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COVID-19 ワクチンの最新情報に見る光と影

カテゴリー:感染症とCOVID-19 (2024年)

はじめに

COVID-19 ワクチンは、mRNA ベースのワクチン(BNT162b2、mRNA-1273)からウイルスベクターワクチ ン(cDNA ベースワクチン、AZD1222、JNJ-78436735)に至るまで、COVID-19 パンデミックの初期から迅速に開発され、早い段階で緊急承認されました。これらの核酸型ワクチン(正確には生物製剤)は、COVID-19 の重症度や死亡率の低下に有効に働き、パンデミックの克服に貢献してきました。

最近では、接種量を軽減できる自己増幅型 mRNA (sa-mRNA)ワクチンも開発され、治験での良好な成績が報告され、世界に先駆けて日本で承認されています。このワクチンは、自己増幅のための設計図が組み込まれており、メーカーは次世代 mRNA ワクチン(レプリコンワクチン)と称しています [1]

一方で、従来のワクチンには見られないほどの多くの接種後有害事象(AE)が、これらの核酸型 COVID-19 ワクチンで報告されています。軽度から重度なものまで、そして最悪は死亡例まで多くの報告がなされています。また、長期コロナ症(long COVID)で見られるような精神疾患に類似した症例が、COVID-19 ワクチンでも報告されています。そもそも、mRNA 技術プラットフォーム自身に関わる問題も残されたままです。

ここでは、このような COVID-19 ワクチンの光と影という面から、最近の文献を拾って紹介します。

1. 自己増幅型 mRNA ワクチン

sa-mRNA COVID-19 ワクチンは、SARS-CoV-2 スパイク(S)タンパク質のみならず、ベネズエラ脳炎ウイルス(VEEV)の構造タンパク質(RNA レプリカーゼ、RNA 依存性 RNA ポリメラーゼ)をコードする RNA が組み込まれているのが特徴です。そのうちの一つ、米国 Arcturus Therapeutics 社によって開発された sa-mRNA ワクチンは、完全長 S タンパク遺伝子(D614G 変異)および VEEV 由来レプリカーぜの遺伝子を含む DNA を鋳型として転写された mRNA を、脂質ナノ粒子(LNP)に封入したものです。製品名はコスタイベ(Kostaive)です [2]

sa-mRNA ワクチンは、接種後に発現した RNA レプリカーゼの作用で一本鎖 RNA を複製できるので、接種量が少量でもスパイクコード mRNA を増やすことができます。接種量が多いことが原因で発生した従来の mRNA ワクチンの副作用が軽減できるという利点が期待されます。

最近、sa-mRNA ワクチンによる治験の結果が相次いで論文として報告されました。そのうちの一つは、日本の研究チームによるもので、2022 年 12 月 13 日から 2023 年 2 月 25 日の間に登録した 828 人の参加者を対象として、4 回目のブースターとしてARCT-154 を接種した群(420 人)と従来の BNT162b2 を接種した群(408 人)に無作為に割り付けて結果を見た研究です [3]

この研究では、ARCT-154 群の SARS-CoV-2 原株に対する中和抗体の GMT(幾何平均力価)は、BNT162b2 群に対して非劣性であり、GMT 比は1.43(95% 信頼区間 1.26-1.63)であったと報告しています。治療に関連した死亡は報告されず、試験ワクチン接種と因果関係があると考えられる重篤な AE も認められなかったとしています。

重篤な AE は 1 例で、ARCT-154 群における肝機能異常が認められ、試験ワクチンとの関連が考えられました。心筋炎・心膜炎の検出で特に注目された AE は、胸痛(ARCT-154群 1 例、BNT162b2群 3 例)と息切れ(BNT162b2 群 2 例)で、いずれもワクチン接種に関連する可能性が十分にあると考えられました。

局所反応は、ARCT-154ワクチン接種群では 398 人(95%)、BNT162b2ワクチン接種群では 395人(97%)から報告され、全身性の AE は ARCT-154 ワクチン群で 276人(66%)、BNT162b2ワクチン接種群で 255人(63%)に認められました。AE の重症度は主に軽度で、ワクチン接種後 3–4 日以内に発現し、消失しました。

もう一つは、ベトナムにおける sa-mRNA ワクチンの治験研究で [4]下図)、上記の論文同様、コスタイベ承認の根拠となったものです。

この研究では、ベトナム人成人を対象とし、ARCT-154 を被験者に 28日間隔で 2 回投与し、生理食塩水プラセボと比較する第1/2/3a/3b フェーズ二重盲検試験を実施しました。免疫原性の結果は、2 回目の投与から 28 日後の中和抗体としての免疫反応として評価しました。2 回目の接種から 4 週間後、94.1%(95%信頼区間:92.1-95.8)のワクチン接種者が中和抗体の血清学的変化を示し、ベースラインからの幾何平均倍率は 14.5 倍(95%信頼区間:13.6-15.5 倍)になりました。

有効性解析の対象となった COVID-19 確定症例は 640 例でしたが、これらの大部分はデルタ変異体(B.1.617.2)感染者です。ARCT-154 の有効性は、いずれの COVID-19 に対しても 56.6%(95%CI:48.7-63.3)であり、重症の COVID-19 に対しては95.3%(80.5-98.9)でした。したがって、ARCT-154 のワクチン接種は、特に重症のCOVID-19 に対して、免疫原性、有効性が高いと考えられます。

安全性および反応原性に関する結果は、各投与 28 日後の自発的に収集した AE、各投与 7 日後の計画に規定した局所および全身性 AE、および試験期間中の重篤な AE で評価しました。第 3b 相試験では、ARCT-154 の忍容性は良好で、一過性の副作用は概ね軽度から中等度でした。

この研究においては、ARCT-154 接種群において、フェーズ1、2 では死亡例は認められませんでしたが、フェーズ3b においては 6 名の死亡が記録されました。しかし、ブラセボ群でも 16 名の死亡が認められていますので、ワクチンとの因果関係がある有意な死亡ではないと著者らは述べています。半数近くは COVID-19 感染による死亡であり、接種群では 1 名これに該当しています。しかし、残りの死亡例について、死因は述べられていません。

この研究で、ARCT-154 sa-mRNAワクチンの COVID-19 に対する臨床的有効性を初めて証明したことになります。すなわち、大規模な研究集団における反応原性と許容可能な安全性と sa-mRNA ワクチンの将来的な臨床使用の可能性を立証するものであると、著者らは強調しています。先行研究において、従来の mRNA ワクチンを上回る sa-mRNA ブースター接種のオミクロンに対する優れた免疫原性を示されていましたが、これを補完する結果でもあります。

2. COVID ワクチン接種後の死亡例

パンデミック初期におけるCOVID-19 ワクチンの急速な開発は、安全性・リスク評価という面では、後回しにして進められてきたきらいがあります。何よりも、COVID-19 で初めて使われた核酸ワクチンは、従来型ワクチンに比べて、AE 報告の多さが目立ちます。これらと相まって、mRNA ワクチンにおける全身的な LNP および mRNA の分布、S タンパク関連組織障害、血栓形成性、免疫系機能障害、発がん性など、傷害の可能性のあるメカニズムに対する関心・懸念につながっています。

最近、米国の共同研究チームによる、COVID-19 ワクチン投与後に死亡した人の剖検および死後分析に関する文献調査の総説が出版されました [5]下図)。ワクチン投与と死亡との因果関係の可能性について考察した力作で、分析結果は下図のように、ハイライトとして列記しています。

この手の論文はなかなか受理されにくく、事実、製薬メーカーと The Lancet による検閲と妨害を受けたようですが(著者の一人による以下のツイート)、最終的にエルゼビアの雑誌の一つに無事掲載されています。

この研究では、2023 年 5 月 18 日までに発表された COVID-19 ワクチン接種に関するすべての剖検報告を文献データベース(PubMed および ScienceDirect)で検索し、得られたすべての検死・剖検結果を分析しています。各文献の報告当時よりも現在は知識が進歩しているため、3 人の医師が独立して各症例を検討し、COVID-19 ワクチン接種が直接の原因か、死亡に大きく寄与したかどうかを判定しました。

最初に、678 件の研究を同定し、一定基準でスクリーニングした結果、325 例の検死例と 1 例の剖検例を含む 44 の論文を解析に組み入れました。その結果、接種者の死亡時の平均年齢は 70.4 歳で、ワクチン接種から死亡までの平均期間は 14.3 日でした。そして、ほとんどの死亡は最後のワクチン投与から 1 週間以内に起こっていました。症例の中で最も関与した臓器障害は、心臓血管系(49%)であり、次いで血液系(17%)、呼吸器系(11%)、多臓器系(7%)でした。21 例では 3 つ以上の臓器系が侵されていました。

これらの死亡例の中で、240 例(73.9%)が、COVID-19 ワクチン接種が直接の原因または有意に寄与したと独立して判定されました。主な死因は、心臓突然死(35%)、肺塞栓症(12.5%)、心筋梗塞(12%)、VITT(7.9%)、心筋炎(7.1%)、多系統炎症症候群(4.6%)、脳出血(3.8%)でした。この検証では、日本での症例を記した論文 10 本が網羅されており、この中には、mRNA ワクチン接種後にサイトカインストームで死亡した 4 人の症例も含まれています [6]

この論文で驚くべきことは、COVID-19 ワクチン接種後に実施された剖検のうち、現在までに公表されているもので、73.9% の症例で COVID-19 ワクチン接種が直接の原因であるか、死亡に大きく寄与していることがわかった、と述べていることです。COVID-19 ワクチンと死亡との間で高い因果関係がある根拠として、今回の分析と過去に報告された COVID-19 ワクチンの重篤な AE で、既知の致死的機序の面で一貫性が見られたこと、研究チームが独立した判定を行ったことを挙げています。

本研究で得られた意義は、COVID-19 ワクチン接種者のうち、基礎疾患を伴わない予期せぬ死亡例にも当てはまります。このような場合、接種後死亡は、COVID-19 ワクチンが原因であった可能性が高いことが推測できます。今回の結果を踏まえ、今後、COVID-19 ワクチンを接種した、あるいは今後接種する予定の多数の人のリスク層別化と死亡回避を目的として、そして死亡の病態生理学的メカニズムをさらに解明するために、さらなる緊急調査が必要である、と著者らは述べています。

今回の論文で強調されていることは、COVID-19 ワクチンを 1 回以上接種したすべての罹患者の剖検を行うべきであるということです。死亡につながる可能性のある重篤な AE がないことを確認するため、COVID-19ワクチン接種者の臨床的モニタリングが接種後少なくとも 1 年間は必要であるとしています。

ちなみに、厚生労働省が公表した 日本の COVID-19 ワクチンの接種後死亡者数は、今年 4 月 15 日時点で 2193 人です。この数字は、これまでのインフルエンザワクチンの接種後死亡者数と比べると桁違いに大きいです。一方で、厚労省がワクチン接種が原因と判定した死亡者数は、2022年と2023年を合わせても 50 人以下です [7]。そして、ワクチン接種後死亡の死因調査の解剖はわずか 1 割と報道されています [8]

上記論文では、接種後死亡の 73.9% の症例がワクチンが原因であり、全て剖検を行うべきであると述べていますが、日本の状況はこれとは随分と乖離があります。

3. COVID ワクチンと精神疾患

COVID-19 パンデミックは、精神衛生に長期的な悪影響を及ぼすことが指摘されてきました。この影響には三つの要因が関わっています。一つ目は COVID-19 罹患自体によるもの、二つ目は、非医薬的介入を含めた生活の変化によるもの、そして三つ目は COVID-19 ワクチンによるものです。

新たな問題として出てきたことは、長期コロナ症(long COVID)の発症ともに、ワクチン接種に関連した AE であり、多くの論文で取り上げられています。COVID-19 時代のメンタルヘルスは未解決の問題であり、多くの研究が COVID-19 との関連に焦点を当てている一方で、COVID-19 ワクチンそのものの結果としての精神疾患、特にワクチン接種後の精神医学的 AE はあまり研究されていません。

今回、韓国の共同研究チームは、COVID-19 ワクチン接種、非接種の計 2 百万人を対象とした精神衛生上の有害事象を調査し、その結果をネイチャー系の雑誌である Molecular Psychiatry(分子精神医学)に発表しました [9](下図)

これまで、COVID-19 を含むウイルス感染後の精神症状のリスク増加が示唆されていると同時に、COVID-19 ワクチン接種後の精神医学的 AE も症例報告としていくつかあります。この研究の目的は、韓国ソウルの大規模集団ベースコホートからCOVID-19ワクチン接種後の精神科的 AE を調査し、実態を明らかにすることでした。

研究チームは、2021 年 1 月 1 日に韓国国民健康保険公団(KNHIS)の請求データベースから被検者を無作為に抽出し、ソウル在住者の50%を対象として調査しました。まず、韓国国民健康保険サービスの請求データベース(NHIS)にある登録者(n =2,027,353)を、COVID-19 ワクチン接種の有無により 2 群に分けました。そして、接種者 1,718,999 人と非接種者 308,354 人のコホートから、接種 1 週間後、2 週間後、1 ヵ月後、3 ヵ月後における、精神医学的 AE の 1 万人当たりの累積発生率を評価しました。精神症状のハザード比(HR)および95%信頼区間(CI)をワクチン接種集団について分析しました。

分析対象者は完全接種をした成人たちおよび非接種の成人です。ワクチンの種類は日本より複雑で、mRNA ワクチンのみが 1,006,805人(49.66%)、cDNA ワクチンのみが 593,766人(29.29%)、混合接種が 118,428人(5.84%)となっています。分析は、ワクチン接種後に精神障害を呈した人のみを対象としており、元々精神的基礎疾患(統合失調症うつ病双極性障害睡眠障害など)を有する人、および 20 歳未満の人は、対象から除かれています。

分析の結果、COVID-19 ワクチン接種後 3 ヵ月における精神障害の累積発症率は、多くの場合、ワクチン接種群が非接種群よりも高くなりました(事例が少ない性障害を除いて 1.3–2.4 倍)。具体的には、ワクチン接種後にリスク増加を示したものとして、うつ病(HR[95%CI]=1.683[1.520-1.863])、不安障害、解離性障害、ストレス関連障害、身体表現性障害(HR[95%CI]=1.439[1.322-1.568])、睡眠障害(HR[95%CI]=1.934[1. 738-2.152])がありました。

しかし、統合失調症および双極性障害は、ワクチン接種群のほうが非接種群よりも累積発症率が低くなりました。具体的には、統合失調症で HR[95%CI]=0.231 [0.164-0.326]、双極性障害で HR[95%CI]=0.672[0.470-0.962]となりました。

ただし、接種したワクチンの種類による影響の違いに注意が必要です。接種後に起こる精神疾患うつ病,不安障害,解離性障害,ストレス関連障害,身体表現性障害,睡眠障害)は、異種混合ワクチン接種の場合に最もリスクが高いことが明らかとなりました。一方、統合失調症の発症はワクチンの種類に関わらず一貫してリスクが減少しましたが、双極性障害は cDNA ワクチン接種のみによって有意にリスクが減少しました。

結論として、COVID-19 ワクチン接種は、うつ病、不安障害、解離性障害、ストレス関連障害、身体表現性障害、睡眠障害のリスクを増加させる一方で、統合失調症双極性障害のリスクを減少させる結果になりました。したがって、COVID-19 ワクチンの追加接種を行う場合、精神医学的副作用に対して脆弱な集団に対しては、特別な注意が必要であると、著者らは述べています。

長期コロナ症の最も一般的な症状が、感染後 6 ヵ月以内に患者の 22% が経験した抑うつ/不安、精神病性障害、脳霧的認知障害(ブレインフォグ)であり、この病気と精神疾患との間にいくつかの証拠が徐々に増えてきています。しかし、長期コロナ症、あるいは精神疾患と COVID-19 ワクチン接種の間には矛盾した報告があります。

一般には、COVID-19 ワクチン接種が、長期コロナ症患者の心理的苦痛を有意に軽減するという報告が多いようです。最近では、長期コロナ症の長期的リスクとして、ギラン・バレー症候群認知障害不眠症、不安障害、脳炎、虚血性脳卒中気分障害を含むさまざまな疾患があるのに対して、COVID-19 の重症度が軽度であることとともに、COVID-19 に対するワクチン接種の増加、異種ワクチン接種などの因子は、これらの神経精神系の有害な転帰の長期リスクを減少させると報告されています [10]

一方で、ワクチン接種に伴う、精神病、うつ病、不安、解離性障害、ストレス関連障害、身体表現性障害など、多くの精神症状が報告されています。今回の研究では、2 つの代表的な精神障害であるうつ病双極性障害は、COVID-19 ワクチン接種に対して対照的な傾向を示しました(前者ではリスクが上がり、後者ではリスクが減少する)。

さらに、今回の研究で強調されていることは、ワクチンの種類によって精神疾患のリスク増減の可能性が異なるということです。例えば、ワクチンと双極性障害の関連で言えば、リスクを下げる方向に働きましたが、この結果は主に cDNA ワクチン接種によるものでした。他の COVID-19 ワクチン接種は双極性障害の発生に有意な影響を示しませんでした。これらの特徴的な所見は、精神疾患、特に双極性障害において、ワクチンの種類による影響の差があることが、十分に考慮されていない可能性を示唆しています。

今回、著者らは重要なことを指摘しています。それは、最近の研究において、mRNA ワクチンには「シフトしやすい配列」があり、N1-メチルシュードウリジンによって誘導されるリボソームの失速の結果として、ワクチン接種後に +1 リボソームフレームシフト産物を誘導することが示唆されているということです。発症機序はまだ不明ですが、S タンパク質による神経炎症が、うつ病、不安障害、解離性障害、ストレス関連障害、身体表現性障害などの精神疾患の発症に関与している可能性があると、著者らは考えています。

4. スパイクタンパク質の長期発現?

mRNA ワクチンの影の部分の一つとして、非常に興味深く、かつ気味が悪いのが、高知大学医学部佐野栄紀特任教授らが発表した論文(Letter to Editor)の内容です [11]。原著が有料なのでアクセスが困難な方には、高知大学のプレス発表が参照できます [12]

mRNA ワクチン接種後に皮膚障害に悩まされる人は結構多いですが、研究チームは、この症例の一つについて報告しました。当該患者は、mRNA ワクチン(BNT162b)3 回目接種直後から全身倦怠感と熱発とともに皮膚症状が出現し、現在まで 2 年以上持続していました。四肢に繰り返す小水疱を発症していましたが、病理所見で、表皮汗管が拡張し、汗が貯留しており、汗疹(あせも)と診断されました。

ところが、驚くべきことに、免疫組織学的染色を施行すると、エクリン汗腺、表皮汗管、および貯留した汗と思われる箇所に、SARS-CoV-2  S タンパクの反応を認めました。患者に COVID-19 感染歴がないため、おそらく mRNAワクチン由来の S タンパクである、と著者らは考えています。

mRNA ワクチンは体内で S タンパクをつくるように設計されていますが、これはもちろん短期間で終了ということが前提になっています。今回の症例では、最後の接種から 2 年が経過しているので、接種された mRNA 分による長期間の合成とは考えにくいです。著者らは長期間 S タンパクが残存するメカニズムは不明としていますが、最も考えやすいのは、mRNA の宿主 DNA への統合が起こり、それが発現しているという可能性です。

mRNA ワクチンは、開発された当初からレトロポジション現象などに関する DNA 統合への懸念がなされていますが、なぜかほとんど検討されていません(→なぜmRNAワクチンのレトロポジションの可能性が無視されるのか)。したがって、mRNA 技術は、常にこの未解決の問題がつきまとっているのです。

おわりに

COVID-19 ワクチン接種の臨床的利益は大きいわけですが、それにもかかわらず、ワクチン接種後の AE の多さという矛盾した結果を生んできました。それでもリスク・ベネフィット比は低いということで世界中で接種プログラムが進められ、現在も更新中です。

sa-mRNA ワクチンは接種量を大幅に低減できるという点で、少なくとも従来の 接種量に起因する AE は低減できる可能性があります。しかも取り扱いがはるかに容易であるという利点もあります。これから、従来の mRNA ワクチンに取って代わることになると思われます。

それでも、mRNA プラットフォーム自体の根本的問題、すなわち健康体に遺伝情報を投入することの是非、スパイクコードワクチンの是非、その遺伝情報がゲノムに組み込まれる潜在的リスクの可能性は残されたままです。何よりもmRNAワクチンの接種後死亡を含めた有害事象数は、インフルエンザワクチンのそれと比べて非常に大きいというのは事実であり、その事実に触れないまま mRNA ワクチン自体の接種後死亡数は稀というのは偽善的でしょう。

さらに、sm-mRNA の場合は、レプリカーゼタンパクが新たな抗原として獲得免疫の標的になりはしないか、という新しい懸念もあります。

長期コロナ症とワクチン接種に起因する精神疾患は、症状が類似し、かつ多様であり、診断や管理がより困難になっています。軽度の精神症状から精神障害に至るまで世界的に精神疾患の懸念となっており、COVID-19 とワクチン接種の合併症の傾向も出てきています。

今後、mRNA ワクチンのリスク/ベネフィット比を、これまでのワクチンと比べながら適切に評価し、それを具体的に社会に対象者に伝えていくことが、より一層重要になるでしょう。安全性というより、リスクの幅と程度の伝え方が重要だと思われます。これまでの日本でのこの手の情報伝達は、緊急性に即応せざるを得なかったとしても、きわめて曖昧で、いい加減なものであったことは否めないでしょう。

引用文献

[1] Meiji Seika ファルマ株式会社: 新型コロナウイルス感染症に対する次世代 mRNA ワクチン(レプリコン)「コスタイベ筋注用」の国内製造販売承認取得に関するお知らせ. 2023.11.23. https://www.meiji-seika-pharma.co.jp/pressrelease/2023/detail/pdf/231128_02.pdf

[2] Meiji Seika ファルマ株式会社: コスタイベ筋注用に関する資料. https://www.pmda.go.jp/drugs/2023/P20231122002/index.html

[3] Oda, Y. Et al.: Immunogenicity and safety of a booster dose of a self-amplifying RNA COVID-19 vaccine (ARCT-154) versus BNT162b2 mRNA COVID-19 vaccine: a double-blind, multicentre, randomised, controlled, phase 3, non-inferiority trial. Lancet Infect. Dis. 24, 351–360 (2024).

[4] Hồ, N.T., Hughes, S.G., Ta, V.T. et al. Safety, immunogenicity and efficacy of the self-amplifying mRNA ARCT-154 COVID-19 vaccine: pooled phase 1, 2, 3a and 3b randomized, controlled trials. Nat. Commun. 15, 4081 (2024). https://doi.org/10.1038/s41467-024-47905-1

[5] Hulscher, N. et al.: A systematic review of autopsy findings in deaths after covid-19 vaccination. Forensic Sci. Intern. Published online June 21, 2024. https://doi.org/10.1016/j.forsciint.2024.112115

[6] Murata, K. et al.: Four cases of cytokine storm after COVID-19 vaccination: Case report. Front. Immunol. 13, 967226 (2022). https://doi.org/10.3389/fimmu.2022.967226

[7] 奥山はるな: コロナワクチン接種が死因、人口動態で初計上 23年は37人. 毎日新聞. 2024.06.05. https://mainichi.jp/articles/20240605/k00/00m/040/024000c

[8] 新谷千布美、山根久美子: 死因調査の解剖、わずか1割 コロナワクチン、接種後死亡の約2千人. 朝日新聞デジタル. 2023.08.02. https://digital.asahi.com/articles/DA3S15706399.html

[9] Kim, H. J. et al.: Psychiatric adverse events following COVID-19 vaccination: a population-based cohort study in Seoul, South Korea. Mol. Psychiatry. Published online June 4, 2024. https://doi.org/10.1038/s41380-024-02627-0

[10] Kim, S. et al.: Short- and long-term neuropsychiatric outcomes in long COVID in South Korea and Japan. Nat. Hum. Behav. Published online June 25, 2024. https://doi.org/10.1038/s41562-024-01895-8

[11] Sano, S. et al.: SARS-CoV-2 spike protein found in the acrosyringium and eccrine gland of repetitive miliaria-like lesions in a woman following mRNA. J. Dermatol. Published online April 1, 2024. vaccination. https://doi.org/10.1111/1346-8138.17204

[12] 高知大学プレス: 佐野栄紀特任教授らの研究チームの論文が「The Journal of Dermatology」に掲載されました. 2024.04.10. https://www.kochi-u.ac.jp/information/2024040900029/files/20240410press.pdf

[11] 石田雅彦: 各地で相次ぐ提訴、新型コロナ「ワクチン」その効果と「副反応」を考える . Yahoo Japan ニュース. 2024.06.26. https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/6b2f448364ad7b236acc7e30d6fb44e94c5d8ed5

[12] 新谷千布美、山根久美子: 死因調査の解剖、わずか1割 コロナワクチン、接種後死亡の約2千人. 朝日新聞デジタル. 2023.08.02. https://digital.asahi.com/articles/DA3S15706399.html

引用したブログ記事

2022年10月31日 なぜmRNAワクチンのレトロポジションの可能性が無視されるのか

        

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