Dr. TAIRA のブログII

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2022年を迎えて−パンデミック考

カテゴリー:感染症とCOVID-19 (2022年)

 2022年を迎えました。新型コロナウイルスSARS-CoV-2)感染症について、最初のブログ記事を書いたのが、2年近く前の2020年2月19日です(→新型コロナウイルス感染症流行に備えるべき方策 )。その当時は、パンデミック(まだパンデミック宣言前でしたが)が長引くことは予想していましたが、正直これほどまでとは思いませんでした。

ただ、その時からエアロゾル感染空気感染)が想定されたように、このウイルスによる感染流行は厄介なものになるとは予測できましたし、日本政府、厚生労働省、政府専門家会議の不作為や怠慢、対策の間違いを危惧していたものです。とくに、彼らが当初からPCR検査の抑制的な方針で臨んだことは、その後被害を拡大させたことは明らかであり、今の検査態勢にも尾を引いています。せっかく3密条件という日本独自の感染リスクの概念を立てながら、古典的医学ドグマに拘泥して、長い間空気感染を認めない状況も悪い方向に働いたと思います。

世界保健機構(WHO)のテドロス・アダノム・ゲブレイェスス事務局長は、新年へ向けた声明で、新型コロナウイルスの感染抑制に各国が協力し合えば、2022年にはパンデミック終息に持ち込むことができるだろうと期待感を示しました。足掛け3年をかけての終息への期待感なのですが、これについて私は、元旦、以下のようにツイートしました。

つまり、現代は科学とテクノロジーの進歩があるにも関わらず、元来の人間の性と生態が、それらの適切な行使をムダにしてしまう、あるいは阻害する状況をつくり出し、パンデミックを長引かせているとも言えるのではないでしょうか。人と人との接触、人の集まりでウイルスが伝播するという基本的理解があるのに、グローバルな人の往来や、人流を促進する経済活動をうまくコントロールできない状況がそれです。

COVID-19の原因がコロナウイルスの一種という、それに対するヒトの獲得免疫の持続性に乏しいウイルスであることも、パンデミックの終息を難しくしている要因の一つでしょう。先進国のほとんどがmRNAワクチンプラットフォームをベースとする集団予防接種戦略をとりましたが、当初の危惧どおり(→集団免疫とワクチンーCOVID-19抑制へ向けての潮流)、この方法による集団免疫効果は発揮できないことが明らかになりました。ワクチン接種の意義は、あくまでも病気の発症や深刻化の予防というその時々の個人レベルでの話に限定され、免疫の同調性を保つことが難しいことが分かった今、感染流行全体の抑止効果にはなり得ないのです。

それにしても、最近のメディア報道は、新規陽性者数やオミクロン変異体(Omicron variant)の感染者数の数字は伝えても、今の流行が全体としてどのような傾向になっているかを伝えません。たとえば、NHK特設サイト「新型コロナウイルス感染症」の新規陽性者数のグラフを見ると、縦軸がこれまでの最大値に合わせてあるために、最近の新規陽性者数の増減がさっぱりわからなくなっています(図1。他のメディアのグラフもそうです。

このグラフの見せ方では、政府や国民の油断を招くばかりです。事実、年末年始における人流や人出にはまったくと言っていいほど影響を与えていません。

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図1. NHK特設サイト「新型コロナウイルス感染症」に掲載されている新規陽性者数の推移のグラフ(2021年10月19日〜2022年1月1日).

図1のグラフではさっぱり傾向がわかりませんので、このサイトのデータに基づいて、私自身でグラフを作り直したのが図2です。この図からわかるように、すでに第6波は先月(2021年12月)初めから始まっているのです。そして、この流行の主体と予測されるのがオミクロン変異体です。まだ日々の新規陽性者数は少ないですが、急増しています。

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図2. 最近(2021年10月15日以降)の全国の新規陽性者数の推移(NHK特設サイト「新型コロナウイルス感染症」のデータに基づいて作図). 図中の黒線は3次多項式による近似曲線を示す.

デルタ変異体による第5波の流行の際には倍加時間は3週間ほどでしたが、現在のそれは2倍以上短いです。潜伏期の短さとともに、この時間短縮はもっと顕著になるでしょう。1月1日時点での全国の新規陽性者数は535人ですが(図1)、最近3週間の新規陽性者数の増加を指数式で近似すると、今月内には全国で1万人/日を超えるという予測ができます。オミクロン変異体の伝播性の強さを考慮すれば、実際はもっと大きくなるでしょう。

新聞は先月下旬にオミクロン変異体の市中感染を報じました(図3)。しかし、図1と照らせ合わせれば、市中感染はもっと以前から起こっており、現在は相当まん延していると考えた方が妥当です。

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図3. 朝日新聞が伝えた大阪および東京でのオミクロン変異体の市中感染.

現流行のウイルスは、国からは具体的な割合が報告されていませんが、日本ではオミクロン変異体が半数を超えているようです(図4)。東アジア・西太平洋の近隣諸国と比べると、デルタ変異体との割合が随分違いますが、検査を含めた検疫の効果に由来するものでしょうか? たとえば、お隣の韓国でのウイルスはデルタ型がほとんどです。もっとも感染者の絶対数が大きく異なるので何とも言えないところではあります。

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図4. 主な東アジア・西太平洋の国におけるSARS-CoV-2変異ウイルスの型の割合(Our World in Dataより).

昨年末に、英国でのオミクロン感染者の大規模な分析結果が発表されました [1]。それによれば、2回目接種から5ヶ月経つと感染予防効果はほぼ消えることが報告されています。ブースター接種でも同様です。一方、入院や重症化予防はかなり高く維持され、入院率で言えば、ほぼ1/3となっています。

この分析結果は、オミクロン型ウイルスは免疫逃避の性質があるけれども、病毒性は弱くなっているというこれまでの大方の見解を支持しています。ただ、病毒性が弱くなったとは言え、感染力(伝播性)の高さから感染者数の爆発的増加が起こり(特に高齢者のブレイクスルー感染や子供への感染)、その分、高齢者、基礎疾患持つ人を中心に重症者や死者の絶対数も増えるでしょうし、医療従事者の感染も多発するでしょう。そうなれば、病院がひっ迫する状況は容易に予測されます。

また、その他のエッセンシャル・ワーカーの感染者が増えることや、感染者数増大によって濃厚接触者が劇的に増え、人々が回避行動に向かうことで、社会・経済活動にも大きな影響を与えることになるでしょう。社会機能不全への懸念があります。

現在の濃厚接触者の定義はきわめて限定的で、マスクをしていれば濃厚接触者から外れます。それでも感染大爆発によって、その狭い範囲でのトレーシングもできなくなり、社会機能維持という名目で濃厚接触者の待機期間の変更も余儀なくされるかもしれません。

街の病院や検査場には沢山の人たちが押し寄せ、検査数、検査試薬・キット不足になることも容易に想像できます。日本はクラスター発生時や有症状者に限定的にPCR検査を適用するという当初の方針がいまだに影響しており、現時点で、人口比検査実施数は世界142位というお粗末な限りです。

つまり、諸外国の前例から判断して、オミクロン変異体による第6波は過去最多の感染者数になることは確実でしょう。そして、その絶対数の増加分だけ、入院患者数はもとより重症化や死亡も含めた被害も過去最大になる危険性があります。これまでの重症化率や致死率などに基づく被害の常識が通じない可能性が高いのです(→オミクロン変異体が意味するもの)。しかしながら、政府は検査を充実させることもなく、保健所機能や医療体制を強化するでもなく、指をくわえて見ている状況です。

検査については患者分に宛てがうものという古典的固定観念が今でも支配し、無症状感染者(特に無症状スーパースプレッダー)が無自覚のまま感染を広げることを防ぐという防疫的活用や感染対策のベースになるデータ構築に活用するという概念がスッポリ抜けています。このことが、検査試薬・キットの確保不足となり、オミクロン流行に対応できないことは明白なのです。政府や専門家や周辺感染症コミュニティの姿勢を見ているとそう思わざるを得ません。感染爆発の兆候は明らかなのに、政府は何とも無策のままです。

さらに、感染者数の爆発的増加で、新たな変異ウイルスを出現させるチャンスを与える結果にもなります。必死に感染拡大を抑制していくことが絶対条件です。

オミクロンのようなウイルスの蔓延によって困るのは、政府のワクチン推しが続く限り、ワクチンを毎年数回接種しなければならないような状況になることです。少なくとも高齢者へのブースター接種は進めるにしても(第6波に間に合うか懐疑的ですが)、もしそうなれば、逆にmRNAワクチンを繰り返す打つことによる、若い健常者や子供に対するさらなる負の影響が大きくなることが危惧されます。それは、武漢型ウイルスのスパイクタンパクに局所最適化した遺伝子ワクチンで、特定の免疫を誘導し続けることの中長期的な悪影響も含みます。

引用文献

[1] UK Health Security Agency: SARS-CoV-2 variants of concern and variants under investigation in England. December 21, 2021. https://assets.publishing.service.gov.uk/government/uploads/system/uploads/attachment_data/file/1044481/Technical-Briefing-31-Dec-2021-Omicron_severity_update.pdf

引用したブログ記事

2021年12月11日 オミクロン変異体が意味するもの

2020年3月21日 集団免疫とワクチンーCOVID-19抑制へ向けての潮流

2020年2月19日 新型コロナウイルス感染症流行に備えるべき方策

                    

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