梅雨の時期になると植木鉢などにススホコリ(Fuligo septica)が生えてくることがあります。ススホコリは、キノコような、あるいはカビのような感じで生えてくる奇妙な生き物で、変形菌(真正粘菌)と呼ばれる仲間の一種です。
ススホコリを含めた変形菌は、菌体が動物のように移動する変形体と、固まって動かないキノコの様な子実体という異なった姿を見せます。写真1は、ススホコリの黄色い子実体が植木鉢の端に生えてきた状態で、まるで、揚げたトンカツのように見えます。
写真1
写真2は植木鉢の中の土壌表面や苗の茎に子実体が形成されている様子を示します。ところどころに、変形体(栄養体)が這っている姿も見えます。
写真2
子実体は割ってみると、黒いススのような埃が出てきますが、これが名前の由来です。この黒いススの正体が胞子であり、一つ一つの大きさは7–10μm ほどになります。この大きさから見れば、微生物の仲間ということになります。
ススホコリの子実体は一見不気味な感じを与えますが、人畜無害です。作物の食害もありません。湿気が好きで、湿った土の中の微生物(細菌)を食べて生活しています。
変形菌は、動物でも植物でもカビでもない不思議な生物です。図1は、カール・ウーズ(米国)という著名な生物物理学・微生物学者のグループによって報告された生物界の分子系統樹 [1] の改変図で、この中ではslime mouldsと俗称されている位置が変形菌に該当します。
もう少し詳しく変形菌の系統的位置を示したものが図2です。真核生物は、形態的に、動物(animals)、植物(plants)、菌類(カビ、fungi)、原生生物(protists)に大別されており、原生生物を除いて、分子系統的にもそれぞれまとまったグループを形成しますが、変形菌はそのどれにも属さない独自の進化・系統的位置にあります [2]。
変形菌や原生生物の仲間は分子レベルではきわめて多様性があり、その結果、形態的特徴に基づく古典的分類体系は大幅に改変されつつあります。文献的に変形菌やススホコリを調べてみましたが、研究例が少なく、学名を伴う階層分類はまだ流動的な状態であると感じました。
参考文献
1. Worse, C. R. et al.: Towards a natural system of organisms: proposal for the domains Archaea, Bacteria, and Eucarya. Proc. Natl. Acad. Sci. U. S. A. 87, 4576-4579 (1990). https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC54159
2. Baldauf, S. L. and Doolittle, W. F.: Origin and evolution of the slime molds (Mycetozoa). Proc. Natl. Acad. Sci. U. S. A. 94, 12007–12012 (1997). https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC23686/