Dr. TAIRA のブログII

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「オミクロンは重症化率が低い」に隠れた被害の実態

カテゴリー:感染症とCOVID-19 (2022年)

はじめに

オミクロン変異体(オミクロン型、Omicron variant)による新型コロナウイルス感染症は、従来のデルタ変異体などに比べて重症化しにくいことがすでに明らかにされています。私たちにとってはこれ自体は朗報ですが、ウイルスの伝播力の強さと免疫回避(ワクチン逃避)の性質は憂慮、警戒すべきことです。

ところがメディアなどで(専門家の間でさえも)、オミクロンの重症化率の低さや症状の軽さが強調されるあまり、被害の実態がわかりにくくなっているのではないかと思われます。オミクロンは風邪みたいなものと感じたり、デルタの時と比べて被害は大したことはないと多くの人が勘違いしているかもしれません。

オミクロン型流行による社会混乱はすでに顕著になっていますが、果たして、従来のデルタ型流行などと比べて被害の程度はどの程度なのか、まずは実態を直視する必要があります。

1. 重症者数

では実際に、被害の一つの指標になる重症者(ICU患者)の数を見てみましょう。例としてG7の7カ国とイスラエルの状況を示したのが図1です。昨年の夏から初秋にピークが見えるのがデルタ型流行における重症者数ですが、それと比べて現在のオミクロン型流行における重症者数は遜色ありません。米国、カナダ、フランス、イタリア、イスラエルの重症者数ピークは、むしろオミクロン型がデルタ型を上回っています。

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図1. G7の7カ国およびイスラエルにおける新型コロナ感染症ICU患者数/人口100万人の推移(2021.06.03〜現在、Our World in Dataより).

日本はこれらの国のなかで人口比重症者数が小さいので目立ちませんが、今日(1月30日)時点での重症者数は734人であり、この増加のスピードはこれまでの第1〜4波をはるかに上回っています。おそらく第5波(デルタ型)流行以上の重症者数になるのではないでしょうか。なお、734人という現重症者数は東アジア、西太平洋諸国・地域のなかで、フィルピンに次いで第2位の数字です。

2. 死者数

次に最も深刻な被害である死亡について見てみましょう(図2)。驚くべきことに、米国、カナダ、英国、フランス、イタリア、イスラエルでは、新規死者数/日において今回のオミクロンがデルタを上回っていて、日々記録を更新しています。重症者数以上に死者数に被害の大きさが現れているのです。

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図2. G7の7カ国およびイスラエルにおける新型コロナ感染症死者数/人口100万人の推移(2021.06.03〜現在、Our World in Dataより).

日本では、日々の死者数が30–40人であり、欧米と比べてかなり低く抑えられていますが、この死亡増加のペースはやはり従来の流行のペースを上回っています(図3)。死亡事例は感染ピークよりもかなり遅れて多く出てきます。このペースが続けば、少なくとも、デルタ型(第5波)のピークを上回るのではないかと思われます。

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図3. 日本における新型コロナ感染症死者数/人口100万人の推移(2021.06.03〜現在、Our World in Dataより).

3. 感染数増大がもたらす脅威

オミクロン型感染症は軽症であるはずなのに、なぜ上記のような世界中でこれまでで最大と思える被害になるのか、それは第一に、オミクロンの伝播性の強さとワクチン逃避による感染者数の爆発的増加に帰因します。重症化率は低くとも、母数になる感染者の絶対数が著しく増えれば、絶対数としての被害事例は自ずから増えるということです。

米国での死亡者はワクチン未接種者に多いという報道もありますが、未接種者数はむしろデルタ以前の方が大きいはずで、死者数増加の理由にはなりません。

G7の7カ国とイスラエルの陽性事例の推移を見ると、感染絶対数の影響が一目瞭然です。図4のように、デルタ流行時とは比較にならないほど、いずれに国においても感染者が著しく増えていることがわかります。これが重症者と死者を増やしている主因です。

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図3. G7の7カ国およびイスラエルにおける新規陽性者数/人口100万人の推移(2021.06.03〜現在、Our World in Dataより).

日本のテレビで、医療専門家がECMOの使用について現在数人の患者しかいないとしてオミクロン病の"軽さ"を強調していましたが、人工呼吸器やECMO装着を望まない重症患者がいることや(→経済推進と重症者数重視の影に隠れる死亡者の実態)、実際の死亡ペースから考えると、これらの使用が必ずしも被害の実態を現すものとは言えないでしょう。これが第二の要因であり、オミクロンでは現在の重症者の基準に当てはまらなくでも、軽症や中等症から容態が急変して死亡する事例が増えているということです。被害の実態として、重症者数よりも死者数の推移をきちんと見る必要があります。

オミクロン感染者の著しい増加で自宅療養者は30万人近くになり、これまで最多だった第5波を越えています。濃厚接触者の数も著しい増加で、医療提供体勢や社会活動・インフラの維持にも重大な影響を及ぼしています。街のクリニックは患者であふれ、検査キットの枯渇で発熱外来を一時的に閉じる病院も増えています。そのことによって、ますます感染拡大に歯止めが効かなくなり、この先大きな被害となることが予測されます。

4. 直近のツイート

オミクロンの流行の肝は重症化率ではなく、感染者数増加そのものがもたらす社会機能不全の可能性および感染母数の高さから来る被害の増大であることは、当初から明らかだったはずです。この点については、私は、本ブログでも(→2022年を迎えて−パンデミック考)、ツイッター上でも指摘してきました。関連する今月のいくつかのツイートを以下に列記します。

おわりに

欧州のいくつかの国では、為政者トップがエンデミック(パンデミックから風土病への移行)発言をしたり、規制解除をしたりしています。それを日本のメディアが安易に取り上げることにより、オミクロン流行の"軽さ"が強調される結果になっている感があります。実情は異なり、これまでのパンデミックの流行の波のなかで、最大の被害になろうとしています。

為政者は国民・市民の支持獲得のために迎合した政策を出しやすいし、経済活動を止めるなという財界からの圧力は常にあるし、国民のコロナに対する慣れや飽和感も手伝って、情報が楽観的な方向に流れる嫌いがあります。しかし、パンデミックは決して終わっていませんし、これで終息するとかエンデミックになるという科学的根拠も現段階ではありません。いまの第6波から、7波、8波..と続いていく可能性があるのです、

防疫、医療、経済のバランスを誤ると、今の日本のように社会が立ち行かなくなり、医療ひっ迫・検査資源の枯渇に陥り(病院にさえ不足)、検査なしの診断、濃厚接触の措置の変更、トレーシングの縮小などのその場しのぎの策に追われることになります。これは防疫という観点からはまったくの逆の効果になり、さらなる感染拡大を許してしまうということになるでしょう。これまで何度と繰り返してますが、明らかに失政です。

引用したブログ記事

2022年1月2日 2022年を迎えて−パンデミック考

2020年12月1日 経済推進と重症者数重視の影に隠れる死亡者の実態

                    

カテゴリー: 感染症とCOVID-19 (2022年)