Dr. TAIRA のブログII

環境と生物、微生物、感染症、科学技術、生活科学、社会・時事問題などに関する記事紹介

ボッシェ仮説とそれへの批判を考える

カテゴリー:感染症とCOVID-19 

はじめに

ベルギーのウイルス学者ヴァンデン・ボッシュ(Geert Vanden Bossche)博士は、自分のウェブページ [1] で、免疫逃避ウイルスの出現を促すとして、COVID-19大量ワクチン中止を呼びかける自説を展開しています。そして、ワクチンに替わって抗ウイルス薬を駆使せよと主張しています。少数の専門家は、ボッシュ博士同様、このようなワクチン接種プログラムが世界および個人の健康に与える壊滅的な影響について警鐘を鳴らしています。

ボッシュ博士の主張はSNS上では散々取り上げられています。たとえば国内では、三宅洋平氏の以下のツイッターのスレッドがあります。

mobile.twitter.com

ボッシュ博士の仮説の核心部分である、局所最適化したmRNAワクチン拡大による選択圧によってウイルスの免疫逃避変異を促進するという予測については、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)の発見者であるリュック・モンタニエ(Luc Montagnier)博士(2008年ノーベル生理学・医学賞受賞)も同様な意見を述べています。微生物学やウイルス学の専門家なら、当然のように考えるでしょう。私もその1人です(→mRNAを体に入れていいのか? )。

いま主流であるmRNAワクチンは、ウイルス変異にはすぐに設計変更で対応できる利点があるという人も多いです。しかし、ワクチンの設計変更・開発スピードは、SARS-CoV-2の変異スピードとは到底勝負にならず、またコスト的にも度々の設計変更は見合わないことは、ちょっと考えれば分かることです。いま流行はデルタ変異体に替わっていますが、おそらく、ワクチンの効力低下とともに、オリジナル設計のワクチンを当分打ち続けることになるでしょう。

とはいえ、個人的にはボッシュ博士の主張に、部分的には賛同できるものではありません。その点は後述します。

ワクチン推進派や科学者の主流派は、ボッシュ博士の主張をデマ・疑似科学呼ばわりしています。彼の主張は論文化されたものでもありません。このブログでは、ボッシェ仮説の概要を紹介するとともに、それへの批判も検証してみたいと思います。

1. ボッシェ仮説とは

ボッシュ博士の仮説と主張は、彼のホームページの記事 [1] で見ることができます。また、彼がフィリップ・マクミラン(Philip McMillan)博士のインタビューで答えているYouTube動画(以下)がありますので、それを参考にすることができます。

www.youtube.com

以下に、ボッシュ仮説を、彼の記事やインタビューを参考にしながら簡単に説明します。ボッシュHPの記事は、ところどころ文章が難解であり、かつ言葉を変えながらの主旨の繰り返しが多いので、理解しにくい面もありますが、適宜補足を入れながら説明したいと思います(誤訳や誤解釈があるかもしれません)。

--------

パンデミックの最中に大量のワクチンを接種していくと、感染を容易にする宿主リザーバーが次第に狭まっていくために、感染力を増強する方向に変異したウイルスが必然的に残りやすくなる。さらに、ワクチン(スパイクタンパク質)誘導抗体に対する耐性を特徴とする免疫逃避型ウイルス変異体の選択と適応が促進される。

その結果、ワクチン接種者の防御力が低下し、ワクチンを受けていない人々を脅かす可能性が高くなる。必然的にワクチン非接種者を中心に、犠牲者が増える。つまり、集団免疫効果は発揮できない。

現在実施されている世界的な集団予防接種プログラムは、スパイクタンパクを特異的に生成する指令書を投入するmRNAワクチン(あるいは設計図であるDNAワクチン)を用いるものが主流である。標的特異的なワクチンほど、そしてワクチン接種率が上がる度に強い選択圧を生み、近い将来、感染力の強い中和逃避変異体の優占的な広がりを促進する可能性がある。

ウイルスの抗原変異とそれに伴う感染力の増強は、自然感染やワクチン接種によって獲得された中和抗体をほとんど無力にし、もはや免疫獲得者をも保護することはできなくなる。そして、COVID-19ワクチンの感染封じ込め効率を低下させる。これは、現在、多くのワクチン接種者がブレイクスルー感染を起こしており、ブレイクスルー疾患の症例も増加していることで説明できる。

上述したように、この過程で最も犠牲となるのがワクチンを接種していない人たちだが、その集団の罹患率は、今後数週間から数ヶ月の間に低下していくと考えられる。これは、感受性のある候補者のリザーバーが急速に容量を使い果たしてしまうからである。

特に、デルタ変異体が非常に速く広がっていることや、より多くの若者がワクチンを接種することで感受性のある個人のリザーバーが枯渇してしまう。そして、免疫逃避変異体の出現によって、感染拡大の場はメジャーなワクチン接種者に移る。

ウイルスの変異にかかわらず機能できるのが、マクロファージやナチュラルキラー(NK)細胞などの自然免疫系である。これらは、変異性の高いウイルスの中でも変異しない共通構造を標的とすることができるため、SARS-CoV-2のすべての変異型に対応することができる。

しかし、これらの自然免疫系は、免疫防御の最初のラインを担っているに過ぎず、高濃度の病原ウイルスに対処するには十分ではない。前線が突破されれば、自然免疫に替わって特異性の高い獲得免疫系(細胞性免疫と液性免疫)が出動することになる。ワクチン接種は、人為的に抗原(スパイクタンパク質)提示をして、特異性の高い中和抗体をつくるのが目的である。

ところが、獲得免疫である中和抗体は、免疫逃避変異体の前では、出動はできても実際には機能低下している。したがって、機能しない特異的中和抗体が支配的になることによって、むしろ自然免疫系を抑えてしまう可能性がある。つまり、ワクチン接種が進むほど、変異体の出現を促し、宿主の自然免疫系を脆弱にしていく可能性がある。

生ワクチンとは異なり、現代のワクチン技術で製造されたワクチンは、感染細胞応答性免疫(sterlizing immunity、ウイルスに感染した宿主細胞を排除することができる免疫反応を誘発する能力)を誘導することができない。

複数の査読付き出版物が、無数とも言える自然免疫防御機構において天然の非特異的抗体が極めて重要な役割を果たしていることを繰り返し強調している。それにもかかわらず、ワクチン学者、ウイルス学者、疫学者の大多数は、これらの抗体の機能的重要性を認識していない。

NK細胞等の自然免疫系の役割を考慮していないことが、循環するウイルス変異体の感染力の増加と、抗ウイルス免疫からの回避が急速に進んでいることのメカニズムを解明できない唯一の重要な理由である。

以上のことから、ウイルスの感染率を劇的に低下させ、ワクチン接種の有無にかかわらず、免疫逃避変異体が全人口に急速に広がるのを防ぐために、早急に対策を講じる必要がある。この最初の重要なステップは、大規模なワクチン接種計画を直ちに中止し、抗ウイルス剤を広く使用することに置き換えるとともに、膨大な公衆衛生資源をCOVID-19の早期多剤併用療法に投入することである。

--------

以上がボッシュ博士の仮説と提言の骨子です。

2. ボッシェ氏への批判

ボッシェ博士の仮説に対して、デマ呼ばわり、疑似科学呼ばわりする意見は多いですが、科学的観点から批判したものは少ないです。そのなかでも、科学コミュニケーター、ジョナサン・ジャリー(Johnathan Jarry)氏が書いたのウェブ記事 [2] は、ワクチンと免疫の専門家のコメントもとりながら、科学的に反証しています(図1)。

f:id:rplroseus:20210820095503j:plain

図1. ジョナサン・ジャリー氏によるボッシェ博士の批判記事 [2].

ジャリー記事では冒頭で、COVID-19パンデミックでは、過去に例を見ないほどワクチン反対派の群れを惹きつけるような、学位を有する異端児の言説があり、公衆衛生対策の破滅的な結果を告発しているとしています。この現象の最新の例として、ボッシュ博士が挙げられています。そしてボッシェ氏の主張のいくつかは間違っており、全くの見当違いだと切り捨てています。

ボッシュ博士の言説の一つは、細菌の抗生物質に対する薬剤耐性と同じがことが、コロナウイルスでも起こるというものです。すなわち、ワクチンは不完全なので、ウイルスは人から人へと感染し続け、その結果、人間の体内で変異し、危険な変異体が出現するまでになるというものですが、「これは全くのナンセンスではない」と一応記事では述べています。

この細菌の薬剤耐性とウイルスのワクチンに対する免疫逃避が比較できるのかどうかについて、ワクチン学と免疫学を専門とする小児科医ポール・オフィット(Paul Offit)博士に意見を求めています。オフィット博士は「ある意味ではそうだが、彼は主旨を理解していない」と答えています。

オフィット博士は次のように語っています。「ワクチンは、体にウイルスの不活性な部分を見せて、それに対する中和抗体を作ることができる。もし、体内で作られる抗体の量が少なければ、つまり、感染した時にウイルスを迅速に殺すのに十分でなければ、ウイルスは体内に少しの間留まり、自分自身のコピーを作ることができる。これらのコピーの中には、偶然に起きるエラーがあり、問題となる変異体となる可能性があるが、このコロナウイルスの変異率は非常に低いものだ」*

--------

筆者注*

SARS-CoV-2のRNA依存性RNAポリメラーゼには校正機能があり、複製エラーを起こす確率は低くなっている可能性がありますが、実際は宿主内因性のウイルスRNAの編集機能があるため、変異率はほかのRNAウイルスと同程度と考えられています(→第2波の流行をもたらした弱毒化した国内型変異ウイルス)。

--------

また、続けて次のように述べています。「問題になるのが、COVID-19ワクチンの中和抗体の数は少ないのか多いのかということだ。病気を防ぐのに必要な抗体のレベルはまだ正確には分かっていない。Lancet誌に掲載された論文では、COVID-19に罹患したことのない人にファイザー・ビオンテック社のワクチンを1回接種すると、自然感染者と同程度の抗スパイクタンパク抗体が作られることが示されている。モデルナワクチンの研究では、結合抗体と中和抗体は高レベルで、時間の経過とともにわずかに減少したが、ブースター接種の3カ月後にはすべての参加者で上昇したままであった。人口の大部分にワクチンを接種した国のデータでは、患者数や死亡率が大幅に減少している。つまりワクチンが効いている」。

さらに次のように続けます。「多くのワクチンは、人から人へのウイルスの感染を防ぐが、COVID-19ワクチンも同様の効果があることがわかってきた。すべての感染を防ぐことはできないにしても、感染の連鎖を劇的に断ち切ることができるし、感染するウイルスの量を減らすことができるコロナウイルスは人から人へと移動し続けるだけで、ワクチンは重症化を防ぐだけだというボッシュ博士の考えは、蓄積されたデータと矛盾する」。

オフィット博士のコメントを紹介しながらジャリー記事が示す、ボッシュ博士の主張に対するもう一つの重要な反論は、懸念される変異体に合わせてワクチンの処方を変更すればよいだけというものです。インフルエンザワクチンと同様に、SARS-CoV-2の変異体が出現し、現在のワクチンでは対応できないほどの違いがあったとしても、単にワクチンを微調整すればよいと指摘しています。

もちろん、大規模なワクチン接種プログラムは、大量の製造と時間的展開が必要なため、すぐに解決できるものではありません。しかし記事では、(ワクチンの微調整は)私たちがよく知っている方法であり、過去にも実施したことがあると楽観的です。

さらに、不完全なワクチンによってウイルスが変異してしまうというボッシュ博士の懸念に対しては、ウイルスは突然変異したとしても多くの場合それは無害であり、危険があるとするなら、人々がウイルスを培養すればするほど突然変異が偶然に出現する可能性があるが、ワクチンはそれに歯止めをかけることができると主張しています。

記事では、さらにオフィット博士のコメントをとりながら、ボッシュ博士の自然免疫強化の提言にも疑問を投げかけています。彼は自然免疫系の大ファンのようで、自然免疫系がコロナウイルスを撃退するのをワクチンや公衆衛生対策が邪魔しているのではないかと心配している、と皮肉たっぷりに述べています。

ボッシュ博士は、パンデミックの間、人々を閉じ込めておくこと(つまりロックダウン)は、ウイルスや細菌にさらされて生来の免疫システムを強化することにとって有益ではないと主張していますが、この主張は間違っていると記事は指摘しています。つまり、私たちは家の中でもすでに大量の微生物にさらされており、食べるものも、吸い込む埃も、飲む水も無菌ではないということです。

自然免疫系に同じウイルスを投げつけても、それを記憶していないのでウイルスに対抗して強くなることもない一方、適応免疫系には記憶が組み込まれており、侵入者がある度により強力に撃退するとし、ワクチンは、この適応免疫系の働きを利用していると強調しています。

ボッシュ博士の自然免疫法は、自然主義的ないわゆる「免疫を鍛える」というものではなく、自然免疫系の一つであるNK細胞に関するもので、彼はNK細胞ワクチンを開発していると主張しています。しかし、その証拠はあるのか?私は多くの科学者を代表して、「証拠を見せろ」と言っているのだとオフィット博士は語っています。

ボッシェ博士の黙示録的な警告に耳を傾け、すべてのCOVID-19ワクチンの接種やロックダウンを中止するか(シナリオ1)、彼を無視してワクチンという証拠に従うか(シナリオ2)。あなたならどうしますか?と記事は問いかけます。そして、私はどちらのシナリオを選ぶか知っているとして、できる限り多くの人に、できる限り早くワクチンを接種し、患者数や死亡者数は減少させ、ワクチンの保護を逃れる新たな変異体が出現した場合は、ワクチンを再設計して対処するという、シナリオ2の展開を記事は説明しています。

この戦略は、天然痘を退治し、ポリオ麻疹を屈服させたのと同じ原理で、人間の免疫システムの適応能力を標的としたワクチンの原理に基づいていると強調しています。

記事ではボッシュ博士の経歴や業績にも触れながら、主張の背景を疑問視しています。彼が獣医師であること、ウイルス学の博士号も持っていること、ビル・アンド・メリンダ・ゲイツ財団でワクチン発見のためのシニア・プログラム・オフィサーを3年間務めたことなどを紹介しながら、彼はおおむねワクチンには縁がないと指摘しています。

そして、ボッシュ博士の学術論文は基本的に1995年で止まっていることを挙げながら、最近の唯一の業績として、米連邦取引委員会から欺瞞的行為で訴えられた出版グループ、OMICS Group Inc.に属する雑誌に2017年に掲載された、彼のNK細胞ワクチンのアイデアに関する1つの論文 [3] のみであると、言わば貶しています。

そして、彼の終末論的な言葉とか、スーパーヒーロー映画に出てきそうな人類の守護者とか、また、ワクチン反対派の人たちがよく使う言い回し("I am all but an antivaxxer." [私は反ワクチン派ではない]))に気をつけろとか、比喩的な表現を含めて、徹底的にボッシュ博士を叩いています。

最後に記事は次のように述べています。すなわち、ウイルスが変異してワクチン防御を回避することを懸念するならば、できるだけ早く多くの人にワクチンを接種することであり、最終的にはこの能力を獲得する懸念のある変異体に合わせてワクチンを再処方することが解決策となるだろうと結んでいます。

3. SNS上の批判

私は、ボッシュ博士の研究者としての実績を知るために、世界中の研究者個人を識別するためのIDであるORCiD(オーキッド)で彼の名前を検索してみました。しかし、Geert Vanden Bosscheの名前は見つけることができませんでした。ジャリー記事が述べるとおり、彼の論文執筆を伴う研究活動はストップしており、最近では、2017年の当該論説 [3] があるのみです。

ツイッターフェイスブックなどのSNS上でもボッシェ博士への批判はいくつか見ることができます。

例としてあげるなら、日本政府のワクチンプロパガンダサイト「こびナビ」の安川医師は、「ボッシュ博士に論文がない」とツイッターで批判しています↓。この「論文がない」というのはワクチン推進派の常套文句です。

f:id:rplroseus:20210818133114j:plain

確かにボッシュ氏は最近論文を出していませんが(ただし上記のPubMedには医・理工系雑誌の数%しか収録されていない)、これは彼の主張と直接関係がないと思います。たとえ彼の仮説をどこかの雑誌に投稿したところで、査読を通る可能性はきわめて低いでしょう。彼の「ワクチン中止論」は世界の主流に全く逆行する主張であり、デマとまで言われているからです。「真っ当な科学者なら論文を書く」という論点をズラした主張は、まったく意味がありません。

おわりに

ボッシュ仮説に対する見解

前述したように、mRNAワクチン拡大による選択圧によって免疫逃避のウイルス変異体の出現を促進するというのは、微生物学者やウイルス学の専門家なら、むしろ当然のように考えます。ウイルス変異とワクチン開発のスピード競争は勝負にならないことも容易に想像されます。この意味で、私がボッシュ博士の仮説・主張で賛同できるところは、「ワクチンの選択圧によって免疫逃避変異が促進される」、「ワクチン未接種者中心の感染からブレイクスルー感染に移行する」という部分のみです。

理論上、抗原エピトープが多数ある場合には、ウイルスの免疫逃避は起こりにくいと考えられ、SARS-CoV-2もこれに該当しますが、宿主とウイルスの相互作用による変異促進も含めてわからないこともたくさんあります。ワクチンの特異性を高めるほど、すり抜ける可能性も高いと思われます。すでに、mRNAワクチン誘導の中和活性に抵抗性を示す受容体結合ドメイン変異体はいくつか知られています [4]

ワクチンに替わって抗ウイルス剤を活用するという彼の主張も理解できます。しかし、ワクチンそのものは排除されるべきというものではありません(核酸ワクチンに限定して中止しろと主張しているのならまだ理解できる)。前のブログ記事(→ワクチンとしてのスパイクの設計プログラムの可否)でも述べましたが、いろいろな意味で、私は国産の不活化ワクチンを進めるのがいいのでは考えています。

そして、抗ウイルス剤を推奨したとしても、それが変異原であれば、患者の遺伝情報への悪影響が想定されます。もちろん核酸ワクチンと同じような変異促進も起こるでしょう。抗ウイルス剤として望まれるものは、変異原でない、ウイルスのタンパク質の機能を特異的に阻害できるような薬です。

この手の抗ウイルス剤の使用は二つの大きな意義があります。一つは、もちろんCOVID-19患者のウイルス量を減らして回復を早めるという治療目的があり、そしてもう一つは、感染者のウイルス排出量を下げることによって、二次伝播のリスクを低くするという公衆衛生学上のメリットがあります。

後者の場合は、特に軽症者への適用によって隔離措置を早く解き、社会活動への復帰を促すという意味で重要でしょう。このためには、ウイルスが増殖してしまう前の早期検査が必須です。早期検査、早期投薬、早期復帰は、社会・経済活動の維持に大きな意味をもつと考えられます。

そして、ボッシュ博士が主張するロックダウンを含めた防疫・公衆衛生対策の排除については、まったく賛同できません。この先、SARS-CoV-2は免疫逃避を繰り返し、感染力を増す方向に進化する可能性を考えれば、医薬的介入のみで感染を制御することは不可能でしょう。マスク着用や検査・隔離措置などと組み合わせることは必須だと考えます。

核酸ワクチンへの見解

人類はパンデミックに際して、ワクチンを大量接種した経験も、それで流行を収束させた経験もありません。今回が初めてのケースであり、しかも前例のない局所最適化した遺伝子コードワクチン(修飾mRNAワクチンおよびアデノウイルス [Adv] ベクターワクチン)という初めて尽くしです。パンデミックという危機的状況に鑑みて、見切り発車されたワクチン大量接種プログラムですが、いま世界中で人体実験中です。まさしく実験的ワクチン(experimental vaccine)といわれる所以です。

その意味で、核酸ワクチン接種先進国のイスラエルや英国の感染状況はきわめて注目されます。両国とも完全にリバウンドが起こっていますが、イスラエルでは3回目のブースター接種が始まりました。ボッシュ仮説に従えば、ワクチンを打てば打つほど収拾がつかなくなる可能性があります。そして、今度は核酸ワクチンそのものによる悪影響がより出てくる可能性もあります。すでにイスラエルではブースターに伴って死亡者数が増えているのでは?という兆候が出ていますが、これはこれからの検証待ちでしょう。

上記記事にある、懸念のある変異体に合わせてワクチンを再処方することが解決策となるだろうというのも(開発スピードが間に合うとしても)いささか安易すぎるかもしれません。なぜなら、抗原原罪(original antigenic sin)の問題があるからです。これは、ヒトの体があるウイルスに暴露された後に、それとは異なる変異体に出会うと、元の病原体(あるいはワクチン)で誘導された免疫反応にシフトしてしまう現象であり、インフルエンザなどで知られています [5]

つまり、新たに出現した変異体に対応した改良ワクチンを接種したとしても、これまで引き起こされた免疫反応を再び目覚めさせるだけで、変異体には効率よく対応できない可能性もあるということです。基本的に、スパイクコード修飾mRNAワクチンを打ち続けることは、抗体依存性免疫増強(ADE)、抗体依存性細胞障害(ADCC)、免疫不全などの免疫への負の影響の懸念もあります。

ただ、改良ワクチンを次々と打ち続けるとなると、様々な免疫逃避変異体の出現を促すと同時に、一定の方向性に収斂しながらも変異体が分散した流行に繋がる可能性もあります。その場合にどのような流行になるのでしょうか。

引用文献・記事

[1] Geert Vanden Bossche (DVM, PhD): https://www.geertvandenbossche.org/

[2] Jarry, J.: The doomsday prophecy of Dr. Geert Vanden Bossche. McGill Office for Science and Society Mar. 24, 2021. https://www.mcgill.ca/oss/article/covid-19-critical-thinking-pseudoscience/doomsday-prophecy-dr-geert-vanden-bossche

[3] Bossche, V. B.: Re-thinking vaccinology: “Act universally, think NK Cells”?
J. Mol. Immunol. 2, 112 (2017). https://www.omicsonline.org/open-access/rethinking-vaccinology-act-universally-think-nk-cells.php?aid=94307

[4] Garcia-Beltran, W. F.: Multiple SARS-CoV-2 variants escape neutralization by vaccine-induced humoral immunity. Cell 184, 2372-2383.e9 (2021). https://doi.org/10.1016/j.cell.2021.03.013

[5] Zhang, A. et al.: Original antigenic sin: How first exposure shapes lifelong anti–influenza virus immune responses. J. Immunol. 202, 335-340 (2019). https://doi.org/10.4049/jimmunol.1801149 

引用したブログ記事

2021年2月10日 第2波の流行をもたらした弱毒化した国内型変異ウイルス

2021年6月9日   ワクチンとしてのスパイクの設計プログラムの可否

2020年11月17日 mRNAを体に入れていいのか?

      

カテゴリー:感染症とCOVID-19