン接種などについて伝えていたものの、死者数については一切言及しませんでした。私はこれについて以下のようにツイートしました。
#キャスターな会 久住医師:ウイルスが弱毒化し重症化する人はほとんどいない。
— Akira HIRAISHI (@orientis312) 2022年12月17日
病気の質を含めて番組は中国、米国のコロナ対策、2類、5類、ワクチンの話に終始していて肝心なことが抜けている。
日本がいま世界トップクラスの死者数を出し続けていてアジア1人負けという現実。 pic.twitter.com/rMe26R0phn
日本では、もっぱら致死率や重症化率などの病気の質に関することでCOVID-19が論じられる(コロナを軽く見る)ことが多く、いかに被害や犠牲者数を最小化するかという視点に欠けています。被害を最小化するのに最も重要なことは、感染者の絶対数を増やさないことです。今のオミクロン変異体は、初期の頃のSARS-CoV-2に比べれば6倍以上も感染力があり、容易に感染拡大する要素をもっています。それにもかかわらず、感染防止が軽んじられ、そのためにむやみに感染者数を増やし、医療をひっ迫させ、死者数を増やしているのです。これが第6波から繰り返されています。
このような中、厚生労働省にCOVID-19対策を助言するアドバイザリーボード(脇田隆字座長)は、COVID-19と季節性インフルエンザは明らかに違う特徴をもった感染症で、感染症法上の2類→5類変更の条件を満たさないとの見解を示しました。これを伝えたウェブ記事 [1] の一部を以下に引用します。致死率と重症化率でCOVID-19対策を考える日本の傾向を批判しています。久々にこの専門家組織の真面な見解を聞いた気がします。
新型コロナウイルスは従来株が次々と変異し、感染拡大の「第7波」を起こしたオミクロン株は従来株と比べて重症度や致死率が下がった。このため「インフルエンザと同じようなものだ」との見方も出ていた。見解はこれに対し「(2つの感染症は)疫学、病態など多くの点で大きな違いが存在し、新型コロナのリスクをデータや最新の知見に基づいて評価する必要がある」とクギを刺した。
その上で「世界保健機関(WHO)は感染症のパンデミックの評価には感染力、疾患としての重症度のほか、医療や社会へのインパクトを分析することを求めているが、国内では致死率と重症化率だけで比較される場合が多く、リスク評価として不十分」と指摘。伝搬性について「当初からインフルエンザより高かったが、変異株の出現とともにさらに増大しており、インフルエンザとは大きく異なる感染症に変化している」と強調した。
日本の感染対策において、ウイルスの感染力とともに抜け落ちているのが、long COVID(長期コロナ症)のリスクです。これについても私はウェブ記事を引用しながら以下のようにツイートしました。
日本の感染症対策、感染症法改正の議論から、ウイルスの感染力とともに長期コロナ症(long COVID)がすっぽり抜け落ちている。 https://t.co/I7BU1ez6zT
— Akira HIRAISHI (@orientis312) 2022年12月17日
残念ながら、政府や政府分科会はパンデミック対策について「成り行き任せ」で進めています。全数把握もトレーシングも止めた現在、サイレントキャリアーを含めて感染者が爆発的に増え、医療をひっ迫させ、検査・診療が遅れ、それが大量の死亡に反映されてくること、死者数最多更新をすることは確実です。
尾見茂会長に至っては「感染抑制だけを目的にする時代は過ぎた」「自主的な努力を」とまで言い切りました [2]。つまり感染野放しで行くので、勝手に自分で対処しろというわけです。この言葉に象徴されるように、第8波の最悪被害更新はもう決まったようなものでしょう。実に情けなく、恥知らずで無責任の政府と分科会だと思います。国民の健康被害と死を何と思っているのでしょうか。
引用記事
[1] Science Portal: 新型コロナはインフルと違う感染症、と専門家チーム 2類から5類への見直し議論に影響も. Yahoo Japanニュース 2022.12.16. https://news.yahoo.co.jp/articles/919e9e3df74248b4464c3c047b0f3b5c6c2bd3e3
[2] TBS NEWS DIG: コロナ分科会専門家 年末年始に行動制限は求めず 尾身会長「感染抑制だけを目的にする時代は過ぎた」「自主的な努力を」. 2022.12.09. https://newsdig.tbs.co.jp/articles/-/226503
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