Dr. TAIRA のブログII

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生ゴミ処理で働く微生物

生ゴミ処理は個人レベルでも簡単に行なうことができます。逆にそのことで、さまざまな自己流や非科学的な方法が蔓延することにも繋がっています。方法としてはデタラメであったり自己流であったりしても偶然にうまくいく場合もあります。結果として生ゴミ処理が成功している場合のプロセスは、ちゃんと調べるとほとんど全部が現在の科学的知識で説明できます。

 
何を言いたいかということですが、科学的に正当な方法でもまったく異なる自己流においても、処理が成功したときの状況は科学的に同じであるということです。
 
これだけではわかりにくいので、たとえば基材で説明してみましょう。インターネット上に溢れる生ゴミ処理の方法において、基材として米ぬか、ピートモス、モミ殻、あるいは園芸土などを奨める記載があります。ほとんどの場合、なぜそれらを使うのかは理由は書いてありません。が、とにかく「これを使いましょう」的なマニュアルになっているわけです。結論からいうとどの基材を用いてもうまくいきますが立ち上がりがまったく異なってきます。時には失敗することもあります。しかし、成功した場合にはどの基材を用いた場合でも最終的に類似した微生物群集の量と質になるということです。
 
重要ポイント
生ゴミ処理では用いる基材に関わらず最終的に同じ微生物の量と質になる
 
最終的に似たような微生物群集構造になるとしたら、最初からその構造に近い微生物を種として生ゴミ処理を始めれば最も効率的に減量化と堆肥化を進めることができるということになります。この最終的な微生物群集構造に最も近い微生物を含む基材は、上記した中では園芸土です。米ぬかはまったく異なる微生物群集を含み、ピートモス、モミ殻は最初からほとんど微生物を含みません。
 
インターネット上、書籍、あるいは自治体などが示す生ゴミ処理マニュアルには、このような事実がほとんど示されておらず、自己流的な色合いが強い記載になっています。なぜ、そのようになるかと言えば、それはいい加減な方法でも多かれ少なかれ成功するからです。
 
生ゴミ処理で働く微生物はどこから来るかというと生ゴミから来ます。生ゴミには沢山の微生物が付着しており、それが基材の中に投入されると、基材を足場にして、生ゴミを分解しながら増殖します。ただし、すべての微生物が増殖するかというとそういうわけではなく、基材と生ゴミ接触面、そして生ゴミの種類に最も適した微生物が優先的に増殖していきます。そして、時間経過とともに分解できないミネラルや難分解物が系内に溜まって行くとアルカリ側に傾き、さらに含水率も低くなって行きますので、これらの条件に適した微生物群集に収束して行きます。
 
このように、生ゴミから常に微生物が供給され、安定した生ゴミ処理系では類似した微生物群集になるので、基材として何を使うかは関係ありません。ただし、園芸土はこの安定した微生物群集に近い微生物を含むので、基材として用いれば立ち上がりが速くなります。また、生ゴミ処理がうまくいっている場合は、その処理物が安定した微生物群集を含むので、新しい基材に換える場合もその処理物を一部植種源として用いれば立ち上がりが速いと言うことになります。
 
このように生ゴミ処理成功の第一の要因は生ゴミに付着している微生物にあり、処理の進行に伴って自動的に変化して行きますから、その成功体験のみに基づいてたまたま最初に使った基材等をマニュアルに「これだ!」と示してあるのです。
 
重要ポイント
生ゴミ処理で働く微生物は生ゴミに由来する
生ゴミ処理が進行すると、アルカリ性、低含水率に強い微生物群集に収束する
●処理物を植種源として用いるのが最も効率がよい
 
それでは実際に生ゴミ処理系の安定期で優占し、働く微生物は何でしょうか。それは放線菌というバクテリア(細菌)です。ただし、放線菌は放射状に伸びるフィラメント状の細胞をもつ菌群を指す言葉であるものの、その形態や長さはさまざまであり、桿菌や球菌の近縁分類群も存在します。これらは分類学的にはアクチノバクテリアという高次分類群に含まれるわけですが、ここではこれらをまとめて放線菌類というという言葉で表します。
 
表1に、生ゴミ処理系に存在する微生物の種類を、下水処理や河川の浄化プロセス(自浄作用という自然に起こる浄化)のそれと比べて記します。
 
市販されている微生物資材の中には「◯◯ぼかし」なるものがあり、全国的に宣伝・販売されています。その中には放線菌とともに、光合成細菌、乳酸菌、酵母が含まれているとの記載があります。そこで、これらの微生物の存在について特に比較してみました。生ゴミ処理系では上記したように放線菌類とそれ以外の好気性バクテリアが優占しており、それら以外はほとんど存在しないか無視できる程度(全菌数の<0.001%)です。この傾向は、下水処理系でも河川の自浄作用でも同じです。
 
表1. 生ゴミ処理系、下水処理系、河川の自浄作用プロセスに存在する主要微生物
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生ゴミ処理で働く放線菌類は、この系で馴化されて優占してくる菌群であり、そのほかの好気性バクテリアは、生ゴミにくっついて侵入し、一時的に増殖するものが多いと考えられます。
 
重要ポイント
生ゴミ処理の安定期で働く主要微生物は放線菌類
 
生ゴミ処理、お堀の浄化、河川の浄化などに「◯◯ぼかし」、「◯◯ダンゴ」なるものが微生物資材として使われているようですが、表1から明らかなように植種源として何ら意味はありません。何を添加しようが、生ゴミ処理系、下水処理系、河川の浄化系において最終的にそれぞれ特異的な微生物群集構造になります。
 
浄化に必要なのは何を加えるのかが重要ではなく(なぜならそれぞれ微生物がすでに存在している)、いかに汚れを分解して二酸化炭素と水に変えるかです。その意味で第一義的に重要なのは酸素(溶存酸素)です。
 
消費者レベルで市販の処理器や微生物資材を購入するのはもちろん自由ですが、自治体や公立校がこれらを支援し、貴重な税金を補助金として使う制度はきわめて問題があると考えています。