Dr. TAIRA のブログII

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mRNAを体に入れていいのか?

カテゴリー:感染症とCOVID-19

米国の製薬企業モデルナ社は、いま開発中のCOVID-19ワクチン(mRNAワクチン)について、「94.5%の有効性がある」とする暫定的な結果を発表しました。モデルナ社は、効果の割合は今後、臨床試験が進むにつれて変わる可能性があるとしていますが、国内外のメディアは早速期待をもってこれを報じています [1, 2]

モデルナ社は、米国立衛生研究所(NIH)などと協力して、最終段階となる第3段階の臨床試験を行っていますが、今回の発表内容は、3万人を超える臨床試験のデータを分析した暫定的結果です。

被検者のうち、COVID-19になったのは95例であり、このうちワクチン接種を受けていたのは5例だったのに対し、プラセボ(偽薬接種群)は90例だったということです。重症化したケースも11例ありましたが、すべてプラセボ群だったとしています。

これらの結果に基づいて、モデルナ社はワクチンの有効性は94.5%だったとしています。同社は、今後、臨床試験の結果を審査が必要な科学雑誌に投稿し、近く米国食品医薬品局(FDA)に対し、緊急使用の許可を申請するとしています。

同様の臨床試験結果は、ロシアで開発中のワクチン(アデノウイルスベクターワクチン)でも得られており、論文として発表されています [3]。「スプートニクV」と名付けられたこのワクチンは認可に必要な全項目に合格しており、プーチン大統領が、自分の娘に接種させたことも伝えられています [4]

加藤官房長官は、閣議のあとの記者会見で、「新型コロナウイルスのワクチンの開発に対して、多くの皆さんが期待している中で、複数のワクチンについて明るいニュースが続いていると受け止めている」と述べました [2]厚生労働省は、国民全員が接種できる量のワクチンを2021年前半までに確保する方針で、欧米の製薬会社3社(モデルナ、ファイザーアストラゼネカ)との間で、開発に成功した場合に供給を受ける契約を結んでいます。

日本政府が契約しているワクチンは、mRNAワクチンおよびアデノウイルスベクターワクチンです。図1にワクチンの種類を比べて示します

図1. COVID-19ワクチンおよび他のワクチンとの比較(記事 [1] より転載).

私は先のブログで、mRNAワクチンに期待するところと問題点を指摘しました(→集団免疫とワクチンーCOVID-19抑制へ向けての潮流)。この技術は、細胞のRNAセンサー感知を回避する(つまり持続性を高めた)修飾ウリジン(シュードウリジン)mRNAを開発したカタリン・カリコ(Katarin Karikó)博士(現ビオンテック社)の業績に負うところが大きいです。成功すればノーベル賞授与に値する革新的技術となることは間違いなく、いま世界中の期待を集めています。一方で、懸念もあります。

今回のモデルナの結果は、期待どおり、mRNAワクチンがCOVID-19の発症と重症化を防ぐ効果があることを示しています。特に重症化しやすい高齢者や基礎疾患をもつ人に対しては、朗報と言えます。一方で、安全性の面はどうなのでしょうか。もし失敗すれば、人類全体の健康を損なうことになります。

mRNAワクチンは、SARS-CoV-2スパイクタンパク質をコードするmRNAが細胞に取り込まれ、そこでスパイクタンパク質合成が行なわれるという抗原提示の前のプロセスを含む点で、従来の不活化ワクチンや生ワクチン(図1下)とは決定的に異なります(正確にはmRNA型生物製剤とよぶべきです)。

私は免疫に関しては素人ですが、分子生物学の知識に基づいて、現時点でmRNA製剤に関して疑問がある、あるいは懸念していることを以下に述べたいと思います。

上記のように、修飾ヌクレオシドmRNAでは、非修飾mRNAでは起こるToll様受容体による認識が回避され、免疫原性の低い安定化したmRNAとなり、より大きなタンパク質発現をもたらします。しかし、修飾ヌクレオシドの挿入は、RNAの二次構造に影響を与え、さらに様々な細胞機能に影響を与える可能性があります[5, 6]。通常のmRNAは体内ですぐに分解されるわけですが、修飾型mRNAは自然免疫を抑制しながら、長期間タンパク質を作り続けることや未知の影響を及ぼすことが予測されるわけです。

一方で、遺伝子ワクチンを受けた私たちの細胞自身が、一時ウイルスに(スパイクという部分的にですが)化けるということになります。つまり、スパイクをつくり続ける細胞は感染細胞とみなされます。それゆえ、一旦液性免疫(中和抗体)を獲得してしまうと、追加接種によって、今度は抗体依存的にマクロファージやナチュラルキラー細胞などの自然免疫や、細胞障害性T細胞(キラーT細胞)の攻撃を受ける可能性が考えられるのです。 要するに、自己細胞を標的とする抗体依存的細胞障害(antibody-dependent cellular cytotoxicity, ADCCが起きる可能性が懸念されます。

また、mRNAワクチンは、SARS-CoV-2のACE結合を防ぐ中和抗体を誘発するタンパク質を産生するように設計されているわけですが、同時に感染を増強させる抗体(感染増強抗体)が産生される可能性も残されています。つまり、抗体依存的感染増強antibody-dependent enhancement, ADE)が起こる可能性はないか?ということもあります。

従来のワクチンのなかには(例えばHIVなど)、通常より高いIgG4抗体合成を誘導するものがあり、IgG4の誘導がワクチンの有効性低下と関連することが報告されています [7]。IgG4抗体誘導の要因として、過剰な抗原濃度や反復接種が挙げられていますが、COVID-19用mRNA製剤でも同様なことが起こる可能性はないでしょうか。

IgG4レベルの増加は、IgE誘導作用を抑制することにより、免疫の過剰活性化を防ぐという保護作用の役割がありますが、IgG4濃度の上昇がIgG4関連疾患と関連していることも知られています。このメカニズムの一つとして、血中のIgG4抗体が高くなると、樹状細胞の働きが促進され、そのことによって細胞傷害性T細胞が活性化され、IgG4抗体と細胞傷害性T細胞の相乗効果で細胞障害が起こるという説明がされています [8]

では、mRNA製剤の反復接種後にSARS-CoV-2が体に侵入してきた場合どうなるでしょうか。mRNA製剤で誘発されてIgG4が増加した場合、IgE抑制の保護メカニズムよりも中和抗体産生細胞障害が優先して起こり、ウイルスの感染と複製を阻止できない状態に陥ることはないのでしょうか。

一方で、mRNA製剤はスパイクタンパク質を一定期間体の中でつくり続けるわけですから、その過程でスパイク自身が全身に行き渡り、組織に入り込み、悪さをする可能性はどうでしょう? つくられたスパイクタンパク質がエクソソームに抱えられて全身も駆け巡る可能性も容易に想像できますし、スパイクタンパク自身の潜在的毒性も懸念材料です。

mRNAワクチンが成立するためには、mRNAが注射部位の細胞に留まること、長期の持続性がないことが必要だと思われますが、そこが謎のままです。全身に広がれば、それだけ自己免疫反応が大きくなると予想されるわけですが、その検証はなされているのでしょうか。mRNAワクチンは体内で目的を終えた後すぐに分解されることが必要ですが、炎症を抑え、安定してタンパク質を作るために修飾mRNAに変えて持続性を高めているという矛盾を抱えているのです。

私が注目したいのは、モデルナワクチンの臨床試験で、2度目の接種後に9.7%の人にけん怠感、8.9%の人に筋肉の痛み、5.2%の人に関節痛、4.5%の人に頭痛がみられたと報告されていることです [1, 2]。これは欧米人の体格で処方された結果ですが、従来のワクチンと比べて副作用(副反応)の割合が高いように思われます。ちょっと心配です。同じ用量で、日本人に適用されれば、もっと副作用や重篤な有害事象(場合によっては死亡)が大きくなるような気がします。

モデルナ社は、今回の結果を受けて、mRNAワクチンの安全性の上で懸念されることはないとしてます。また、英国インペリアル・コレッジ・ロンドンのピーター・オープンショウ(Peter Openshaw)教授は、以下のように述べています [1]

These effects are what we would expect with a vaccine that is working and inducing a good immune response. 

「これらの作用は、効果があるということ、望ましい免疫反応を引き起こしているということであり、期待どおりのワクチンに見られるものだ」

世界保健機構(WHO)の主任科学者スワミナサン氏は「非常に勇気づけられる結果」と評価しました。そのうえで、スワミナサン氏は「すべてのデータが分析され、最終的な効果と安全性を見極めなければならないとしています。

私は、今回のモデルナワクチンの治験結果の発表を受けて、健康な体に、本当に遺伝子コードワクチンを入れてよいのかという根本的な疑問をもちました。その疑問を表したのが以下のツイートです。当初、期待半分、懸念半分のmRNAワクチンだったのですが(→集団免疫とワクチンーCOVID-19抑制へ向けての潮流)、今は懸念の方が上回っています。

もう一つの大きな懸念は、mRNAワクチンが免役逃避ウイルス変異体の出現を誘発し、制御不能になりはしないか?ということです。このmRNAワクチンはSARS-CoV-2のスパイクタンパク質をコードしています。まさに、このウイルスによって感染の肝になるタンパク質が、これから世界中の人間の体内でつくられることになるのです。当然ながら、ウイルスはこのタンパク質で誘発された中和抗体をかわすように変異していくことでしょう。

加えて、このワクチンによる中和抗体は長持ちしないと予測されます(→新型コロナウイルス抗体検査の状況ー抗体は長続きしない)。抗体価の低下とウイルスの変異によってブレイクスルー感染が次々と起こるでしょう。それでも免疫の同調性が達成されれば一気にウイルスの収束に繋がる可能性がありますが、それは土台不可能です。国ごとに自然感染率は異なり、ワクチン接種プログラムの進行も大きく異なると予想されますので、免疫状態はバラバラになります。この多様な免疫を回避するような変異体が次々と出現する可能性があります。

mRNAワクチンの利点の一つは、設計変更が容易であるということであり、おそらく新しい変異体が現れる度にアップデートされたワクチンが出回ることになるでしょう。しかし、ウイルスの変異スピードはこれを上回り、設計変更が後追いの状態になることは容易に想像されます。商業的に考えても、次々と新しいワクチンを製造していてはコストがかかり過ぎます。在庫処分が優先されることになることは言うまでもないでしょう。

このようにして考えると、適当なタイミングで何回もワクチンを接種する事態が訪れそうですが、接種の繰り返しは安全性とウイルスの制御の面で大きな問題になってきます。人類はまだ経験がないのですから。相当な確実性を持って言えることは、繰り返しますが、mRNAワクチンの導入とその反復接種が、ウイルスの免疫逃避の促進剤になり、制御不能になってしまう恐さです。SARS-CoV-2は人間社会に深く入り込み、終わりのない戦いを強いられる可能性があります。

このような私と同様な見解をもっている人たちは、ウイルスや微生物の専門家の中には少なからずいます。しかし、同じ声は、分子生物学や構造生物学や生物物理学の人たちからは(少なくとも知る範囲では)聞かれません。どうやら、生物の仕組みや働きについて、組織化されたものとして捉える立場の人と物質レベルで考える人との間で相違があるようです。

要は、分生生物学のセントラルドグマと免疫の中和抗体のレベルに特化して話をするか、それに関わる細胞・組織反応のプロセス全体および進化のレベルで話をするかの違いになります。安全性にかかわるこのプロセスの多くは未知です。

一方で、ワクチンや免疫の専門家はどう思っているのでしょうか。テレビで専門家が「副反応はワクチンが効いている証拠だ」と、上記のオープンショウ教授と同様に、当たり前のようにコメントしていますが、果たしてどうなのでしょう。少なくとも、私がチェックした限りでは、ウェブ記事やテレビで聴く医療系専門家や医者のコメントからは、全員がmRNAワクチン(健康体に修飾mRNA型生物製剤を打つこと)に如何なる疑問を持っていないように見えます。免疫逃避変異体の出現や、それが制御不能になる可能性について論じている専門家は皆無です。

引用文献・記事

[1] Gallagher, j.: Moderna: Covid vaccine shows nearly 95% protection. BBC News. Nov. 16, 2020. https://www.bbc.com/news/health-54902908

[2] NHK NEWS WEB: 米モデルナ コロナワクチン「94.5%の有効性」暫定結果を発表. 2020.11.17. https://www3.nhk.or.jp/news/html/20201116/k10012715891000.html

[3] Longunov, D. Y. et al: Safety and immunogenicity of an rAd26 and rAd5 vector-based heterologous prime-boost COVID-19 vaccine in two formulations: two open, non-randomised phase 1/2 studies from Russia. Lancet 396, 887–897 (2020). https://doi.org/10.1016/S0140-6736(20)31866-3

[4] BBC News: Coronavirus: Russian vaccine shows signs of immune response. Sept. 4, 2020. https://www.bbc.com/news/world-europe-54036221

[5] Zhao, B. S. and He, C. Pseudouridine in a new era of RNA modifications. Cell Res. 25, 153–154 (2015). https://www.nature.com/articles/cr2014143

[6] Parr, C. J. C. et al.: N1-methylpseudouridine substitution enhances the performance of synthetic mRNA switches in cells. Nucleic Acids Res. 48, e35 (2020). https://academic.oup.com/nar/article/48/6/e35/5742781

[7] Chung, A. W. et al.: Polyfunctional Fc-effector profiles mediated by IgG subclass selection distinguish RV144 and VAX003 vaccines. Sci. Transl. Med. 19, 228ra38 (2014). https://www.science.org/doi/10.1126/scitranslmed.3007736?url_ver=Z39.88-2003&rfr_id=ori:rid:crossref.org&rfr_dat=cr_pub%20%200pubmed 

[8] Sasaki, T. et al.: Synergistic effect of IgG4 antibody and CTLs causes tissue inflammation in IgG4-related disease. Int. Immunol. 32, 163–174 (2020). https://academic.oup.com/intimm/article/32/3/163/5622784

引用したブログ記事

2020.06.20 新型コロナウイルス抗体検査の状況ー抗体は長続きしない

2020.03.29 集団免疫とワクチンーCOVID-19抑制へ向けての潮流

      

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