Dr. TAIRA のブログII

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長期コロナ症状を抱える long haulers

カテゴリー:感染症とCOVID-19 (2022年)

世界保健機構(WHO)のテドロス事務局長は、9月14日の記者会見において、パンデミックの終わりは見えている("The end is in sight")と述べました [1]。世界におけるCOVID-19の死者数が、流行初期である2020年3月以来の低水準になったことを受けての発言だと思われます。一方で、日本のように、世界の潮流に取り残された国も稀ですが存在します、日本は第7波で過去最多の死者数を記録しようとしています。

世界的に死者数が低水準になったことは歓迎すべきことですが、一方で感染者数がどうなっているかは、もはや統計が意味をなさなくなっているので、現在は実態を掴むことは難しいです。COVID-19の被害は、もちろん犠牲者の数で一義的に表されますが、この病気にはもう一つの脅威である"long COVID"の問題があります。感染者数が増えれば増えるほど、自ずから、いわゆる「後遺症」の患者も増えるでしょう。なぜならこの長期症状は急性の症状の程度とは関係なく起こるからです。

COVID-19の発症時は比較的軽症であるにもかかわらず、持続的・長期的な不調(long COVID)を訴える人たちはかなりの割合で存在し、COVID-19の「ロングホーラー"long haulers"」と呼ばれています [2, 3]。この分野での世界の第一人者として、神経学科医イゴール・コラルニク(Igor Koralnik)博士(米ノースウェスタン病院、ノースウェスタン大学医学部、Feinberg School of Medicine)が知られていますが、最近、シカゴ・マガジン(Chicago Magazine)に記事に彼の活動が紹介されています [4](下図)

この雑誌は米国Tribune Publinshingから出版されている月刊誌です。主にライフスタイルや食、旅行、ファッションなどの大衆の興味に関する記事を配信していますが、今回はコラルニクのパーソナル・ヒストリーとともに、long COVIDの問題を詳しく報じています。そこで、このブログで翻訳文を紹介したいと思います。

なお、long COVIDについては、日本ではもっぱら「コロナの後遺症」とよばれていて、深刻な病気としての認識が甘いような気がします。適当な邦訳がないので、ここでは、私がこれまで使ってきた「長期コロナ症」をそのまま邦訳とします(→"Long COVID"という病気)。

以下、筆者による翻訳文です。

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主題:The Long Haul(長く抱えるもの)

副題:COVIDの最も不可解な合併症の謎を解く、ある神経科医の探求の内側

ストリートビルにあるノースウェスタン大学医学部サール医学研究棟のコンパクトなオフィスで、イゴール・コラルニクは、整然とした机の上に置かれた2つのコンピュータ画面のうちの1つに身を乗り出していた。医師、研究者、医学生からなる神経科医のチームがビデオ会議に参集し、COVID-19の長期投与による影響を受けた患者についての最新知見を発表していた。60歳になったコラニクは、新しいデータを発表する若い医師に、やんわりと、しかししつこく質問を投げかけた。

「私たちがこれまで考えもしなかったようなことはありますか?思い当たることは?」

神経免疫学主任研究員のジーナ・ペレス・ギラルド(Gina Perez-Giraldo)によると、うつ病や不安症の割合が、入院した患者で9%であるのに対し、入院しなかった長期コロナ症患者では16%と高かった。彼女はこれに驚いたという。軽症であれば、合併症も少ないと直感すると思うが、これはそれに反しているからだ。

たとえば、COVID後に長引く頭痛は、入院していない患者にも多くみられる。嗅覚や味覚の喪失も同様だ。ブレイン・フォグというのは、さまざまな神経認知症状の総称だが、入院している人とそうでない人とでは、同じ程度の症状が出ていても、その原因が異なる場合がある。コラルニクは、「入院中の脳障害が主な原因だと考えています」と、人工呼吸器装着がもたらしているトラウマを挙げてくれた。入院しない場合では、ウイルスが体内に残っているか、それに対する自己免疫系の反応に起因している可能性が高い。

これらは、当初から医学専門家を困惑させてきたコロナ病態に関する不可解な知見の一部に過ぎない。米国疾病対策予防センター(CDC)は、「ポストCOVID症状」とも呼ばれる長期コロナ症を、最初の感染から少なくとも4週間後に現れたり、持続したり、再発したりする症状として定義している。しかし、パンデミックから2年以上経った今でも、この症候群の多くの側面、特にその原因や治療法は謎のままである。

スイス生まれのコラルニクは、ノースウェスタン大学で神経感染症およびグローバル神経学のチーフを務めており、COVIDの脳への影響をより深く理解するための最前線にいる人物である。HIVを含むさまざまな神経疾患の研究で名を馳せた後、パンデミックの前夜にノースウェスタン大学に着任した。以来、この分野での世界有数の専門家として、神経学的影響を受けた長期コロナ症患者を治療するクリニックを開設し、数多くの論文を発表し、この症状と私たちに対するその「不気味な意味合い」についての理解を深めようとしている。

結論から言うと、COVIDの重症度と脳への影響の持続性には相関がない可能性がある。あなたはCOVIDは風邪のようなものだと思うか?  まあいいだろう、しかし、あなたはまだ知らないだけなのだーウイルスがあなたの体に何をしたのか、あるいは何をしているのか。「急性COVID-19は呼吸器系の病気です」とコラルニクは言う。「しかし、長期コロナ症はほとんど脳に関するものです」。

そして、多くの人が長期コロナ症を発症している。米国神経学会は、この7月、「長期コロナ症は今や米国で3番目に主要な神経疾患である」と宣言した。2022年5月末現在、米国には8,250万人のCOVID回復者がいるが、そのうちの30%にあたる約2,480万人が "long-haulers"(ロングホーラー、長く不調を抱え込んだままの長期コロナ症の人) とされている。ノースウェスタン大学の神経COVID-19クリニック患者を対象とした最近の研究では、ほとんどの神経症状が発病後平均15カ月近くも続くことが明らかになっている。

ワクチンは確かに役に立っている。ワクチンが普及する前は、ウイルスに感染した人の約3分の1が長期コロナ症に罹っていたと、コラルニクは言う。「新しいデータでは、ワクチン完全接種とブースターを受けた場合、COVIDになったとしても、長期コロナ症になるリスクは16から17%程度でしょう」。これは良いニュースだろう。一方、悪いニュースは、この6分の1の確率は、まだ多くの人に当てはまるということだ。ワクチン接種してCOVIDに罹った100万人に対し、16万人から17万人が長期コロナ症を発症することになる。

多くの人が、COVIDはもう終わりだ、と思っています、しかし、実際はそうではありません」とコラルニクは言う。「人々はワクチン完全接種とブースターの後でもCOVIDに罹患し、それでもなお長期コロナ症にかかることがあります」。

だからこそ、コラルニクと彼の神経COVID研究チームは、長期コロナ症の暗号(code)を解読し、しばしば「衰弱してしまう神経症状」を緩和するために治療法を開発するなど、あらゆる手を尽くしているのである。そして、研究資金を提供する権力者たちを含め、他の人たちを説得するために奔走している。

コラルニクは、重要な資金調達が遅々として進まないことに憤慨している。「危機感はあるのでしょうか」と彼は問いかける。「これが緊急性を高めるのに十分でないとしたら、何が緊急なのでしょう?」。

2020年1月、ノースウェスタン医療の国内メディア担当マネージャー、ジェニー・ノヴァツキ(Jenny Nowatzke)は、コラルニクに面会し、中国からの新しいウイルスについて地元のテレビニュース番組で話してもらえないかと尋ねた。「それについてはよく知らないんです」と彼は答えた。「それは呼吸器系の病気です、私は神経科医です」。

しかし、ノースウェスタン大学に入ってまだ2ヵ月しか経っていないコラルニクは、「ネクタイが必要だ」という条件で撮影に応じることになった。ノヴァツキは、廊下にいた人からネクタイを借りた。

コラルニクは、3年前までラッシュ大学医療センターで神経科部長を務めていた。その前の21年間は、ハーバード・メディカル・スクールにおいて、ベス・イスラエル・ディーコネス・メディカル・センター(Beth Israel Deaconess Medical Center)の神経免疫学部長にまで上り詰め、HIVの研究で有名になった。

コラルニクは、HIV/AIDSが流行り始めた1980年代半ばに、ジュネーブの医学部に入学した。神経学を学んだのは、コラルニクいわく、「脳の働きに興味があったから」。HIVは当初、神経疾患とは考えられていなかったが、次第に若い患者たちが認知症や脊髄の問題などの症状を経験するようになり、コラルニクは「新しい研究分野」を予感した。「神経科医は必ずしも感染症に惹かれるわけではありませんし、感染症医が神経科を開業することもありません」、「そこで私は、HIV神経症状を専門にして、そこから感染症神経症状に広げて研究することにしたのです」。

ベス・イスラエルでは、HIV/神経学センターを設立し、HIV神経症状が見落とされがちな治療に焦点を当てたクリニックを運営している。ノースウェスタン大学の神経学准教授で、コラルニクの研究チームの神経救急専門家であるエリック・リオッタは、「彼は、HIVに神経学的な影響があることを認識して、それらの患者を救うことで有名になりました」と話す。「彼は、ある意味で、COVIDで歴史を繰り返しているのです」。

コラルニクはまた、進行性多巣性白質脳症progressive multifocal leukoencephalopathy, PML)という、稀で致命的な神経疾患の研究で知られるようになった。この原因ウイルスは、ほとんどの人には無害だが、免疫力が低下した人には致命的となる。

「私がPMLに特に興味を持ったのは、治療法が確立されていない病気だからです」とコラルニクは言う。「脳内でウイルスがどのように増殖し、免疫系がどのようにウイルスと戦うかを研究することで、新しい治療法を開発することができたのです」。ハーバード大学医学部神経学助教授のオマー・シディキ(Omar Siddiqi)によると、コラルニクのPMLに関する画期的な研究により、ある著名な神経学者はこの病気を「コラルニク病」と呼んだことがあるそうだ。

コラルニクはベス・イスラエルに在籍中、アフリカの恵まれない人々に神経学的治療を施したいと考えていた神経学の研修医、シディキを指導した。ザンビア神経科医をもたず、HIVや神経系疾患の治療経験が乏しい国だが、シディキとコラルニクは、後にそこに神経科学センターを設立するための共同研究を行なった。2010年にザンビアに移住したシディキは、コラルニクが研究支援をするだけでなく、国立衛生研究所助成金制度を利用して、助成金の支給を指示してくれたと語る。「コラルニクは2〜3年間、私の給料の大部分を援助してくれました」と、当時若い家庭を持っていたシディキは言う。「感謝してもしきれないほどです」。

ジョンズ・ホプキンス医学の神経学者であるディアナ・セイラーが指揮するザンビアのプログラムは、現在、入院治療センターと神経学者を養成する教育病院を備えている。

コラルニクは、現在、ナイジェリアとコロンビアで神経COVIDプログラムの作成に協力しており、後者では、コロンビア出身のペレス・ギラルド(Perez-Giraldo)が主導している。「世界中のさまざまな場所でデータを集めることで、長期コロナ症をより広く理解できるようになることが期待されます」と彼女は言う。

コラルニクは、そのような答えの探求、そして次世代の医師の指導を、大学病院における自分の使命として捉えている。「彼は確かに冷静沈着な人物ですが、自分が重要だと思う質問に答え、患者のケアを確実に行うことに非常に意欲的です」と、彼の研究チームの医学部4年生、ジェフリー・ロバート・クラーク(Jeffrey Robert Clark)は話す。

クラークは当初、JCウイルスに関する神経学者の研究をもとに、コラルニクを探した。2020年初頭、ノヴァツキがテレビの生中継に出演して、中国から来た新しい感染症について話してほしいと博士に頼んでいた頃のことだ。このウイルスが、やがて彼の職業人生を、そしてその夜見ていたすべての人々の人生を支配することになるとは、コラニクも知る由もなかった。

2020年4月、世界は変わっていた。COVIDが全米で爆発的に流行し、入院者数と死亡者数が飛躍的に増加していたのだ。この病気は肺を侵すことが知られていたが、コラルニクはもっと大きな意味を持つのではないかと考え、その月、リオッタとクラークを含む神経COVID研究チームを結成した。

彼らは、ノースウェスタン記念病院で治療を受けた最初の509人のCOVID患者を分析し、同年末に発表した論文で、COVIDに感染した時点で42%、入院した時点で63%、そして病気の全経過で82%が神経症状を経験したと報告している。

2020年5月、コラルニクらはノースウェスタン記念病院に「Neuro COVID-19 Clinic」を開設した。この種のクリニックとしては全米で初めてである。患者の治療だけでなく、人口統計、QOL、認知機能検査の結果などのデータ収集も行なう。

「入院して一命を取り留めた患者のほとんどが、外来で神経学の継続的な治療を必要としていると考えていました」とコラルニクは言う。「しかし、私たちが見たものは、その反対でした」、「このクリニックの主な対象者は、COVIDで入院したことのない人々で、軽い喉の痛みや咳が治まっただけ、あるいは少し熱が出ただけでした、そして、長引き、持続し、衰弱する脳霧、頭痛、めまい、筋肉痛、匂いや味の問題、目のかすみ、耳鳴り、激しい疲労を経験していました」。

他の研究でもそれは裏付けされている。NIHの国立神経疾患・脳卒中研究所の臨床部長であるアビンドラ・ナス(Avindra Nath)は、「軽い風邪のような症状の人は、神経症状がある人だということがわかりました」と言う。

これらの症状は、患者が自己申告したQOLの低下や、認知、不安、抑うつ、睡眠に関する問題と対応していた。また、処理速度、注意、実行機能、記憶に関するテストでも、患者の成績は予想以上に悪かった。

その結果は深刻になる可能性がある。コラルニクは、「認知機能が低下し、これまで行っていたようなマルチタスクができなくなる可能性があります」と述べている。「たとえば、記者であれば、さまざまな締め切りを把握することができないので、記者にはなれません。警察官や看護師、ビジネスパーソンにもなれません。だから、今の仕事を続けられるかどうかに影響します」。

ブルッキングス研究所は8月に、200万から400万人のアメリカ人が長期コロナ症の影響のために働いていないと報告しました。「一度、脳にダメージを与えると、社会的な影響は甚大です」とナスは言う。

ノースウェスタン病院(Northwestern Medicine)は、2021年1月、包括的COVID-19センターを開設してCOVID患者への取り組みを拡大し、呼吸器科、心臓科、皮膚科、内分泌科、耳鼻科、消化器科、血液科、感染症、腎臓科のクリニックなど12のサブの専門科をカバーするようにした。コラルニクは、神経COVID-19クリニックが圧倒的に患者数が多いと言う。

コラルニクと彼のチームは、すでにCOVID関連の論文を12本出版し、さらに3本の論文を執筆中であり、彼らの研究は医学界だけでなく広く注目されている。コラルニクは、データ追跡ツール Altmetric を使って、自分たちの研究に関するメディアにおける多くのコメントをチェックしている。

「あなたがやっていることを人々が知るという意味で、COVIDが脳にどんな影響を及ぼしているかを知ることは重要です」と彼は言う。リオッタとノースウェスタン大学の神経学者エディス・グラハムとともに執筆した論文は、7月に雑誌 Neurotherapeutics に掲載された。この論文では、生活の質や生産性が低下している人が多数いることから、長期コロナ症による神経症状は、個人、公衆衛生、経済に大きく、長期にわたる影響を及ぼす可能性があると述べてる。そして、この病気の仕組みをより深く理解し、これらの深刻で持続的な症状の治療法を開発することが「非常に重要」であると述べている。

コラルニクの現在のフラストレーションの背景には、まさに、この「クリティカル・ニーズ」がある。HIVの神経系への影響については、十分な研究資金を確保することができた。PMLも同様だ。「世界でほんの一握りの人しか発症しない」稀な脳疾患である。25年にわたる資金獲得の実績を挙げ、彼は「私はNIHが大好きです。NIHは世界で最も偉大な研究支援機関だと思います」と言い切る。

とはいえ、2500万人近いアメリカ人を苦しめているCOVIDに関連する神経学的問題に対して、公衆衛生を監督する政府機関があまりに無関心であることに、彼は落胆している。「私は今、世界で最も頻度の高い病気であるCOVIDと、現在米国で3番目に頻度の高い病気である長期コロナ症を研究しています。1つは、これは現実であり、2つは、研究すべきであり、3つは、NIHの資金援助を受けるべきであると人々を説得するためにさらに時間を費やさなければなりません」と彼は話す。

では、連邦政府の長期コロナ症の研究資金はどこに向かっているのだろうか。2020年末、議会はNIHに11億5000万ドルを交付した。NIHは、COVIDの長期的効果を評価しようとする4年間のデータ収集研究である、"RECOVER"と呼ばれるイニシアチブ(構想)に関わっている。RECOVERには、17,680人の予定者のうち、7,758人が登録されたと報告されている。2022年6月のサイエンス誌の記事によると、この研究は「透明性を欠き、あまりにも進捗が遅い」という非難を、患者支援団体や一部の科学者から浴びている。

コラルニクは、COVIDの重大な神経学的症状に関する研究に特別に割り当てられた国費はなく、NIHはそうした助成金申請を審査する神経科医を配置していないと不満を述べている。「したがって、神経COVIDの研究のための資金を得ることは、不可能ではないにしても、非常に難しいことなのです」と、彼は言う。

ノースウェスタン大学のチームは、米国、ラテンアメリカ、ヨーロッパの研究チームからなる大規模なコンソーシアムと組んで助成金を申請したが、採択されなかったという。コラルニクのチームはこれまでに8件のCOVID関連の助成金申請をNIHに提出したが、唯一成功したのは、高齢者の認知機能に及ぼす睡眠の影響を調べる神経科医に対する既存の助成金を、1年間追加したものであった。その研究の一環として、コラルニクはCOVIDを持つ高齢者の睡眠が認知に与える影響に注目する予定だ。

一方、ノースウェスタン大学の神経COVID-19クリニックには1,450人以上の患者が来院し、その多くが「ワクチンを接種してブースターも行なったにもかかわらず、ひどいブレインフォグや頭痛、倦怠感に悩まされている」とコラルニクは言う。彼らは、治療を受けたいがために、臨床試験に参加できないか、あるいは自分の症状の原因を特定できないか、とコラルニクに尋ねる。コラルニクは、「これは私たちが生きている間に起こった最も重要な健康危機ですが、RECOVERの取り組み以外にもっと包括的な対応がなされていないという事実は、本当に呆れるばかりです」と話す。

RECOVERの共同議長であるNIH国立神経疾患・脳卒中研究所のウォルター・コロシェッツ(Walter Koroshetz)所長に、コラルニクの研究についてインタビューを申し込んだが、「不在」との回答が返ってきた。しかし、NIHのナスは、長期コロナ症の研究の必要性についてコロルニクと同意見である。「慢性疲労症候群湾岸戦争症候群、ライム病後症候群、シックハウス症候群、これらの原因は誰も知りませんが、見てみると、非常によく似た訴えです」とナスは言う。「長期コロナ症を研究して、これを解明すれば、同時に他のものの解明にも効果があるかもしれません」。

コラルニクにとっては、「困難で挫折しそうな道のりでした」と言うが、悲観はしていない。「一日の終わりには、より大きな善が勝つという、ある種の楽観主義が必要なのです」と言う。だから、彼は再び、科学、研究、そして脳の力に賭けているのだ。それが、今のところはうまくいっている。

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翻訳は以上です。

筆者あとがき

COVID-19パンデミックは、これから長期コロナ症の個人的健康問題ばかりでなく、公衆衛生、経済活動に長期にわたる影響を及ぼす問題として焦点が変わっていく可能性があります。すでに米国では、1600万人が長期コロナ症を発症し、400万人が失職して人手不足に陥った結果、年間23兆円の損失になっているという報告は衝撃的です [5](→全数把握見直しをめぐる混乱と問題)。その意味で、米国神経学会が「長期コロナ症は今や米国で3番目に主要な神経疾患である」と宣言したことは、重要でしょう。

一方、日本における長期コロナ症の問題は、いささか軽視されているのではないかと思われます。後遺症という名称で軽く扱われている印象で、いまだに"long COVID"に対する邦訳もありません(政治的な意図もある印象)。長期コロナ症に取り組む日本の問題は、以前のブログ記事でも指摘しています(CDCの研究:COVID-19生存者の20%以上が長期症状を経験Long COVIDのリスクを否定するのはやめよう治っていないコロナの病気を後遺症とよぶべきでない)。

この記事 [4] を読むと、米国でさえ、長期コロナ症の研究でも資金獲得の面では大変なようです。米国神経学会が重要性を宣言したものの、研究者はそれほど増えていない印象を受けます。この記事で批判的に出てくるNIHのこれまでの取り組みや、アビンドラ・ナスの研究は、以前のブログでも紹介しています(→コロナワクチンはLong COVID症状を起こす)。

引用文献・記事

[1] 時事通信社: パンデミックの終息視野に コロナ死者、初期以来の低水準 WHO. Yahoo Japan ニュース  2022.09.14. https://news.yahoo.co.jp/articles/e9c91ffe6f0243da5c18ead1dec2875738ef7bce

[2] Graham, E. L. et al.: Persistent neurologic symptoms and cognitive dysfunction in non-hospitalized Covid-19 "long haulers". Ann. Clin. Transl. Neurol. 8, 1073-1085 (2021). https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC8108421/

[3] li, S. T. et al.: Evolution of neurologic symptoms in non-hospitalized COVID-19 "long haulers". Ann. Clin. Transl. Neurol. 9, 950-961 (2022). https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC9268866/

[4] Caro, M: The Long Haul. September 13, 2022. https://www.chicagomag.com/chicago-magazine/october-2022/the-long-haul/

[5] Smith-Schoenwalder, C.: Report: 16 million working-age Americans have long COVID, keeping up to 4 million out of work. U.S.News August 25, 2022. https://www.usnews.com/news/health-news/articles/2022-08-25/report-16-million-working-age-americans-have-long-covid-keeping-up-to-4-million-out-of-work

引用した拙著ブログ記事

2022年8月27日 全数把握見直しをめぐる混乱と問題

2022年5月27日 CDCの研究:COVID-19生存者の20%以上が長期症状を経験

2022年5月14日 Long COVIDのリスクを否定するのはやめよう

2022年4月21日 治っていないコロナの病気を後遺症とよぶべきでない

2022年3月31日 コロナワクチンはLong COVID症状を起こす

2020年10月12日 "Long COVID"という病気