Dr. TAIRA のブログII

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少年たちを手なづけるためのアイドル帝国と性的虐待

カテゴリー:社会・政治・時事問題

"X"のタイムラインを見ていたら、ハリウッド・リポーター(The Hollywood Reporter, THR)がジャニー喜多川氏による性的虐待の問題を取り上げていることに目が留りました(下図)。中を見たら「ジャニー喜多川性的虐待スキャンダルへの対応を非難する国連報告書」という記事 [1] を配信していました。ハリウッド・リポーターは、米エンターテインメント業界の情報を扱う週刊誌などを含むメディアの一つです。

日本公式アカウントとしてハリウッド・リポーター・ジャパンがありますが、こちらは今のところこのTHR記事を引用していないようです。日本語訳記事も見当たりません。日本のエンターテイメント業界の大物として君臨してきた人物による少年タレントに対する性的虐待は、この業界のみならず日本のメディアや政治も揺るがす人権問題としてクローズアップされています。先行して、BBCは関連の記事 [2] を配信しており、このTHR記事でも引用されています。そこでこのブログでTHR記事を翻訳して紹介したいと思います。

以下筆者による翻訳文です。

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日本のポップス界の大物であった故人によって創られた少年グループは、ポップチャートを席巻しただけでなく、スクリーンのいたるところで見られるようになった。その成功は、彼に絶大な権力を与え、8歳の子どもたちへの性的虐待を助長することになった。

国連人権理事会の調査によって、数十年にわたり日本の芸能界で最も権力を誇っていた故ジョニー喜多川が、数百人の少年を虐待し、彼が設立した事務所がいまだにその責任を取っていないという結論が出された。 来日した同作業部会のメンバーであるピチャモン・イェオファントン氏は、日本政府の不作為を批判し、「加害者の透明性のある捜査と被害者の実効的救済を確保すべき第一の義務者 」として行動する必要性を述べた。

ピチャモンによれば、作業部会は、日本のメディアとエンターテインメント業界全体にはびこる「深刻で厄介な問題を目撃した」という。彼は、職場の行動に関する規範やルールが存在しないことが、「性的暴力やハラスメントへの寛容さ」の文化を助長していると述べた。

1931年、ロサンゼルスの僧侶のもとに生まれたジョン・ヒロム喜多川は、幼少期はロサンゼルスと東京を行き来し、1950年代には在日米国大使館で働き始めた。米大使館で働き始めた1950年代、彼はティーンエイジャーを集めて少年グループを結成し、そのグループを「Johnnys」と名付けた。1962年、彼はジョニー&アソシエイツ社を設立した。それは、男性タレントのみを扱うアイドルグループ現象を創り出すことになり、SMAPや嵐のような大スター・グループを生み出した。

今月発売の週刊誌『週刊文春』に掲載された記事には、喜多川と事務所で長年いっしょに働いていた元スタッフの言葉が引用されている。「アイドル帝国の社長が性的虐待をした事例というよりも、これは(芸能界に)デビューする途中の少年たちを手なずけるためにアイドル帝国を作ったという性的虐待者の問題だ」。

3月に放映されたBBCのドキュメンタリー番組「プレデター」に続いて、喜多川の犯罪にスポットライトが当たった「 J-POPの秘密のスキャンダル」(BBC)が放映されたことで、彼の犯罪がクローズアップされるようになった。とはいえ、日本では喜多川氏の行為は公然の秘密であり、週刊誌は報道したが、大手メディアグループはこれを隠蔽してきた。

実際、最初の疑惑は、喜多川がまだ米大使館に勤務していた1965年3月号の『週刊サンケイ』(今は廃刊)に掲載された。1981年4月には『週刊現代』が別の被害者からの報告を掲載している。1990年代に出版されたジャニーズの元タレントによる著書には、虐待の体験談や目撃談が多数掲載されている。

1999年、週刊文春は喜多川による十数人の被害者の生々しいレイプ体験を10回にわたって連載した。喜多川は名誉毀損で出版社を訴え、2002年に東京地方裁判所で損害賠償を勝ち取った。喜多川の勝訴はすべての主要紙によって報道された。この判決は翌年、東京高裁で一部覆され、損害賠償額は大幅に減額された。リベラル寄りの朝日新聞毎日新聞の2紙だけがこの新しい判決を掲載したが、前回の喜多川勝訴のときよりも小さな記事の扱いだった。

日本の大手新聞社はすべて、テレビやラジオのネットワークを含むメディア・グループに属している。喜多川は冷酷なまでに、自身とそのスターにまつわる物語をコントロールすることに長けていた。彼の事務所に所属する人物に否定的な報道をしようとすると、メディアグループ全体がその巨大なメジャータレントへのアクセスを失うことになることは、よく知られていた。

2019年に喜多川が死去した際、当時の野上浩太郎官房副長官は「長年にわたり数多くのアイドルを育て上げられるなど、わが国のエンターテイメント界に多大な功績を残された。心からご冥福をお祈り申し上げたい」と述べた。

BBCのドキュメンタリーが放映され、その後日本のメディアが報道して以来、さらに数十人の被害者が名乗り出た。そして、それまでは週刊誌の匿名証言がほとんどであったものが、ついに名前と顔が明らかになった。

5月、日本で最も知名度の高いエンターテイナーであろう北野武が、喜多川氏の性的虐待スキャンダルについて言及した。カンヌ国際映画祭で、北野武はハリウッド・リポーターに対し、「LGBTQやセクハラについて発言できる時代がついに日本にもやってきた」と語った。彼はさらに、「このような話は(我々の業界では)常にあった 」と付け加えた。

それでもなお、犯罪の重大さと、メディアとエンターテインメント・ビジネスの共犯関係がいかに小児性愛を助長したかを完全に受け入れることには消極的なようだ。  

このドキュメンタリーが放映された直後、米国生まれの日本のタレント、デーブ・スペクターは(日本語で)「記者の執拗な欧米流の正義感や被害者意識と、実際の事件関係者とのトーンの違いに驚いた」とツイートし、「そんなに気になるなら、なぜ喜多川が生きている間に報道しなかったのか」と疑問を投げかけている。

日本のテレビの別のレギュラーはさらに踏み込んだ。デウィ・スカルノは先月、ツイッターで国連グループの来日を批判し、喜多川について「自分の所属事務所の子供たちを自分の子供のように可愛がっていた」と述べ、彼への批判は「日本の名誉を傷つけている 」と付け加えた。

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翻訳は以上です。

筆者あとがき

私事ですが、私が最初にジャニーズを聴いたのは、初代ジャニーズがテレビで歌っていた頃だと記憶しています。あおい輝彦のヴォーカルが印象的でした。とはいえ、いわゆるアイドルグループの音楽に触れていたのはフォーリーブズが出てきた頃までで、その後はあまり興味がなく聴かなくなりました。

一つは、週間サンケイが「ジャニーズ売り出しのかげに」と題した記事で、ジャニー喜多川氏の「みだらな行為」を報じたことです [3]。通っていた中学校ですぐに話題になり、ジャニー氏は自らの小児性愛のために若い子を集めているのではないかと噂したことを覚えています。翌年からロックバンド活動を始めるようになってから、アイドルには益々興味がなくなり、もっぱら聴くのは洋楽のみで、邦楽はグループサウンズくらいだったと思います。

それから約20年後、元フォーリーブス北公次氏の実名による告発本出版に触れて、やはり「ジャニーズはそういうところなんだ」と確信をもちました。ずうっと以前にバンド仲間から、ジャニーズ批判は業界では御法度ということも聞いていましたので、この問題の根の深さを感じました。

今回の国連人権委員会の来日の目的は、日本の数ある人権問題の一つとして性的虐待を取り上げたものです。日本のエンタメ業界の「性的な暴力やハラスメントを不問に付す文化」に言及しながら、コンプライアンス体制を整備するために「透明な苦情処理カニズムを確保することが必要」と求めています [4]

このように、欧米のメディアに大々的に取り上げられ、国連人権理事会からは、この人権問題の是正を求められながら、一方の日本の業界や大手メディア、そして政治の動きはいまひとつです。ジャニーズ問題は業界の音楽家の発言にも波及していて、これをおもしろおかしく取り上げる記事 [5] もありますが、事は重大な人権問題であり、日本の関連組織やメディア、そしてエンタメの視聴者がこれにどう向き合うかが問われているということです。

引用記事

[1] Blair, G. J.: U.N. Report Blasts Response to Johnny Kitagawa Sexual Abuse Scandal. The Hoolywood Reporter August 7, 2023. https://www.hollywoodreporter.com/news/general-news/johnny-kitagawa-sexual-abuse-scandal-un-report-123555831

[2] Azhar, M.: Japan’s J-pop predator - exposed for abuse but still revered. BBC News Maarch 6, 2023. https://www.bbc.com/news/world-asia-64837855

[3] 山口紗貴子: ジャニーズ性加害報道、最初は「1965年」雑誌や書籍の追及はなぜ見過ごされたか. 弁護士ドットニュースコム 2023.05.12. https://www.bengo4.com/c_18/n_15987/

[4] 日本経済新聞: ジャニーズ性加害問題「深く憂慮」 国連人権理事会. 2023.08.04. https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUE037DY0T00C23A8000000/

[5] 仁科友里: 山下達郎松尾潔氏とのケンカが“まるで噛み合ってない” ジャニーズ性加害問題への二人のヤバイ言い分. 週刊女性PRIME 2023.07.16. https://www.jprime.jp/articles/-/28626?display=b

        

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