はじめに
なかでも日本経済新聞の調査結果によれば、内閣支持率が52%と過半数を超えました。しかし、これにはカラクリがあって、1次回答で「支持・不支持」と答えなかった人(無回答・わからないとした人)に対して、「お気持ちが近いのはどちらですか」と二次質問をし、その結果を上積みしています[1]。他社の調査と比べるとしたら、1次回答の結果(内閣支持率46%)を用いるべきだと思います。
JNNの調査でも、選択肢が「支持する」、「どちらかといえば支持する」、「支持しない」、「どちらかといえば支持しない」、と選択肢が多くなっていますので、前2者が積算されると支持率は当然上がります。他社の「支持・不支持」(および無回答)の選択肢の結果とは直接比べられません。
かなり下がっていた安倍内閣支持率がここにきてやや持ち直しているのはなぜか、いろいろと考えられることはありますが、ここでは男女別や年齢層別に見て、支持率に変動を与えている何らかの傾向が見いだせるか、検証してみました。
関連の分析は、以下の記事に示しています。
●世論調査に見る男女・世代間のギャップ-1
1. 分析に用いたデータ
以前にも述べましたが(https://blogs.yahoo.co.jp/rplelegans130/16302876.html)、世論調査の結果を男女別や年齢層別のデータとして詳細を公表しているメディアはほとんどなく、私が手に入れることのできるものは朝日新聞のそれしかありません。そこで今回も朝日新聞のデータ [2] を用いました。今年の1月から6月までのデータをダウンロードし、男女別、年齢層別に傾向を分析しました。
2. 男女別・年齢層別による内閣支持率
これを男女別、年層別に見ると図1のようになります。男性の場合、18-29歳の若年層で最も支持が高く、60-69歳層で最も支持が低いという従来の傾向が見られました。不支持はこの逆になります。また、女性の方は、年齢層で多少のデコボコはあるものの、男性ほどの支持率における世代間のギャップはありませんでした。女性の方が男性よりも支持率が低いのも従来の傾向です。
この半年間における男女別、年齢層別にみた内閣を支持する割合のデータを図2、内閣を支持しない割合のデータを図3に示します。
男性の場合、60-69歳の年齢層で最低として、若年層側と最年長側に支持率が上がっていく傾向はこの半年間変わっていません(図2上)。女性の場合は、全年齢層において支持率が低い傾向もこの半年間保たれています(図2下)。加えて、全体で見れば女性よりも男性の方において、安倍内閣支持率が高い傾向も続いています。
このように内閣支持率でみれば、男女間での差異があり、男性ではさらに世代間ギャップがあるという特徴が見られます。男女間で比較的差異がないのは60-69歳の層であり、最も男女差が大きいのは18-29歳の層です。これらの傾向は時系列とは関係なく見られることから、安倍政権になってからの日本における構造的な特性であると考えられます。
内閣の不支持率については男女間の年齢層で同様な傾向を示し、男女間の差異はあまり認められませんでした(図3)。一方、世代間のギャップは男女とも大きいことがわかります。
3. 内閣支持率に変動を与える層
上記図2, 3のデータで、各年齢層における月別の棒グラフのデコボコが大きいほど、その年齢層が全体の内閣支持率に影響を与えていると考えることができます。そこで男女の各年齢層における支持率、不支持率の半年に亘る標準偏差(d)を求めてみました。 そしてその標準偏差値を半年の平均値(x)で割った値を、補正値として比較してみました。
その結果を表1に示します。年齢層別では明確な傾向を見ることはできませんでしたが、男女間の支持率で比較すると男性のd/x=0.16に対して女性は0.25となり、不支持率でみると男性のd/x=0.17に対して女性は0.23となりました。すなわち、若干ですが、男性よりも女性の意向が内閣支持率の変動により影響を与えていると考えられます。
そこで、過去半年間で安倍内閣の支持率が最も下がった月の一つである4月と今月を比べてみました。すなわち、6月の支持率と4月の支持率の変化(Δ[6月–4月])を男女・年齢層別に算出しました。
図4にみられるように、男性では全体で1ポイントの支持率上昇に止まっているのに対し、女性ではいずれの年齢層でも支持率が上がり、全体で12ポイントの上昇となっていました。朝日新聞の調査データに見る限り、6月における支持率回復には、女性の回答がよりポジティヴに影響していると言えそうです。
図3. 男女別、年齢層別にみた6月と4月の安倍内閣支持率の比較
4. 男女別・年齢層別による政党支持率
男性においては各年齢層の内閣支持率と自民党の支持率は良い相関があり、60-69歳層を最低(28%)として若年層側と最年長側に上昇していく傾向が認められ、18-29歳層で最も高い自民党の支持率(46%)となりました(図4上)。野党第一党の立憲民主党の支持率においては、上記と逆の傾向を示し、60-69歳において最も高い18%となりました。
女性においては、若年層において自民党支持率が高いというわけではなく、むしろ最年長の層で42%と最も高くなりました(図4下)。これには、若年層において支持政党なしという回答が多いことが影響しています。
図3(内閣不支持率)において、世代間のギャップは男女とも大きいことがわかった、と述べましたが、支持政党でみると、このギャップの中身が男女で違うようです。すなわち。安倍内閣に批判的な男女60-69歳層に対して、男性若年層は安倍支持・自民党支持に流れているのに対して、女性若年層は無党派的・無関心的な傾向があります。
男性と比べた場合、女性の方が自民党支持が低いというのは従来の傾向です。立憲民主党については、やはり60-69歳層で13%と最も高くなりました。しかし、男女とも若年層には浸透していないことがわかります。
おわりに
今回の分析結果は、基本的に前回の分(https://blogs.yahoo.co.jp/rplelegans130/16302876.html)と一致するものになりました。まとめると以下のようになります。
●男性の場合、安倍内閣支持率は、60-69歳層を最低として若年層側と最年長側に向けて高くなる
●安倍内閣支持率は、男性18-29歳層で最も高い
●女性の場合、安倍内閣支持率は、年齢層間の差があまりみられない
●安倍内閣支持率は男性よりも女性の方で低い
●内閣支持率の変動は、女性の回答がより影響している
最近の日本には、政治への思考性において、男女間および男性における世代間ギャップがある構造的な特性があると考えられます。すなわち、現在の安倍内閣に対しては、男性60-69歳層や女性を中心とする批判的見方がある一方、男性若年世代(とくに40歳以下)による堅い下支えがあることがわかります。男性若年世代においては、ウェブ情報の選択圧を受けやすい傾向や反知性的思考性があるのかもしれません。
参考文献およびデータソース