Dr. TAIRA のブログII

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日本維新の会は右翼のポピュリスト政党

2021.11.05:20:05更新

はじめに

今回の総選挙で日本維新の会が躍進しました。事前の世論調査では維新の好調は伝えられていましたが、これほどの議席増(約4倍)とは、大方の人は予想していなかったのではないでしょうか。

この党の幹部が常日頃口にするのが、「身を切る改革」、「是々非々」というフレーズです。この宣伝が効いているのか、大阪の知人に訊いてみたところ、維新には自民党にはない、政策実行力のある改革の政党としてのイメージがあるという答えが返ってきました。

自民党では問題がありすぎて不満、かと言って野党第一党立憲民主党になるともう政権批判ばかりで実行力がない、論外という感覚なのでしょう。今回の選挙で言えば、野党共闘に対して共産主義(=中国共産党、旧東側諸国の独裁国家のイメージ)強調や「左に寄り過ぎ」などのネティヴキャンペーンも見られたので、多少なりとも維新の有利になったことは間違いないと思われます。

一方で、同じ大阪在住でも維新は嫌いという人もけっこういます。右翼的、独善的、歴史修正(改ざん)主義新自由主義のイメージがあるというのがその理由のようです。

では海外のメディアは維新をどのように見ているのか、先のブログ記事で英国ガーディアン紙の記事 [1] を紹介しましたが、「右翼のポピュリスト政党」と位置づけているのが印象的でした(→海外メディアは衆院選における維新の躍進をどう見たか)。このような維新の位置づけが果たして海外メディアからの一般的見方なのか、ここでは、さらに海外記事や英文記事の論調を拾い上げてみたいと思います。

1. インディペンデントの記事

まずは、アイルランドの新聞インディペンデント(Independent.ie)です。次の表題の記事で維新の躍進を伝えています。ガーディアンと同じく、以下の表題で、右翼のポピュリスト政党と位置づけています [2]

"Right-wing populist party makes biggest gains in Japanese elections" 「日本の選挙で右翼のポピュリスト政党が最も躍進

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記事では、維新の公約として、地方への権限委譲、規制緩和、減税、無駄な支出の廃止、防衛費をGDPの2%に倍増させるなどをを紹介しています。これら以外にも、教育の無償化、原子力発電の段階的廃止、カジノの建設などを、ポピュリスト的な政策として挙げています。その上で、今回の日本の選挙では、ポピュリストの右派政党が最大の勝利者となったとしています。

この結果は、維新が、カリスマ的なリーダーシップと深い保守的なプラットフォームを持つ地域政党から、全国的な政治勢力になったことを意味し、衆議院で第3位の勢力となったことで、岸田文雄首相の政策に影響を与える可能性があると伝えています。

本紙は、維新について、日本の植民地支配時代の歴史について明らかに修正主義的な見方をしているとも指摘しています。これは、日本が第二次世界大戦中に軍の売春宿において外国人の「慰安婦」(comfort women)を強制労働させたという国際的コンセンサスがあるにもかわらず、維新がこれに異議を唱えて続けていることを指します。

さらに、記事はテンプル大学東京キャンパスのアジア研究ディレクター、ジェフ・キングストン氏の話を紹介しています。「人々は、パンデミックや経済への対応もあって、自民党に不満だった。一方で、以前は左派系野党を支持していた多くの人々が、今回、支持政党が左に寄り過ぎたためにために見捨てた」と彼は述べました。

2. インサイダーの記事

米国オンラインメディアのインサイダーの記事 [3] では、吉村洋文大阪府知事に焦点を当て、右翼的と形容しながら、例のヨードうがい薬の件を皮肉りながら挙げているのが特徴です。

"Japan's new political powerhouse is a young, right-wing Twitter-friendly governor known for advocating that people gargle iodine to cure COVID-19" 「日本の新しい政治勢力は、COVID-19を治すためにヨードでうがいをすることを提唱したことで知られる、ツイッターで人気のある右翼の若い知事である

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冒頭で、「日本の新進気鋭の政治家といえば、右翼のポピュリスト政党の顔ともいえる大阪府の若き知事だ」、「吉村洋文氏は保守的な意見で知られており、かつては『ヨードでうがいをすればCOVID-19を予防・治療できる』と主張していた」と述べています。

そして、総選挙で「日本維新の会」が議席を伸ばしたことについて、「ツイッター映えする若き知事が率いるポピュリストの右派政党が急成長を遂げた」と伝えており、やはりポピュリストという言葉で形容しています。維新の魅力の一つは、この若手知事が党の副代表を務めていることであり、それは維新の党幹部が「アイドル並みの人気」と称するほど人気があって、ツイッターのフォロワー数が110万人を超えていることによるというニュアンスで伝えています。

記事では、東京大学政治学教授であるケネス・マッケルウェイン氏がガーディアン紙 [1] に語った「吉村氏が全国的な知名度を高めたことで、党全体にも追い風になったと思う」という話も引用しながら、維新の重要度が増したことを伝えています。すなわち、大阪のダークホース的存在であった維新が、第3位の政党となったことで、与党自民党、野党第1党である立憲民主党に次いで、この国の政治システムにおいて重要な発言力を持つようになったとしています。

しかし、同時に「吉村氏は論争と無関係の人物ではない」としながら危なっかしい面を伝えています。その一つは、昨年、COVID-19の治療法としてうがい薬を提唱し、日本の医療専門家たちを困惑させたことです。昨年8月の記者会見で吉村氏は、COVID-19の陽性反応が出た後、数日間この溶液でうがいをしたグループはその後ウイルスが陰性になったと主張しました。この件で、人々がポビドンヨードうがい液製品に狂喜乱舞する騒ぎになりました。

もう一つ挙げられていることが、サンフランシスコとの「姉妹都市」協定から大阪を一方的に離脱させたことです。吉村氏は、2015年から2019年まで大阪市長を務めていましたが、サンフランシスコのチャイナタウンに設置された、第二次世界大戦中に強制的性奴隷にされた慰安婦を称えるための記念碑に抗議し、61年前に締結されたこの「姉妹都市」協定から大阪を一方的に離脱させました。

最後に、ガーディアン紙に語った専門家の意見を紹介しています。「維新は岸田氏の『新しい資本主義の計画に障害をもたらすだろう」、「(維新は)大阪地域を席巻してしており、重要な保守層として浮上している」。

3. ロイターの記事

三番目は英国に本社をもつロイター(米トムソン・ロイターの一部門)です。ダークホース的な右翼政党としながら、今回の維新を躍進を伝えています [4]

"Dark horse right-wing party emerges as third-largest in Japan lower house" 「日本の衆議院でダークホース的な右翼政党が第3党に躍り出る

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ロイターは、維新を成長のきっかけとなる規制緩和、減税、地方分権を求めている党としながら、今回の選挙での成功の要因を、専門家の言述も紹介しながら、以下のように挙げています。

神奈川大学の日本政治の専門家であるコリー・ウォレス氏は、「維新は政府に対してより批判的な姿勢をとっている。一方で、人々は政府の出来を今ひとつと考えているが、主要な野党には満足していない。そこから、うまく票を引き出すことに成功した」と述べています。

維新の成功した他の理由の一つは、党のNo.2であり、若い吉村洋文大阪府知事ソーシャルメディアでの発信力があり、COVID-19パンデミックの際に、従来のキャンペーンが制限されていた時にメディアに頻繁に登場したことだと、法政大学教授の白鳥浩氏は述べています。

他の多くの日本の主流政治家とは異なり、ツイッターで120万人のフォロワーを持つ46歳の彼は、即興で発言し、しばしばテレビでパンデミック関連の規制を遵守するよう国民に熱弁を振るっていると記事は紹介しています。

ロイターの記事は、維新がこれから自民党の政策に及ぼす影響にも、専門家の発言を紹介しながら、触れています。

立命館アジア太平洋大学佐藤洋一郎教授(国際関係論)は、維新は小さな政府を支持しており、貧富の差を縮めるという岸田氏の新しい資本主義の考えに阻害的になる可能性があると指摘しています。

一方で、維新は戦後の憲法を改正し、防衛予算がGDPの1%という非公式な上限を超えることを認めることに賛成しており、自民党マニフェストで防衛費を2%に引き上げることを訴えていることにも同調しています。記事では、「この2つの政党が手を取り合って防衛強化のための政策を推進すれば、他の野党にできることはほとんどないだろう」という政策研究大学院大学の増山幹隆教授の発言が紹介されています。

記事ではカジノについても触れています。維新はカジノ建設を推進していますが、大阪の事情もこれに手助けになっているようです。ウォレス氏は、大阪の住民は横浜などの他の候補地と比べて「カジノにそれほど強く反対しているわけではない」と述べ、最終的にカジノ支持派が勝利する可能性が十分にあることを示唆している」と付け加えています。

4. その他の記事

米国ブルームバーグは以下の表題で記事を伝えています [5]

"Upstart Japan right-wing party Ishin surprises with big election gains" 「日本の新進右翼政党「維新」が選挙で大躍進の驚き

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ブルームバーグの記事は、他紙と比べると、維新の右翼ポピュリストというニュアンスはあまり強くなく、選挙での躍進の要因を中心に伝えています。党首である松井一郎氏は、「無駄な支出」をなくし、政府の規模を縮小することや防衛費制限の撤廃を訴え、原子力発電を段階的に廃止してエネルギーミックスを変えることを主張してきました。記事では朝日新聞出口調査を引用しながら、この維新の戦略が無党派層を引き付けることに成功したとしています。

そして、野党共闘の失敗の要因として専門家の話をとともに共産党をキーポイントとして挙げています。「日本共産党が(失敗に)一役買った。人々は『共産党には投票しない』と言っていた」という、中央大学名誉教授スティーブン・リード博士の話が紹介されています。日本の警察が共産党を「最大の革命組織」と称して、いまだに監視の対象としていることも伝えています。

松井代表は投票後に「僕は日本には構造改革が必要だと言ってきたが、それに賛同してくれる人たちがたくさんいる」と語りました。このメッセージは、自民党や主要野党第1党である立憲民主党の大規模な支出計画に違和感を持つ有権者の一部に響いたようだと、SMBC日興がリサーチノートで述べたことが紹介されています。

最後に、「維新の躍進は、『小さな政府』路線への国民の支持が高まったことを意味する」とSMBC日興と述べたことを記事は伝えていますが、果たしてどうなのでしょう。維新に投票した多くの人たちが本当に「小さな政府」を望んでいるのでしょうか。むしろ、上述したように、自民党には不満があるけど、かと言って共産党が入る野党共闘は嫌だという中での単純な選択肢として維新に投票したというところではないでしょうか。また、「立憲共産党」と揶揄した与党、維新、メディアのネガティヴキャンペーンに感化された投票行動かもしれません。

国際メディアプロジェクトであるピープルズ・ディスパッチの記事では、以下のような表題で伝えています [6]。やはり、維新を右翼のポピュリストと呼んでいます。

"Elections in Japan end with boost to right-wing, defeat of center-left opposition" 日本の選挙は右翼の躍進と中道左派の敗北で終わる

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おわりに

以上のように、日本維新の会は、海外メディアの目からは、右翼、ポピュリスト、歴史修正主義というキーワードで表されるような政党に映っているようです。大阪を中心に維新を嫌う人たちはきっとこのような傾向を含めて嫌っているのでしょう。

一方で維新を支持する人たちや今回維新の候補、あるいは比例代表で維新の名前を書いた人たちにはどのような政党に映っているのでしょうか。前述した実行力のある改革の政党というとらえ方はまあいいとして、右翼のポピュリスト政党という印象はもっているのでしょうか。おそらく、日本のメディアもそういうとらえ方の記事を書くこともないことから、投票した人たちには、右翼ポピュリストというイメージはなかったのでは?と思います。それこそが、この政党のポピュリズムに知らず知らずに乗せられてしまっている結果のかもしれません。

今回の選挙では数字の上では維新の躍進ということになりますが、おかしなことも起こっています。維新の41議席獲得という中味を見ると、実は小選挙区で2位にもなれなくて落選し、惜敗率が50%に満たない新人議員が8人も比例復活当選しているのです。つまり、小選挙区という地域では、得票数で2位の野党共闘の候補にも遠く及ばず、地元の信任を得たとも思われない維新の議員が、全体の獲得議席の20%にも及んでいるということです。

現行選挙制度の矛盾が出たとも言えますが、維新の41議席というのは上げ底の感も否めません。とはいえ、これは大阪を中心とする国民が選んだ結果です。

個人的には、地方自治体の首長が政党の幹部を兼ねるという維新の政治形態に異常さを感じています。そして、日本のメディアよりも海外のメディアの方が、維新の本質を突いているということが今回の報道でよくわかりました。

2021.11.05更新

Independe.ieを誤って英国のメディアとしておりましたが(ツイッターでの指摘あり)、アイルランドに修正しました。さらに、ブルームバーグの記事を少し追記しました。

引用記事

[1] McCurry, J: Japan election: rightwing populists sweep vote in Osaka. The Guardian Nov.1, 2021. https://www.theguardian.com/world/2021/nov/01/japan-election-rightwing-populists-sweep-vote-in-osaka

[2] Ryall, J.: Right-wing populist party makes biggest gains in Japanese elections. Independent Nov.02, 2021. https://www.independent.ie/world-news/asia-pacific/right-wing-populist-party-makes-biggest-gains-in-japanese-elections-41007337.html

[3] Teh, C.: Japan's new political powerhouse is a young, right-wing Twitter-friendly governor known for advocating that people gargle iodine to cure COVID-19. INSIDER Nov.2, 2021. https://www.insider.com/japans-rising-political-star-young-governor-gargling-iodine-prevent-covid-2021-11

[4] Park, J. & Takenaka, K: Dark horse right-wing party emerges as third-largest in Japan lower house. Reuters Nov. 01, 2021. https://mobile.reuters.com/article/amp/idUSKBN2HM1QO

[5] Herskovitz, J.: Upstart Japan right-wing party Ishin surprises with big election gains. Bloombers Nov.01, 2021. https://www.bloomberg.com/news/articles/2021-11-01/upstart-japan-right-wing-party-surprises-with-big-election-gains

[6] Peoples Dispatch: Elections in Japan end with boost to right-wing, defeat of center-left opposition. Nov. 02, 2021. https://peoplesdispatch.org/2021/11/02/elections-in-japan-end-with-boost-to-right-wing-defeat-of-center-left-opposition/

引用したブログ記事

2021年11月1日 海外メディアは衆院選における維新の躍進をどう見たか

              

カテゴリー:社会・時事問題