今朝のNHK「チコちゃんに叱られる」を観ました。テーマの一つが「炊きたてのごはんがおいしいのはなぜ?」というものでした。放送でのこれに対する答えは、「炊きたてはαデンプンなのに、時間が経つとβデンプンに戻るから」でした(図1)。これについて補足解説したいと思います。
図1. 炊きたてのごはんが美味しいわけ(2018.6.30 NHK「チコちゃんに叱られる」より)
米の主成分はデンプンです。その含有量は精製段階で少し変わってきますが、50%白米では約80%です。デンプンはグルコースが直線的につながったアミロースという糖鎖と、分岐鎖があるアミロペクチンという糖鎖から成ります(図2左上)。
天然米のデンプンでは、糖鎖間が水素結合でつながった結晶状態にあり、これをβデンプンと呼んでいます。この状態の米はとても硬くておいしくありません。しかし、水分が与えられ(図2左下)、加熱・炊飯されると、水素結合が分断され、糖鎖が自由になり、水分が入り込んで糊化した状態になります。この状態のデンプンをαデンプンと呼びます(図2中央)。
炊きたてのご飯は、水分をほどよく含んだαデンプンの状態にあって適当な弾力と柔らかさをもつのでおいしいわけです。しかし、これを保存すると水分が抜け、元のβデンプンに近い状態になり、炊きたてのおいしさがなくなります。これを老化と呼んでいます(図2右)。
放送では、「時間がたつとβデンプンに戻るから」と言っていましたが、これは厳密に言うと正確ではありません。正しくはβデンプンに戻るのではなく、元の状態に近い老化デンプンになるだけです。これは「β'デンプン」とも呼ばれています(図2右)。
図2. 炊飯、保存による米のデンプンの変化(糊化と老化)
炊きたてのご飯が美味しい理由はもう一つあります。デンプンが糊化することによって、だ液中の酵素(アミラーゼ)との反応性が急激に大きくなることです。したがって、老化したものよりも炊きたての方が酵素がよくはたらき、より多くの糖(グルコース)を生成して甘く感じられます(図3)。
図3. 炊きたてのごはんが美味しいわけ–酵素のはたらきでより多くの糖を生成する(2018.6.30 NHK「チコちゃんに叱られる」より)
放送では、天然米のデンプンをβデンプン、糊化デンプンをαデンプンと呼んでいましたが、これは日本だけで用いられている呼称で国際的には使われていません。実は、別途グルコースにはαグルコースとβグルコースという種類があって、α、βデンプンとの名称が紛らわしいので注意が必要です。
図4上に示すように、αグルコースは、六角形の基本構造の1と4の位置にあるOH基が同じ方向を向いていますが、βグルコースでは、1, 4のOHが逆向きになっています。したがって、αグルコースがα-1,4結合でつながるとデンプンになり、βグルコースがβ-1,4結合するとセルロースという別の多糖になります(図4下)。
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