Dr. TAIRA のブログII

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治っていないコロナの病気を後遺症とよぶべきでない

カテゴリー:感染症とCOVID-19 (2022年)

2022.04.22: 18:24更新

今朝、日本経済新聞のウェブ版に目を通していたら、オミクロン変異体による COVID-19 後遺症が若年層ほど重く、仕事と治療の両立の課題があることが記事になっていました [1]。そして、ツイッター上に、コロナ後遺症専門外来のあるヒラハタクリニック平畑医師の引用ツイートがありました。

当該記事 [1] によれば、を今年 1~3 月に訪れたオミクロン患者 258 人のうち、年代別では 30 代の 29% と最多であり、次いで 20 代と 40 代がいずれも 24% だったということです。主な症状としては強い倦怠感、息切れ、ブレイン・フォグなどであり、仕事を週半分以上休まなければならないほど重い人も 30 代で多かったということです。

私は、この問題の重要性もさることながら、日本の医者やメディアやいまだに後遺症とよんでいることに違和感をもっています。なぜなら、COVID 後遺症の最初の論文報告があり、病気として再認識しようという動きがあり、long COVID という名称が提唱されてからもう 2 年も経つからです(→"Long COVID"という病気)。この名称が提唱された理由の一つとして、後遺症と言葉でこの病気をよぶことは避けよう(つまり後遺症ではない)という意図があります。私はこれに関連して、以下のように引用ツイートしました。

世界保健機関(WHO)は、COVID-19 の後遺症について "post COVID-19 condition"(罹患後症状)として「少なくとも 2 カ月以上持続し、ほかの疾患による症状として説明できないもの」と定義しています [2]。そして、long COVID という名称も紹介しています。ちなみに現在確定した邦訳がないので、私は 2 年前から「長期コロナ症」とよんでいます。

Long COVID の詳細なメカニズムは分かっておらず、確立した治療法もありません。しかし、最近の論文は、COVID-19 患者が最初の症状から回復した後(検査陰性後)も長期間体内にSARS-CoV-2 [3, 4] やそのヌクオチドカプシドタンパク質 [5] を保持する例を報告しています。そして、これが long COVID の症状と関連があるのではという仮説も提唱されています(→SARS-CoV-2の消化器感染と long COVID)。つまり、COVID-19 は慢性疾患を起こす全身性感染症の可能性があるわけであり、long COVIDはその続きの神経症状を主とする病気でもあるわけです。

現在、COVID-19 の治療費は感染症法に基づき国が負担していますが、long COVID の治療は自己負担です。新聞記事 [1] は、「他の患者に症状をうつす可能性がなく、他の病気の後遺症と扱いの区別が難しい」との厚生労働省担当者のコメントを紹介していますが、勘ぐれば、あえて後遺症として区別することで国の関わりの負担を軽減する意図があるのではとさえ思えてきます。うつす可能性がなくなれば COVID でなくなるという、言わば視野狭窄的な見解から厚労省も脱却すべきでしょう。

今日の週刊誌は、岸田政権がどうやら新型コロナ感染症の法律上の扱いをいまの 2 類相当から 5 類にする方針のようだということを伝えています [6]。国によるCOVID-19 流行の制御・管理を外し、long COVID も含めて、すべての受診、治療、ワクチンを自己責任・自己負担とすることで、経済活動をよりしやすくし、一方で国の責任を軽くするつもりかもしれません。

Long COVID の人は、いま世界で1億人いると言われており、withコロナ戦略の下で進行する感染者増大に伴う労働者不足と生産性低下が大きな社会問題になりつつあります(→未来を変え続けるCOVID-19とwithコロナ戦略)。ここで、まだ終息が見えないパンデミックへの対策や long COVID の問題への対応を誤ると、国民の健康や国の労働生産性を大きく損なうことになる危険性もありますが、わが国にその認識はあるでしょうか。

2022.04.22更新

上記のように、政府は、新型コロナの法令上の扱いを現在の 2 類相当から 5 類に引き下げる意向のようだと書きました。しかし、22日の参議院本会議で、岸田総理は、野党側のこの質問(提案)に対して、「5類」に引き下げることについて、「現時点での変更は現実的ではない」との考えを示しました [7]。しかし、COVID-19 の 5 類化は時間の問題でしょう。公衆衛生の維持は別にして、政府にとってその方が都合がよいからです。

引用文献・記事

[1] 高橋耕平、亀田知明: オミクロン後遺症、若年層重く 仕事と治療両立課題. 日本経済新聞 2022.04.20. 23:03 (2022.04.21 5:43更新). https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUE041R70U2A400C2000000/?unlock=1

[2] WHO: Coronavirus disease (COVID-19): Post COVID-19 condition. December 16, 2021. https://www.who.int/news-room/questions-and-answers/item/coronavirus-disease-(covid-19)-post-covid-19-condition

[3] Zuo T et al: Depicting SARS-CoV-2 faecal viral activity in association with gut microbiota composition in patients with COVID-19. Gut 70, 276–284 (2021). http://dx.doi.org/10.1136/gutjnl-2020-322294

[4] Natarajan, A. et al.: Gastrointestinal symptoms and fecal shedding of SARS-CoV-2 RNA suggest prolonged gastrointestinal infection. Med Published April 12, 2022. https://doi.org/10.1016/j.medj.2022.04.001

[5] Cheung, C. C. L. et al: Residual SARS-CoV-2 viral antigens detected in GI and hepatic tissues from five recovered patients with COVID-19. Gut 71, 226–229 (2022). http://dx.doi.org/10.1136/gutjnl-2021-324280

[6] 女性自身: コロナ5類引き下げで医療費が自己負担になる可能性. 2020.04.21. https://news.yahoo.co.jp/articles/9653b110c81ccd8f556ad3f3bc5730586adc5526?page=2

[7] TBS NEWS DIG: 岸田総理、新型コロナ「5類への変更は現実的ではない」 変異可能性や知事権限の制限理由に. Yahoo Japan ニュース 2022.04.22. https://news.yahoo.co.jp/articles/5259277a7842b8cbfc17f6345cfa7756dc1d2d12

引用したブログ記事

2022年4月18日 SARS-CoV-2の消化器感染と long COVID

2022年4月12日 未来を変え続けるCOVID-19とwithコロナ戦略

2020年10月12日 "Long COVID"という病気 

       

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