Dr. TAIRA のブログII

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日差しと紫外線


これから夏に向けて日差しが強くなって行きます。日光の中には紫外線(ultraviolet light, UV)も含まれます。紫外線は私たちも含めて生物に対して害がありますので、暑さ対策とともに紫外線対策が必要になってきます。

外出するときの暑さ・紫外線対策として日傘があります。今日のNHKあさイチでは冒頭で日傘の選び方を取り上げていました。

まず、日傘選びのポイントとして、内側が白色や明るい色のものは避けましょうということでした。明るい色では紫外線が乱反射しやすく、顔に照り返しがあり、日傘の効果が低下するということです(図1)。

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図1. 日傘の内側が明るいと紫外線が反射する(2018.5.17 NHKあさイチより)

次に傘の外側ですが、これは熱源である赤外線も紫外線も反射した方がよいので、明るい色を選びましょうということでした(図2)。

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図2. 日傘の外側が明るいと赤外線や紫外線を反射する(2018.5.17 NHKあさイチより)

しかし、外側が白系統で内側が黒系統というマッシュルームのような日傘は、市販品を探してもなかなかないと思います。新しく健康日傘として開発すれば、けっこう売れるのではと思いますが。

私たちの目に色として感じられる光線は可視光線と呼ばれ、光の波長で言えば、360-400 nmから760-830 nmの範囲にあります(図3)。紫外線も赤外線もこの可視光線の範囲よりも外れたところにありますので、私たちの目には見えません。ちなみに紫外線を形容するultravioletという言葉は、可視光線の最も短い波長領域にある紫色を超えたという意味になります。

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図3. 可視光線の範囲および波長と色との関係

紫外線はしばしば美容と健康の面から、波長に応じて3つの種類に分けられることがあります。 長波長側からUV-A(315-400 nm)、UV-B(315-280 nm)、およびUV-C(280 nm以下)と呼ばれます(図4)。

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図4. 波長に応じた紫外線の種類とDNA、タンパク質の吸収帯

私たちの体を構成するタンパク質は紫外線を吸収する性質があり、図4のようにその吸収極大は280 nmにあります。また、DNAも紫外線を吸収し、その吸収極大は260 nmにあります。したがって、これらの波長帯の紫外線は生物にとってきわめて有害です。

たとえば、皮膚に紫外線が当たると、タンパク質であるコラーゲン繊維および弾性繊維(エラスチン、フィブリリン)にダメージを与えて皮膚を加齢させます。破壊された弾性繊維は回復しないので、紫外線に当たれば当たるほど皮膚は老化(加齢)していくことになります(図5左)。

DNAに紫外線が照射されると、二重らせん構造をとるDNA分子を不安定にして二本鎖を繋ぐ「はしご」を切り離してしまいます。そして、はしごの両方にある本来の塩基対ではなく隣接する塩基同士で間違った二量体を形成します(変異した状態)。そうすると、この二量体が原因で、DNA複製のエラーや転写のミスを発生させます。結果として、正常に遺伝子が正常に発現しなくなり、ガンの発生をもたらすことがあります(図5右)。

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図5. 紫外線による皮膚へのダメージ(タンパク質やDNAへの障害)

太陽光の中には、すべての波長の紫外線が含まれていますが、波長が長いほど地表に到達しやすいことが知られています。地表に到達する紫外線の99%がUB-Aであり、残りの大部分がUV-Bです。UMCは大気中の物質による吸収が著しいので大気を通過することができません。オゾン層は波長の短い紫外線を防ぐ役目をしています。

地表での紫外線は長波長のUV-Aが大部分だとしても安心はできません。上記のように260–280 nmの紫外線はきわめて有害ですが、長波長でもわずかながらタンパク質やDNAによる吸収があります。したがって、UV-Aによる皮膚の加齢、DNAへのダメージ、皮膚がんへのリスクはゼロではありません。とくにUV-Aは、深く皮膚の中に浸透するため、皮膚の張りを保つ弾性繊維を徐々に破壊する原因となります。

UV-AはUV-Bと比べて、大気中での減衰が少なく、冬期や朝夕でも比較的多く降り注いでいるので、それだけ浴びる量は多くなります。日光を浴びることは体内時計の起動やビタミンDの生成などで必要なことですが、故意に過度に浴びることは美容・健康の面でマイナスです。

日焼けサロンで照射されるのは、主にUV-Aですが、その際に皮膚の老化を加速していることになります。世の中には自ら進んで全身を日焼けさせる人がいますが、わざわざ日光の下や日焼けサロンで体を老化させている行為は、私には理解ができません。