カテゴリー:世論調査
はじめに
先の衆議院選挙で、自民党の議席が減り、野党の議席が大幅に増えました。そのなかでも、国民民主党が票と議席を大きく伸ばしました。野党第 1 党の立憲民主党も議席を大幅に増やしましたが、選挙区票は減らしており、比例票は微増にしか過ぎません。ここから、国民民主と立憲の議席増は、異なる要因によるものと推察されます。
国民民主の躍進は各社世論調査の結果にも現れています。"X"上で、昨日、毎日新聞の世論調査の結果が投稿されていました(以下引用)。政党支持率で、トップから自民 21%、国民民主 13%、立憲 12%、維新 5%、れいわ 4%、公明 3%、共産 2%と続いており、この結果では国民民主は立憲との差はわずかですが、2 位に躍り出ています。
毎日新聞世論調査(11月23~24日実施)
— 三春充希(はる)⭐未来社会プロジェクト (@miraisyakai) 2024年11月24日
政党支持率
無党派 38( -7)
自民 21( -8)
国民 13(+10)
立憲 12(+2)
維新 5(+1)
れいわ 4(+2)
公明 3(+1)
共産 2(+1)
保守 2( 初)
社民 1(+1)
参政 1(±0)
みんな 0(±0)
上記の毎日新聞の世論調査における政党支持率の結果は、衆院選直後に行われた朝日新聞のそれとほぼ同じです。そこで、このブログ記事では、回答者の属性がよくわかる朝日新聞の世論調査 [1] の結果に基づいて、昨今の国民民主現象を分析してみたいと思います。これは都知事選における石丸現象、兵庫県知事選における斎藤現象とも共通する部分があります(⇨石丸、玉木、そして斎藤現象ーなぜ大衆に受けたか)。
衆院選直後の朝日新聞の世論調査に基づいて、政党支持率をグラフ化したのが図1 です。上記の引用ツイートとほぼ同様で、立憲と国民民主の順番が異なりますが、それぞれ支持率が13、10%になっています。すなわち、現在の世論の支持は、立憲と国民民主とでほぼ同じくらいと考えることができます。
図1. 朝日新聞世論調査による政党支持率. 2024年11月2ー3日における固定電話と携帯電話によるRDD調査. 1669件のうち有効回答数は623件で回答率623件. 性別、年齢別の回答割合: 男性59%、女性41%、20代以下9%、30代7%、40代12%、50代18%、60代19%、70代21%.
それでは、実際に立憲と国民民主を支持しているのはどのような属性の人々なのか、性別、年齢別の支持率をヒートマップとして表したのが、図2 です。
際立っているのが、両党を支持している、特に男性の年齢構成が全く違うということです。立憲では、年齢が上がるにつれて支持率が高くなっていますが、国民民主では、逆に年齢が若いほど支持率が高くなっています。例えば、立憲:国民民主の支持比率は、18-29歳でみると 1:27、70代以上でみると、20:1 と完全に逆転しています。結果として、男性全体においては、立憲および国民民主の支持率は、それぞれ12%、13%となっています。
女性でみると、やはり国民民主の支持率が高くなっていますが、男性ほどの極端な傾向はみられず、全体として立憲支持が 13%、国民民主の支持が 7% になっています。
これらの結果から言えることは、第一に、いま国民民主を支持している中心は男性の若年層であるということです。女性では、年齢に関わりなく、自民党を除けば立憲、次いで国民民主を支持しているということになります。
ただ、全体をみて注意しなければならないのは、自民党が支持を減らしているとは言え、性別、年齢に関わらず依然として全般的に最も支持されている政党であること、それ以上に「支持政党なし」がトップの割合であることです。そのなかで、最近突如として、特に男性若年層が国民民主を支持するようになったということが言えます。従来、若年層は、自民党は支持しているものの、立憲や他野党をほとんど支持していません(⇨ 学生の気質の変化と世論調査、世論調査に見る男女・世代間のギャップ-5)。
2. 国民民主現象を起こした要因
上述したように、昨今の国民民主の躍進と支持上昇は、若年男性の支持が原動力になっています。これには、若年層の保守化と情報取得手段の変化が大きく影響していると考えられます。6 年前のブログ記事で示した世論調査にみられるように、当時から若者の自己保守化が顕著になっていました。
これには、若年男性が、SNSや動画サイトの玉石混合の情報に依存するようになり、伝統的メディアのジャーナリズムに触れることがなくなるにつれ、潜在的な保守的気質が表に出てくるようになったとも言えます。図1 をよく見ると、以前は自民党を支持していた、あるいは政治的関心が脆弱だったマインドが、いまは同じ保守である国民民主支持に変わっただけとも言えます(もとより立憲は若年男性に支持されていない)。
ひょっとしたら、国民民主党は基本政策(緊急事態条項付き憲法改正、原発推進、反共産主義など)で自民党とほとんど変わらない保守政党であり、政策ごとにすり寄る「部分与党」であることに、新たな国民民主支持者(特に若年層)は気づいていないのかしれません。旧民社党系の考えを引き継いでおり、ある意味自民より右翼的です。
いま、自民は国民民主と盛んに事前政策協議を行なっていますが、両党に親和性があるからこそです(補正予算や新年度予算案に賛成してもらうための、国会無視の取引事前協議)。主要マスメディアは、ただこれを垂れ流しているだけです。
まあ、有権者は、生活に関わる政策が実現できればそれで良いということなのかもしれませんが、その場しのぎが政策が必ずしも中長期的に生活を良くするとは限りません。例えば、国民民主の実質的に減税策によって「手取りを増やす」政策は、新たな壁(178 万円の壁)を作るだけの問題解決の先送り案にすぎません。玉木氏は、この案による税の減収は、プライマリーバランスの黒字分で対応できると言っていますが、国にお金が余っているわけではないし(歳入の 30% 以上は公債費)、新たな分離案などは税制度を複雑化させるだけです。
保守気質の人は、ポピュリズムにより感化されやすく、政治的関心度が高くない人ほど、一旦暴露された情報に、さらに情報分極・増幅させていく一貫性を持つことが報告されています(⇨イデオロギーと認知・生物学的特性との関係)。SNS や YouTube などの動画共有プラットフォームは、ポピュリズムの浸透に極めて都合の良い情報空間を提供するので、ネット+スマホ依存世代は容易にそれに陶酔してしまうと言えるでしょう。今回の衆院選における国民民主の「手取りを増やす」キャンペーンはまさにSNSを通したポピュリストの主張であり、それが若者の保守的気質(生活保護主義)を動かし、票へとつながりました。
元来、人間の保守的気質は学習、教育、経験によって解かれ、高い認知レベルに成長していくものですが、そこからリベラル的思考に行くか、保守的傾向を強めるかは、仮説段階ですが、神経科学的・遺伝学的素因(扁桃体の容積など)が関わっている可能性があります(⇨イデオロギーと認知・生物学的特性との関係)。生物学的素因がベースにあり、経験や知識が少ない若者が、さらにスマホ片手に 偏狭化した SNS 情報に暴露されれば、余計に反リベラルになることは目に見えています。
おわりに
SNSや動画サイトの情報は規制がなく、多くの虚偽、偏向情報も含まれます。もとより、「嘘だらけ」という口実で伝統ジャーナリズムにほとんど触れないままの経験・知識の浅い若者が、それらの情報を見抜き、取捨選択することはかなりの困難性を伴うでしょう。
さらに、ポピュリストや保守的インフルエンサーが放つ一矢は、 SNS 世代の生活保護主義の心に簡単に突き刺さるのではないかと思われます。そのような情報選択圧の中から生まれたのが、昨今の国民民主現象であると言えます。その意味で、今のSNS や動画プラットフォームは、大局的なリベラル的思考や少数派の意見を妨げる方向に向かっており、本来の民主主義とは異なるサイバー・デモクラシーが形成されつつあると考えられます。
リベラル系、左派系政党はこれから苦難の時代なります。立憲は自民の敵失(自民支持層の大量棄権)で今回は議席を伸ばしましたが、これからは苦労するでしょう。日本共産党はすでに衰退の危機にあります。れいわ新撰組は、ポピュリスト要素がある分健闘しており、支持率を伸ばしています。
引用記事
[1] 朝日新聞世論調査: https://www.asahi.com/politics/yoron/
引用したブログ記事
2024.11.23. イデオロギーと認知・生物学的特性との関係
2024.11.18. 石丸、玉木、そして斎藤現象ーなぜ大衆に受けたか
2018.09.12. 世論調査に見る男女・世代間のギャップ-5
2018.05.10. 学生の気質の変化と世論調査
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