Dr. TAIRA のブログII

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「コロナが5類引き下げになったら」で想像できること

カテゴリー:感染症とCOVID-19 (2022年)

はじめに

現在、ウィズコロナ(living with the coronavirus)という言葉はすっかり定着した感がありますが、誤解も多い言葉です。英国で生まれたこのフレーズ [1] に、新型コロナウイルス感染症COVID-19)の感染制御の上で何らかの戦略があるような印象を持っている人が多いと思いますが、全くそんなことはありません。簡単に言えば、感染対策としてのあらゆる非医薬的介入(non-pharmaceutical intervention, NPI)を行なわない、その上である程度の犠牲が出るのは仕方がないというのがウィズコロナの考え方です。

上記の考え方は「犠牲の最小化」というフレーズで言い換えられていますが、公衆衛生上のアドバイスを通じてより安全な行動を奨励するという表現はあるものの、定量的、あるいは具体的な目標は掲げられていません。また「脆弱者の保護」ということも唱われていますが、この意味は「ワクチン接種による保護」とほぼ同じ意味です。つまりウィズコロナは、ワクチン戦略を全面的に頼りにして、すべてのNPIを行なわない方針と考えていいでしょう。

日本では、ウィズコロナを「感染対策と社会・経済活動の両立」と思っている人が多いかもしれませんが、この言葉に対応する具体的な指針は政府から出されていません。「感染対策と経済活動の両立」はきわめて抽象的であり、土台両立できるはずがありません。パンデミック下のワクチン一本打法で社会経済活動を推進すれば、必ず流行拡大しますし、犠牲者も出てくるのです。

それでも、海外では、ある程度の被害や犠牲者には目をつぶり、「犠牲の最小化」、「公衆衛生のアドバイス」、「脆弱者の保護」というフレーズとともに自由を優先するというスローガンとして、ウィズコロナという言葉が選ばれているのです。

このような中で、新型コロナの感染症法上の分類を、現行の2類相当から5類に変更すべきという意見が、経済界や為政者から出てきています。言わば、ウィズコロナ戦略を法的な変更で後押しする方針とも言えることでしょう。

では、5類に引き下げにしたら一体どうなるのか、メリットがあるのかデメリットが多いのか、今回それを想定してみたいと思います。前のブログ記事で、関連する話題を取り上げていますが(→打つ手なしから出てきた5類相当への話第7波流行での行動制限なしの社会実験)、ここでさらに掘り下げてみたいと思います。

結論から言えば、5類変更になれば政府・行政には都合がよくても、国民に利益になることはないということです。5類になれば「一般病院で幅広く診ることができる」というのも、いささか誤解です。はっきり言えば、5類化は政府・行政の責任を免除し、疫学・感染情報も遮断するということであり、おそらく公衆衛生の維持の放棄になるでしょう。

1. 海外の状況

感染症の1〜5類という分類は日本独自の法律に基づくものですが、5類になったらどうなるかは、海外の事例を参考にして想定することができます。欧米の主要国では、ウィズコロナの方針の下で、規制を全面解除し、感染者の全数把握も濃厚接触者の追跡もやめていますが、これには、ワクチンで重症化をある程度防止できる、医療提供体制を整えている、代替の流行把握の方法をとっている、という前提があることは忘れてはいけません。

図1に、テレビでよく取り上げられる規制解除、感染者全数把握停止の国々(米国、英国、豪州)のCOVID-19死亡者数の推移を、日本と比較して示します。死亡者数は依然として日本よりも多く(図1上)、人口比(死亡率)で見るとその差はもっと顕著になります(図1下)。しかも、いずれの国でも死亡率は上昇気味が横ばいです。これがウィズコロナ方針による全面規制解除の実態です。

図1. 規制解除、全数把握停止を行なった国と日本における死亡者数の推移(Our World in Dataからの転載図).

各国の感染者数の統計データも公表されていますが、そもそも全数把握をやめていてスポット的な調査データも含みますので、実態はよくわかりません。

日本のテレビは、このような欧米諸国の表面的な規制解除(例:マスクをしていない)や全数把握停止を話題として伝えますが、その結果として犠牲者数がどのようになっているかは報道しません。しかも医療提供体制の状況全数把握に代わる流行把握のアプローチについてもまず報道しません。その結果、日本の視聴者は、欧米においては何も対策しないで日常を取り戻している、経済を回しているという解放感だけが強調されてインプットされることになり、情報のバイアスに気づきにくいのです。

実際は、依然として流行は続いており、その中で犠牲者の数は容認するという自己責任の社会です。その代わり、検査、治療、ワクチンはいつでも受けられる(ホットラインで繋がる)、流行も下水のウイルス監視などで把握している(たとえば豪州、米国、カナダ)という状況なのです。

日本は、後述のように、そもそも感染症に対する医療提供の間口がきわめて小さい現状です。もし5類になった場合、季節性インフルエンザなどで行なっている患者の定点把握のみ、あるいは自主検査の申告となり、即時のデータ報告ではなくなるので、実質流行状況についてはリアルタイムで知ることはできなくなります。死亡についても報告されなくなるでしょう。下水モニタリングも一部の自治体で行なっているのみです。

2. 新型コロナはインフルエンザ"並み"ではない

次に、5類にする前提として、新型コロナは季節性インフルエンザ並みとか風邪程度とか言う声がよく聞かれます。果たしてそうでしょうか。

私が知る限り、個人的な情報のやり取りも含めて、COVID-19が季節性インフルエンザ並みと考える感染症、ウイルス学、微生物学の専門家は1人もいません。例として、ジョンズ・ホプキンズ大学医学部のリサ・マラガキス(Maragakis, L. L.)博士が、最近書いた、"COVID-19 vs. the Flu" というタイトルのレビュー記事 [2] があります。

両者の違いとしては、まずは(当然ですが)関わるウイルスが種類が異なることが述べられています。COVID-19は、SARS-CoV-2と呼ばれる2019年のコロナウイルスが原因であり、ウイルス変異体によって重症度や感染力に多少の違いがあります。一方、インフルエンザウイルスには大きく分けてA型とB型があり、毎年異なる系統のA型とB型が出現し、これらが循環して流行が起こります。

症状の違いとして挙げられているのが嗅覚(アノスミア)・味覚(アゲスミア)障害です。今のCOVID-19は、突然、嗅覚や味覚を失わせることがありますが、インフルエンザではこのような症状はほとんど起こりません。稀に、パンデミックとなった1918年のインフルエンザ流行時のように、特定の株が多くの人の味覚や嗅覚を失わせることがあります。

次に強調されているのが、合併症と長期的な障害です。COVID-19に感染した場合、肺、心臓、腎臓、脳などの臓器に合併症を生じ、様々な症状が長期的に続くなどの可能性があります。一方、インフルエンザでも、時として、心臓(心筋炎)、脳(脳炎)または筋肉(筋炎、横紋筋融解症)の炎症、および多臓器不全などの合併症が起こることがあります。

この記事では、long Covid(長期コロナ症)という言葉は出てきませんが、初期症状の程度に関係なく起こるいわゆる後遺症は、新型コロナに特有なリスクと言えるでしょう。そしてインフルに比べてはるかに全身性疾患として特徴があると言えます。

記事では流行の状況や致死率についても触れています。世界保健機構(WHO)は、世界で毎年10億人がインフルエンザに感染し、毎年29万人から65万人が死亡していると推定しています。一方、COVID-19の状況は変化し続けており、医師や科学者はCOVID-19の死亡率を推定するために努力していますが、現時点では、ほとんどのインフルエンザの株の死亡率よりもかなり高いと考えられています。

最も重要なことの一つとして感染力がありますが、上記の記事では触れられていません。論文で公表されている季節性インフルエンザウイルスの基本再生産数(R0)は平均で1.3–1.4とされますが [3]SARS-CoV-2のRA.5変異体ではR0=18.6と推定されています [4]。つまり、新型コロナの伝播力はインフルの13-14倍であり、これが発熱外来でないと診ることができないという最大の理由になっています。

次に、国内の専門家の見解を見てみましょう。一例として、今日TBSテレビの番組で紹介されていた厚労省アドバイザリーボードの資料を挙げます(図1)。ここでもCOVID-19と季節性インフルエンザの差があることが強調されていています(図2)。60歳以下では両者の重症化率に差はありませんが、60歳以上ではCOVID-19の重症化率はインフルの約3倍になります。そして、60歳以上ではそれ以下の年代に比べて83倍の重症化率の高さがあるのです。

ただし両者の比較には、条件の違いがあることには留意しなければなりません。インフルの場合は入院患者と被投薬者が母数になっていますので、同じ条件にすればもっと差が開くと思われます。異なる条件で季節インフルとCOVID-19を比べて、後者の致死率を低く見せることはしばしば行なわれているので注意が必要です。

図2. COIVD-19(オミクロン変異体)と季節性インフルエンザの重症化率の違い(2022.07.31. TBSテレビ「サンデーモーニング」より).

さらに、COVID-19においては、インフルエンザのように治療薬が広く使える状況ではなく、長期コロナ症の問題も強調されています。

実際に入院患者の年代について大阪府の場合を挙げてみましょう。最近の新規感染者については70代以上は6.9%しかいないのに、入院患者となると70代以上が75%を占めるのです。ここにCOVID-19の脆弱者は誰か如実に現れています。

図3. 大阪におけるCOIVD-19(オミクロン変異体BA.5)の感染者および入院患者の年だ別割合(2022.07.31. TBSテレビ「サンデーモーニング」より).

これまでブログやツイッターで何度となく指摘してきましたが、感染症の対策において重要なのは、脆弱者を特定化し、そこに感染伝播が起こらないように制御し、被害を最小化することです。COVID-19においては、まずは子どもや若者を中心に感染が広がり、それが家族、高齢者にも広がって、被害を拡大する、高齢世代での重症化率・致死率は若年層よりも、そして季節性インフルエンザよりもはるかに高いということが当初から続いています。

新型コロナは季節性インフルエンザ並み、新型コロナを特別視するな、5類にすべきという意見は、医者の中にも散見されますが、感染対策の基本、COVID-19の特性、および責任の所在の視点が、スッポリ抜けていると言わざるを得ません。この視点の欠如が、これまで医療崩壊をもたらしている最大の要因でもあります。第7波でも医療ひっ迫はすでに起こっており、確実に医療崩壊するでしょう。

医療提供のキャパシティ以上に感染者を増やさないこと、脆弱者を保護すること、犠牲を最小化することが一義的に重要なのに、医療ひっ迫・崩壊ということになってしまうと、今度は「新型コロナは季節性インフルエンザ並みだから」と、目標をすり替えて感染症法上の分類を引き下げろという話にすり替えられてしまうのです。

そもそも、いま大流行という燃え盛っている状況の中で、その消火が満足にできない(あるいは怠っている)言い訳として、焼けた後(5類変更)の話なんかしている場合ではないのです。

3. 5類移行になったら

さて、前置きが長くなりましたが、ここからが本題です。いま日々の感染拡大にしたがって、保健所と発熱外来の業務がひっ迫しています。発熱外来で言えば、全医療機関の35%でしかなく、非常に間口が小さくなっています。予約がとれないのも当たり前です。感染者の爆発的増加に加えて濃厚接触者の特定と待機要請も行われているため、企業や公共機関の従業員・職員の欠勤が相次ぎ、社会経済活動にも支障が出ています。

そのため、一部の地方自治体や専門家、経済界からは、そしてSNS上でも新型コロナの位置づけを季節性インフルエンザと同じ5類相当に下げるべきだとの声が出ていましたが、政府はついに昨日(7月30日)、この方向で検討することに踏み切りました [5]

為政者の中で声高々に2類相当見直しを主張しているのは、神奈川県の黒岩祐治知事や大阪府の吉村洋文知事です。よりによって、コロナ対策に失敗し、大きな被害を出している自治体のトップほど、2類見直しの声が大きいという印象を受けます。昨日のテレビ朝日の番組では吉村知事が生出演し、同様に2類見直しを主張していましたが、これについて私は以下のようにツイートしました。

いま2類相当の扱いを受けている新型コロナですが、5類に引き下げられると、まずコロナ対策本部はなくなり、感染者の即日報告、入院調整・勧告、無症状者への適用などもなくなり、全数把握も必要なくなりますので、保健所はいまの激務からは解放されます。つまり、流行っている(パンデミック状態の)感染症の制御を担っている保健所の介入がなくなるわけです。

逆に流行状況はわからなくなります。上記したように、おそらく死者数のカウントと公表も行なわれなくなるでしょう。国民は流行っているのか、いないのかさえわからなくなり、感染対策が難しい状況になるでしょう。

いま新型コロナの患者は、主に発熱外来で受診し、必要に応じて指定病院への入院勧告を受けますが、5類になったらどうなるでしょうか。よく言われることが、季節性インフルエンザと同じなら「一般の医療機関での診察も可能になる」というものですが、果たしてそうでしょうか。ここが重要なところですが、結論から言えば、これはいささか誤解です(そもそも新型コロナは季節性インフルエンザではない)。

5類にした場合、街角の一般病院でコロナ患者を診るためには二つのケースが想定されます。一つは一般病院の全てが対応するとなれば、いまの発熱外来と同じような基準(感染防止体制、検査など)で診る必要があります。なぜなら法律上の扱いを変更したところで病気の性質やウイルスの感染・伝播リスク(パンデミックという状態)は変わらないからです。

しかし、今現実に患者の導線を分けるなど発熱外来の基準で診ている一般病院は非常に少なく、非コロナ的診療をする、受診を拒否する、指定発熱外来へ回すという対応が大部分です。このような病院が、5類になったからといって、発熱外来基準を備えて簡単に診てくれるということを期待できるのでしょうか。直ぐには到底無理でしょう。おそらく、感染リスクが高まるために、その防止対策にコストがかかるために、そして現状のかかりつけ医システムの中での患者を守るために、事実上の診療拒否が起こるのではないでしょうか。一般病院で広く診られるような状況になるとは考えにくいのです。

もう一つのケースは、ウイルスの感染・伝播リスク(季節性インフルの14倍)を考慮せず、発熱外来基準を求めず、風邪などと同じように現システムで診療するというものです。しかし、これは大きなリスクを伴うことは明白です。すなわち、院内感染が起こり、一般病院が新型コロナの感染源になってしまう可能性もあります。医療従事者ばかりでなく、基礎疾患を持つ患者や他の疾患で訪れる外来患者に感染拡大してしまい、これらの脆弱者を犠牲にするリスクが高くなることは目に見えています。

結果として、一般病院が地域医療という機能を果たせなくなるでしょう。COVID-19は若年層では季節性インフルと同程度の病気であっても、高齢者や他の脆弱者にとっては死亡リスクが高くなり(上記図2)、かつ感染力においては季節性インフルの比ではないことを再認識すべきで、ここを抜きにした安易な5類への引き下げはあり得ないでしょう。

さらに経営上の問題があります。いまはコロナ診療には加算された診療報酬があり、確保病床には補助金もあります。これらの病院が、5類移行でおそらくこれらの措置が解除されてしまったらどうなるでしょうか。今まで通り、発熱外来を続けるでしょうか。そして、一般病院が補助金なしにコロナ対応の診療を始めるでしょうか。さらにはコロナ病床を設けていた病院が、引き続きそれを確保することが見込めるでしょうか。病院の経営を考えたら、これらはほとんど否です。5類になったら、おそらくコロナ対応の診療の間口も病床も減り、一部の病院に患者が集中し、スタッフが疲弊してしまうことが想像されます

法律上5類は、自己責任の措置(完全に自力医療アクセス)になっていますから、為政者や厚労省は今よりも責任から逃れられることになります。ただ、完全自力アクセスに対して医療提供側が応えられるかは、上記のように甚だ疑問なのです。米国のように遠隔診療と自宅検査にしてしまうという手もありますが、遠隔診療は導入の手間がかかり、直接対面でない分診療報酬も安くなりますので、その実現はなかなか難しいでしょう。

2類の感染症では検査で陽性確定したら隔離・入院措置であり、原則指定病院への入院が勧告されます。しかし新型コロナの場合はすでに弾力的運用がなされていて、ほとんどが(たとえ中等症以上であっても)自宅療養です。これは患者が増え過ぎてしまい、入院のところでひっ迫しているためです。2類相当感染症でありながら、もはや2類ではなくなっているのです。しかしながら、それに応じて、一般病院のコロナ用医療提供体制は改善・拡大されていません。

もう一つ重要なことは、これはメディアの伝え方の責任でもありますが、指定病院でないと受診ができないように誤解されていることです。実際は一般病院でも診察がなされていますし、訪問診療も行なわれていることは周知の事実です。ただ、一般病院の窓口は非常に小さく、受診拒否が多いので、発熱外来に患者が殺到してパンク状態になっているのが現状です。つまり受診と入院の両方の段階でひっ迫が起こっているわけです。医療にたどり着けない患者や、入院できずに亡くなる患者もいて実質医療崩壊の状態です。

東京都医師会も2類相当の扱いの見直しを提言していますが、であれば現行法で一般病院で診ればよいわけです。別に5類などにしなくてもそれはできるでしょう。事実、上述したように、一般病院でも受診可能なところがあるし、訪問診療も行なわれています。では、それが幅広くできない理由は何か、それは一般病院が新型コロナ患者を診るシステム(感染リスクを考えた設備、検査・治療、医者のマインドの面など)になっていない、あるいは病院が狭いという物理的制約があるからです。これは法律云々以前の根本的問題です。単に5類になったらそれができるというのは幻想です。

おわりに

私が知る限り、COVID-19が季節性インフルエンザ並みと考えている専門家は国内外ともいません。脆弱者の重症化率、死亡リスクはCOVID-19の方が格段に高いし、感染力では季節性インフルエンザの比ではないことは周知の事実です。もし、COVID-19がインフルエンザ並みと言っている人がいれば、その人は感染症の専門家ではないということでしょう。その延長で5類に変更しろと意見は、COVID-19がパンデミックにある病気だということを忘れ、そう叫ぶことで季節性インフルエンザあるいは風邪だと、単に思い込んでいる(思いたい)だけのものです。

実際に、今のままで5類に引き下げとなれば、自治体や保健所による感染制御の介入がなくなり、疫学情報も遮断されます。そのことで世の中はあたかも「コロナが終息」したかのような錯覚に陥り、感染対策も気分もユルユルになります。おそらく脱マスクキャンペーンも始まるではないでしょうか。とくに、5類効果がモロ被りになるのが学校で、文科省のかけ声で脱マスクが率先して行なわれるでしょう。結果として、学校で感染症がまん延し、学級閉鎖、学校閉鎖が続出するのは目に見えているのです。

社会では感染症無法状態となり(感染者数も、誰が感染しているかも、入院状況も、何人死んでいるかもわからなくなる)、知らず知らずのうちに大勢の人がうつし合う状況になるでしょう。今よりもっと溢れんばかりの患者が発生し、病院はあっという間にひっ迫し、被害が拡大するでしょう。感染症法の主目的である感染症の拡大防止、患者の保護、適切な医療提供がなくなってしまうという本末転倒のことが起こりかねないのです。

そして、5類化で「一般の医療機関での診察も可能になる」というのは、何の意味もない、念仏を唱えるようなものです。5類になることでメリットがあるのは責任逃れができるようになる為政者や業務から解放される保健所、それに経済活動優先の企業だけです。医療提供体制の面では(医療従事者にとっても)何のメリットもなく、医療費が自己負担になる分、国民にはデメリットしかありません

いま新型コロナは実質2類相当の運用をされていません。実際検査やトレーシングが追いついていないので、感染者全数把握がされているということもありません。その上で、5類変更で対応するならば、少なくともWHOがパンデミック宣言を解除した後でしょうし、もしその前とするなら、前提として早急に医療提供の窓口が拡大され、流行把握の代替手段が構築されるべきです。

目の前の燃え盛る状況の消火のためには、まずは現行法(2類相当)での弾力的な運用が必要です。保健所の業務が煩雑になっているのは厚労省の責任でもあり(HER-SYS入力の煩雑さなど)、改善が求められます。そして、今こそ、発熱外来の拡大や一般病院が診療可とするような質的向上を行なうことによる窓口の拡大が求められます。

引用文献・記事

[1] UK Government: COVID-19 Response: Living with COVID-19. Updated May 6, 2022. https://www.gov.uk/government/publications/covid-19-response-living-with-covid-19/covid-19-response-living-with-covid-19

[2] Maragakis, L. L.: COVID-19 vs. the Flu. Johns Hopkins Medicine Juy 29, 2022. https://www.hopkinsmedicine.org/health/conditions-and-diseases/coronavirus/coronavirus-disease-2019-vs-the-flu

[3] Nikbakht, R. et al.: Comparison of methods to estimate basic reproduction number (R0) of influenza, using Canada 2009 and 2017-18 A (H1N1) data. J. Res. Med. Sci. 24, 67 (2019). https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC6670001/

[4] Esterman, A.: Australia is heading for its third Omicron wave. Here’s what to expect from BA.4 and BA.5. The Conversation July 4, 2022. https://theconversation.com/australia-is-heading-for-its-third-omicron-wave-heres-what-to-expect-from-ba-4-and-ba-5-185598

[5] 読売新聞: コロナ「インフル並み」に扱い検討へ…第7波収束後、感染者「全数把握」取りやめも. Yahoo Japanニュース 2022.07.30. https://news.yahoo.co.jp/articles/eb779676724d0b9c5d06183676d8ddde18fd813f?page=1

引用した拙著ブログ記事

2022年7月20日 第7波流行での行動制限なしの社会実験

2022年7月15日 打つ手なしから出てきた5類相当への話

      

カテゴリー:感染症とCOVID-19 (2022年)