Dr. TAIRA のブログII

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Long COVID の新しい定義

カテゴリー:感染症とCOVID-19 (2024年)

米国科学・工学・医学アカデミー(National Academies of Sciences, Engineering, and Medicine)は、今月の新しい報告書で、Long COVID の新しい定義と見解を示しました [1]下図)。診断、症状、日常生活機能への影響に関する結論が示されていており、理解と解釈のアップデートに有用だと思われます。このブログ記事で紹介したいと思いますが、従来通り(→"Long COVID"という病気)、long COVID の対訳を長期コロナ症としたいと思います。

日本のメディアも、この報告書について配信しています [2]。報告書では、終始 long COVIDという名称で通されており、後遺症(sequelae)あるいは罹患後症状(post-COVID condition)という言葉はどこにも見当たりません。しかるに日本のメディアは相変わらず「コロナ後遺症」という対訳で伝えていて、この病気の矮小化につながる危険性もあります。

以下、報告書の紹介記事 [1] にしたがって概要を示します。

2020 年に COVID-19 パンデミックが始まって以来、SARS-CoV-2 に感染した人の多くは、急性感染から数カ月、あるいは数年間、長引く症状を経験し続けています。2022 年の調査では、米国成人の 3.4%、小児の 1.3% が、調査時点で長期コロナ症を経験していると回答しています。

この新しい報告書によると、長期コロナ症には、慢性疲労や労作後倦怠感、認知機能障害(ブレインフォグ)、自律神経機能障害などが含まれ、感染後 6 ヶ月から 2 年以上にわたって、仕事や学校に通う能力を損なう可能性があると指摘されています。しかし、これらの健康影響を臨床的に評価したり、その重症度や人の機能能力への影響を判断したりすることは困難です。また、米社会保障庁の障害一覧表(障害判定の最初のスクリーニング段階として使用される)には記載されないこともあります。

COVID-19 の急性期症状が軽い場合であっても、重篤な健康影響を伴う長期コロナ症を発症する可能性があります。COVID-19 による機能的転帰が不良となる危険因子には、女性であること、COVID-19 ワクチン接種の欠如または不十分であること、既存の障害または併存疾患、喫煙などがあります。COVID-19 の急性期で重篤であることは、生活の質、身体機能、仕事や学校での遂行能力の低下と相関しています。

本報告書作成委員会の委員長であるポール・ヴォルベルディング氏(カリフォルニア大学サンフランシスコ校医学部名誉教授)は、長期コロナ症の診断、測定、治療は複雑であるとしながら、この報告書は、診断について、また、この病気が個人の日常生活能力にとってどのような意味を持つかについてこれまでの知見をまとめている、と述べています。
 
全米医学アカデミーの会長であるヴィクター J. ドザウ氏は次のように述べています。「本報告書は、長期コロナ症が患者の通常の活動、例えば出勤、通学、家族の世話などにどのような影響を及ぼすかについての証拠(エビデンス)を包括的にレビューしている。この研究結果は、この病気が、症状を有する米国内の数百万人にどのような影響を及ぼすかを理解しようとする全ての人に役立つものだ」。

報告書によれば、長期コロナ症は、比較的新しく、急速に研究が進みつつある疾患です。この病態を効果的に理解し、治療し、管理するためには、個人の健康上の転帰と社会的影響の両方について、継続的な研究が必要であることは言うまでもありません。

本報告書で示された長期コロナ症の定義、診断、影響などに関する結論は以下のとおりです [1]。本報告書には、COVID-19 に関連するすべての症状および病態の完全なリストが含まれています。特記すべきこととして、検査キットが手に入らないことも考慮して、事前の COVID-19 の陽性反応は、長期コロナ症の診断には必要ないと述べられています。

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⚫︎COVID-19の正式な診断や検査陽性反応は、長期コロナ症の診断に必要ではない

⚫︎長期コロナ症は 200 以上の症状を引き起こす可能性があり、その症状と影響は個人で異なる。複数の臓器系に影響を及ぼす幅広い健康状態の新規または悪化と関連しており、心臓血管系、呼吸器系、精神衛生、消化器系、神経系、代謝系の症状が含まれる。

⚫︎COVID-19 の重症度が高いほど、長期コロナ症のリスクは高くなる。

⚫︎長期コロナ症に対する根治的な治療法は、現時点ではない。この疾患の管理は、その症状や健康影響の治療に関する現在の知識に基づいて行われる。他の複雑な慢性疾患と同様に、長期コロナ症の医学的治療は、症状を管理し、生活の質と機能を最適化することに重点を置いている。

⚫︎長期コロナ症からの回復には個人差があり、回復の軌跡に関するデータは急速に蓄積・進展している。症状の多くが 12 ヵ月までに改善したという証拠はあるが、それ以降のデータは限られており、回復が停滞するか、回復速度が遅くなる可能性も示唆されている。

⚫︎社会経済的地位、地理的位置、ヘルスリテラシー、人種や民族性はすべて医療へのアクセスに影響し、COVID-19 の検査、ワクチン接種、急性感染症の治療や長期コロナ症に特化したリハビリテーションを含む治療へのアクセスに格差をもたらす一因となっている。

⚫︎複雑な感染症を伴う慢性疾患は新しいものではなく、長期コロナ症は筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群(ME/CFS)や線維筋痛症などの疾患と多くの特徴を共有している。

⚫︎この報告書では、入院を余儀なくされるほど感染症が重症であった人は、入院しなかった人に比べて 2〜3 倍、入院した人の中でも集中治療室での生命維持が必要な人は 2 倍、長期コロナ症に移行する可能性が高いと推定している。しかしながら、軽症の人も長期コロナ症を発症する可能性があり、軽症の人の方が重症の人よりもはるかに多いことから、長期コロナ症患者の大部分は軽症の人である。

⚫︎青少年を含む大多数の子どもは COVID-19 から完全に回復するが、一部の子どもは長期コロナ症になり、生活の質を低下させる症状が持続的または断続的に現れる。その結果、学校を欠席することが増え、学校、スポーツ、その他の社会活動への参加が阻害されたり、成績が低下することがある。小児や青年における回復の軌跡は、成人よりも良好である。成人の研究から得られた情報はそのまま適用できない可能性があるため、子どもの長期コロナ症を理解するためにはより多くの研究が必要である。

筆者あとがき

私の知人(mRNA ワクチン 3 回接種済み)の二人は、いずれも COVID-19 感染の急性期では風邪程度の軽い症状で済みましたが、その後倦怠感を伴う症状が長引き、退職、退学に追い込まれました。今回の報告書では、急性期の症状の程度やワクチン接種履歴と長期コロナ症の病態、影響との関係が示されていますが、あくまでも一般論であって、個人個人であまり当てはめられないと感じています。

それにしても、検査陽性の確認は、長期コロナ症の診断には必要ないと報告書で言っていますが、従来の ME/CFS などとどのように区別するのでしょうか。検査陽性の情報がなければ、日本での診断は余計難しくなるような気がします。それでなくとも、今でも「気のせい」とか「よその病院に行け」とか、まともに診てもらえない状況があるのですから。

長期コロナ症の診断・管理は、個々の病態に応じて、症状を見極め、生活の質と機能を最適化すること、であることを、日本の医療分野は早く共有化する必要があるように思います。

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引用文献・記事

[1] National Academies of Sciences, Engineering, and Medicine: New report reviews evidence on Long COVID diagnosis, risk, symptoms, and functional impact for patients. June 5, 2024. https://www.nationalacademies.org/news/2024/06/new-report-reviews-evidence-on-long-covid-diagnosis-risk-symptoms-and-functional-impact-for-patients

[2] 共同通信: 米、コロナ後遺症に定義 「症状3カ月」共通化図る. 2024.06.12. https://news.yahoo.co.jp/articles/4a73828291e6023912f99febf91679cc852856bc

引用したブログ記事

2020年10月12日 "Long COVID"という病気

          

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